遺伝子組換え食品(読み)いでんしくみかえしょくひん

日本大百科全書(ニッポニカ)「遺伝子組換え食品」の解説

遺伝子組換え食品
いでんしくみかえしょくひん

バイオテクノロジー技術のなかの遺伝子組換え技術を応用した食品で、すでに商品化されている。英語のgenetically modified foodを略してGM食品ともよばれる。日本国内で製造・輸入・流通・販売されている遺伝子組換え食品は、すべて、科学的知見に基づいて食品安全委員会の専門家が安全性を評価しており、食品としての安全性が確認されたものである。具体的には、農作物のように直接食べる食品と食品添加物などに分けられるが、2015年(平成27)11月12日の時点で、ダイズ、ナタネ、ジャガイモ、トウモロコシ、ワタ、テンサイ、アルファルファ、パパイアの8作物(303品種)と、酵素などの21品目の食品添加物が認められている。

[飯野和美 2016年5月19日]

沿革

世界で初めて商品化された遺伝子組換え作物GM作物)は、1994年にアメリカで発売されたフレーバー・セーバー・トマトFlavr Savr tomatoである。トマトは熟すると果皮が柔らかくなりやすく長持ちしないが、過熟の遅い日持ちのよいトマトができれば生産者にはメリットが大きく、また消費者も完熟した新鮮なトマトが食べられる。これが遺伝子組換え作物の商品化の背景である。このフレーバー・セーバー・トマトは、果実が崩れにくく完熟した状態で収穫・流通ができ、アメリカのほかカナダ、メキシコなどでも認可されたが、日本では販売されなかった。このトマトに代表されるように、初期の組換え食品としての組換え作物では、生産者側のニーズにこたえる技術開発が中心であった。一方、世界の人口が増大するなか、食料不足への対応策が必要であるという大きな命題が絶えず存在しており、その要求はますます高まっている。そして、食料生産性向上のための方法の一つとしてGM作物の研究開発が進められている。

[飯野和美 2016年5月19日]

作物への遺伝子導入方法

作物に遺伝子を導入する方法には数種あるが、そのなかでもアグロバクテリウム法とパーティクルガン法がおもな方法としてあげられる。アグロバクテリウム法は、土壌中に存在する細菌であるアグロバクテリウムの植物に寄生する力を利用して目的の遺伝子を導入する方法である。またパーティクルガン法は、目的の遺伝子を金などの金属粒子(パーティクル)の表面に付着させて作物に直接打ち込む方法である。

[飯野和美 2016年5月19日]

安全性の審査

安全性は大きく二つの側面から確認されている。一つは毒性やアレルギー、栄養などを含めた食品としての安全性で、日本では厚生労働省が担当しており、農産物も食品添加物も審査を受けなければいけない。さらに遺伝子組換え農作物の場合は、その栽培が生物多様性に影響を及ぼすおそれがないことについての評価も必要であり、これは農林水産省が担当する。遺伝子組換え食品の安全性や表示に対する消費者の関心は世界的に高いが、日本でも2001年4月の規制改正によって、「安全性評価指針」に基づいた遺伝子組換え食品の安全性審査が法律的に義務化された。さらに2003年、食品安全委員会が設立されたうえに、遺伝子組換え食品の国際的な基準等と整合性をとった新しい「安全性評価基準」が定められた。この基準ならびに日本の食品全般の安全性確保の基本法である「食品衛生法」(昭和22年法律第233号)に基づき、遺伝子組換え食品の製造や輸入や販売についての審査体制が整った。現在は、食品安全委員会の最終的な評価結果を踏まえて、厚生労働省が最終判断をしたもの以外の製造や輸入ならびに販売は禁止されている。

[飯野和美 2016年5月19日]

安全性と表示

情報を把握したうえで商品を選択したいという消費者の要求にこたえて、2001年4月から遺伝子組換え食品の表示制度がスタートした。組成などが従来の食品と同等でない組換え農産物、たとえば高オレイン酸ダイズや、同等であっても一定の条件に該当するものについて表示が義務づけられた。さらに2015年4月、食品全般の表示を統一的に管理する「食品表示法」(平成25年法律第70号)が新たに施行された。遺伝子組換え食品もこの食品表示制度のもとに属するが、具体的な表示の基準は従来の表示に関するルールと同様であり、消費者庁(2009年設立)が担当する。

[飯野和美 2016年5月19日]

組換え食品の課題

遺伝子組換え食品は、食糧の安定増産などに貢献すると期待され、現段階では除草剤耐性や害虫抵抗性の遺伝子を導入した作物が多いが、一作物中に複数の遺伝子を導入したものも実用化されている。将来は低アレルギー米などが登場するはずである。しかし消費者の不安感や地球全体の生物への影響等の長期的課題も存在する。また、日常化する食品の国際流通への対応として、国際的な機関であるコーデックス委員会の専門委員会で遺伝子組換え食品の表示について検討されている。遺伝子組換え食品のような新技術のパブリック・アクセプタンス(社会的受容)を、行政の活動の一環として積極的に推進する方策が求められるが、消費者も情報の理解に努める必要がある。たとえば厚生労働省や農林水産省や消費者庁、地方自治体等のホームページでも、遺伝子組換え食品等についての情報が入手できる。

[飯野和美 2016年5月19日]

『藤原邦達著『遺伝子組み換え食品を考える事典――光と影を正確に見極めるために』(1999・農山漁村文化協会)』『熊谷進・杉山純一・足立泰二他著『食の安全――遺伝子組み換え食品、残留農薬、BSE、環境ホルモン』(2003・エヌ・ティー・エス)』『元木一朗著『遺伝子組み換え食品との付き合いかた――GMOの普及と今後のありかたは?』(2011・オーム社)』

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百科事典マイペディア「遺伝子組換え食品」の解説

遺伝子組換え食品【いでんしくみかえしょくひん】

ある生物の遺伝子の一部を種の異なる生物の遺伝子に組み込んで,本来持っていない性質を持たせた作物を原材料とする食品。ウイルス耐性,除草剤耐性,害虫に対する毒素の生産能力,日持ちのよさ,草丈の短縮などの性質を付与することで,栽培コストの削減を図るのが目的。1994年米国で開発されたトマト〈フレーバー・セーバー〉が遺伝子組換え作物の実用化第1号。実が熟しても軟らかくなりにくいため,輸送しやすく店頭での日持ちもよい。以後,米国やカナダなどで開発が相次ぎ,米国では1997年−1998年度のダイズの全作付面積の10%以上を遺伝子組換えダイズが占める。 日本では1996年,厚生省が〈組み換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全評価指針〉を作成し,食品としての安全性や生態系への影響などをチェックすることになった。この結果,欧米のバイオ企業から申請のあった除草剤耐性ダイズ・ナタネ,害虫抵抗性バレイショ・トウモロコシなど4作物7品目の安全性を認め,同年から輸入が始まっている。国内でも開発が進み,輸入物とあわせて徐々に増えている。現在市場に出回っている遺伝子組換え作物の多くは食用油,豆腐,醤油,ビール,ポテトチップスなどの加工用原料に用いられるため,遺伝子組換え作物を原料にしている食品の表示義務化を求める要望が多く出されており,安全性は確認済みとして表示義務化には消極的だった厚生省も1999年8月,ダイズ,トウモロコシ,ジャガイモなどの関連28品目につき表示義務化を決めた(2001年4月から実施)。 米国,カナダでも表示義務はないが,EUでは一部にラベル表示を義務づけることが1998年に決まった。また,オーストラリアやニュージーランドでは明確なガイドラインを作成しているほか,オーストリアやルクセンブルクのように遺伝子組換え作物の輸入を禁止している国もある。このように各国で対応がわかれている事態に対して,安全性確保の面から遺伝子組換え食品の国際取引ルールの取決めを求める声が出ており,生物多様性条約加盟国の専門家会議などが検討,2000年1月バイオセーフティ議定書が採択された。
→関連項目JAS世界食糧サミット品種改良

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「遺伝子組換え食品」の解説

遺伝子組換え食品
いでんしくみかえしょくひん
food developed through gene recombination

遺伝子組換え技術を応用し自然にはない性質をもたせた食品をいう。害虫や除草剤に強い性質や長期保存がきく性質をもたせた食物など,組換え体そのものを直接食べる食品のほか,チーズ生産用の酵素や食品添加物など,直接口にはしないものに組換え技術を利用した食品などがある。1994年アメリカ合衆国では長期間変質しないトマトをはじめ十数種の品種が認可され,日本では 1996年に,ダイズ,トウモロコシ,ナタネ,ジャガイモの 4種類 7品種の遺伝子組換え食品の安全性が認められ,販売が許可された。2018年までに,8種類 300品種以上が認められている。遺伝子組換え食品の表示については,食品表示基準に基づき,表示ルールが定められている。

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