食品衛生法において、「食品の製造の過程において又は食品の加工若(も)しくは保存の目的で、食品に添加、混和、浸潤その他の方法によつて使用する物」(4条2項)と定義されているもの。2006年(平成18)現在360品目の化学的合成品と、約1200品目の天然物がある。天然物は既存添加物(450品目)、天然香料(約600品目)、添加物として使用される一般飲食物(約100品目)の三つに分類される。このうち天然香料と一般飲食物で添加物として使用されているものを除くほかの添加物については、「人の健康を損なうおそれのない場合として厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定める場合」(10条)にだけ販売や加工、使用、貯蔵、輸入、陳列などをしてよいと規定されている。また、厚生労働大臣が「公衆衛生の見地から、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、販売の用に供する食品若しくは添加物の製造、加工、使用、調理若しくは保存の方法につき基準を定め、又は販売の用に供する食品若しくは添加物の成分につき規格を定めることができる」(11条)と規定している。
[河野友美・山口米子]
添加物を用途から分類すると、甘味料、着色料、保存料、酸化防止剤、糊料(こりょう)(増粘剤、安定剤またはゲル化剤)、発色剤、漂白剤、防かび剤、イーストフード、梘水(かんすい)、ガムベース、香料、酸味料、調味料、豆腐用凝固剤(凝固剤)、チューインガム軟化剤、乳化剤、pH調整剤、膨張剤、苦味料、酵素、光沢剤、強化剤、殺菌料、結着剤、保湿剤、保水剤、小麦粉改良剤、製造用剤、醸造用剤、皮膜剤、品質改良剤、品質保持剤、抽出剤、吸着剤、色調安定剤、溶剤、消泡剤、固結防止剤、防虫剤、発酵調整剤、離型剤などがあり、おもなものを次に説明する。
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甘味をつけるための添加物。化学的合成品にはサッカリン、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ソルビトールなど、天然物にはステビア抽出物、甘草(かんぞう)抽出物などがある。甘味をもつだけでなく低エネルギー性や低う触性を特性とするものもある。
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食品に色をつけるためのもの。化学的合成品にはタール系色素とそのアルミニウムレーキ、鉄クロロフィリンナトリウム、銅クロロフィリンナトリウムなど、天然物にはカラメル、ウコン色素、赤キャベツ色素などの天然添加物と抹茶などの一般飲食物添加物とがある。
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食品の保存を目的とする添加物。化学的合成品にはソルビン酸とそのカリウム塩、安息香酸とそのナトリウム塩など、天然物にはウド抽出物、ペクチン分解物などがある。また、亜硫酸ナトリウムなどの漂白剤も保存の目的で用いられる。
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脂肪分の多い食品や油脂製品、ビタミンA・Dなどを含むものでは、保存する場合に脂肪などの成分が酸化し、食品の風味低下や、健康上よくない影響を与えることが多い。これを防止するために酸化防止剤が食品添加物として許可されている。酸化防止剤にはアスコルビン酸、エリソルビン酸、BHA、BHT、dl-α-トコフェロール(ビタミンE)などの化学的合成品と、セサモール、茶抽出物など多くの天然物がある。
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食品に加えて滑らかさや粘性を増したり、乳化の安定、ゼリーの形成などの目的に使われる添加物。アイスクリームやドレッシングなどでは安定剤、ケチャップやソースなどでは増粘剤、ジャムやゼリーではゲル化剤と表示される。化学的合成品にはアルギン酸塩類、メチルセルロースなど、天然物にはアルギン酸やペクチンなどがある。
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肉の加工品の色をきれいに発色させるなど食品中の色素を安定にすることを目的とした添加物。ハム、ソーセージなどの肉の加工品や魚肉製品、イクラやたらこなどの原料に使用すると色素が安定化して加熱による褐変を防ぐことができる。化学的合成品の亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウムの3種類があり、亜硝酸ナトリウムは食中毒菌であるボツリヌス菌の対策としての役割が大きい。
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漂白の目的で使用されるもので、多くは保存料、酸化防止剤としても使用される。化学合成品の亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム、二酸化硫黄(いおう)などがあり、エビのむき身、ゼラチン、こんにゃく粉、乾燥果実、煮豆、かんぴょう、フキをはじめ、サクランボその他の果実加工品など、かなり使用範囲が広いが、ほとんどの漂白剤はゴマ、豆類、野菜には使用が禁止されている。
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食品の香りづけ、におい消しに用いられるもの。オレンジ油など有効成分を天然品から抽出したものと、化学的に合成したものとがある。香料を形態から分類すると、水溶性の香料でエッセンスとよばれるもの、エッセンスの芳香成分をプロピレングリコールなどに溶かした油性香料、香料成分を乳化剤を用いて水中に分散乳化させたクラウディーともよばれる乳化香料、香料成分を乳化液にして、これに植物性ゴム質などの賦形剤を加えて噴霧乾燥した粉末香料などがある。
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食品にうま味をつけたり味を向上させるために用いるもの。酸味料、甘味料、苦味料は味をつける添加物であるが、別に区分されている。化学的合成品にはL-グルタミン酸、L-グルタミン酸ナトリウム、5'-イノシン酸ナトリウム、5'-グアニル酸ナトリウムなどがある。天然物にはタウリン、アスパラギンなどがある。また、コハク酸などの酸味料も味の向上を目的に使用されている。
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油と水を乳化する作用をもつ食品添加物をいう。乳化の目的のほか、起泡、浸透などの働きもある。マーガリン、アイスクリーム、ドレッシング、ショートニングの製造などに広く利用されている。化学合成品にはグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルなど、天然物にはレシチン、大豆サポニンなどがある。
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不足しがちの栄養素を補うことを食品の強化といい、この目的で添加するビタミン、無機質、アミノ酸などがある。種類および使用例としては、ビタミンA(マーガリン)、ビタミンB1(米、小麦粉)、ビタミンB2(みそ)、ビタミンC(菓子、果汁)、カルシウム化合物(乳製品、菓子)などがある。
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主として殺菌の目的で用いられるもので、野菜、果実、器具、容器、食器などの殺菌用として使用される。高度さらし粉、過酸化水素、次亜塩素酸などが用いられる。最終製品の完成前に分解、除去しなければならず、そのため表示は免除される。
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食品製造時に使用して製品に効果をもたらすもの。化学的合成品には結着剤としてのリン酸塩類と、小麦粉改良剤としての臭素酸カリウムなど、天然物には活性炭、タンニンなど、一般飲食物にはエタノール、卵白などがある。結着剤としてのリン酸塩は、ピロリン酸塩、ポリリン酸塩、メタリン酸塩、リン酸塩などのグループがある。いずれも、食品中にあると、加工時に作用して褐変(かっぺん)の防止、水に溶けにくい物質や溶けない物質を安定性のよい懸濁(けんだく)液にする、沈殿物ができるのを防ぐ、肉類などの結着、保水、水溶液の粘性増加、冷凍による変化の防止など、実に広い用途をもっている。このため、ハム、ソーセージのような食肉加工品、ちくわ、かまぼこのような魚肉練り製品、その原料となる冷凍すり身、清涼飲料、みそ、アイスクリーム、チーズなど多くの加工食品に添加する。小麦粉改良剤の臭素酸カリウムは、グルテンの性質をよくしてパンのきめを細かくする。
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食品添加物は食品とともに毎日摂取されるので、急性毒性がないことはもちろん、長期にわたって摂取した場合でも、慢性毒性や発癌性(はつがんせい)、アレルギー性などのおそれがあってはならない。添加物の指定にあたっては動物試験による一般毒性試験のほかに、繁殖試験、発癌性試験、催奇形性試験、抗原性試験、変異原性試験、一般薬理性試験、体内動態試験などによって安全性の評価を義務づけている。しかし、その安全性については、複合汚染による毒性や、品目によっては毒性試験データが不十分といった未解決の部分がある。そのため、過度に添加物に依存しない食生活にすることが必要である。
添加物の規定は国によって差があったが、WHO(世界保健機関)とFAO(国連食糧農業機関)の合同によるコーデックス委員会によって、世界共通の規格や使用基準がつくられている。
[河野友美・山口米子]
1989年(平成1)の厚生省令改正より、食品に使用した添加物は原則としてすべてのものが表示されるようになった。実際の表示においては、物質名だけの表示方法以外に、
(1)用途名と物質名の併記(甘味料、着色料、保存料、糊料、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防かび剤の8種)
(2)用途名のみ(香料、調味料など)
(3)表示の免除〔加工助剤や原料由来(キャリーオーバー)〕
などの場合がある。
[河野友美・山口米子]
『厚生省編『食品添加物公定書第7版』(1999・日本食品添加物協会)』▽『日本食品添加物協会暮しのなかの食品添加物編集委員会編『よくわかる暮しのなかの食品添加物』(2000・光生館)』▽『小見邦雄・山田隆・西島基弘著『食品添加物を正しく理解する本――Q&Aファイル101』(2002・工業調査会)』▽『日本輸入食品安全推進協会編著『食品添加物インデックス――和名・英名・ENo.検索便覧』(2002・中央法規出版)』▽『湯川宗昭著『さらにやさしい食品添加物』(2004・食品化学新聞社)』▽『日本食品添加物協会編・刊『世界の食品添加物概説 JECFAと主要国の認可品目リスト』(2004)』▽『食品と科学社編・刊『食品添加物便覧 2005年版』(2005)』▽『食品衛生研究会監修『食品添加物の使用基準便覧 新訂版』第38版(2005・日本食品衛生協会)』
食品の製造過程で,または食品の加工,保存の目的で,食品に添加,混和,浸潤その他の方法によって使用するもの。人類は大昔は,日々の食料を自分の周りの野山などから得ていた。初めは食料を貯蔵する手段をもっていなかったので,たくさんとれれば腐らせてしまったし,とれなければ空腹を抱えなければならなかった。やがて,煙を用いて肉を薫製にしたり,塩を用いて塩蔵することを知り,一度にとれた食料を長い間貯蔵することができるようになった。このことが,人類の寿命を長くしている一つの原因といわれる。ここで用いられた煙とか塩こそが食品添加物の始まりである。近世になり産業革命が起こると,産業の基盤は農業から工業へと移り,人口も都市に集中するようになった。このため,農村でとれた食料を都市へ移動する必要が生じ,また,多くの食料を一度におおぜいに供給する必要も生じた。それは,食料に加工をほどこし,保存性を増した加工食品の誕生を招いた。さらに第2次大戦後,流通部門の合理化が進み,小売段階ではスーパーマーケットによる大量販売方式が普及し,ますます加工食品の増加が進んでいる。現在,日本で供給される食料の60%は加工食品であり,食品添加物の重要性は増している。
日本の食品衛生法では,食品添加物を最初に述べたように定義しているが,世界各国でも同じような定義がなされている。また,むやみに食品添加物が使用されないように,各国とも法規により,その使用を制限している。制限の仕方としてはポジティブリスト方式と,ネガティブリスト方式がある。前者は,使用してよい添加物を定め,それ以外は一切使用を認めないという方式で,現在,先進国ではこの方式をとっている。後者は,逆に,使用してはならない添加物を定め,それ以外は使用を認めるもので,日本も第2次大戦前まではこの方式をとっていた。しかしこの方式では新しい添加物の規制が後手にまわり,好ましい方式とはいえない。また,添加物には,化学的に合成したものと天然物から抽出したものがあり,日本では,一部の例外を除いて化学的に合成したもののみ添加物として規制していたが,アメリカやヨーロッパ諸国にならって現在は,天然物であっても添加物として規制している。しかしその範囲は,例えば薫蒸剤の取扱い,包装材料の取扱いなどを含むところもあり,国によってまちまちである。
食品の保存性を増すもの,食品の嗜好(しこう)性を増すもの,栄養を強化するもの,食品の品質を改善するもの,食品の製造過程で用いられるものに大別される。食品の保存性を増すものには,微生物による腐敗を防止するソルビン酸,安息香酸などの合成保存料,次亜塩素酸などの殺菌料,酸化による変敗を防止するジブチルヒドロキシトルエン(BHT),ブチルヒドロキシアニソール(BHA)などの酸化防止剤がある。食品の嗜好性を増すものには,色をよくする着色料(食用色素),色を白くする漂白剤(食品漂白剤),ハムやソーセージなどに用いる発色剤,甘みを増強する甘味料(合成甘味料),香りをよくする着香料(食品香料)がある。また栄養を強化するものには各種ビタミン,アミノ酸,カルシウム塩などがある。食品の品質を改善するものには,小麦粉の製パン性を向上させる臭素酸カリウムなどの小麦粉改良剤,ミョウバンなどの膨張剤,アイスクリームなどに用いる繊維素グリコール酸ナトリウムなどの糊料,保水性をよくする重合リン酸塩などがある。食品の製造過程で用いられるものには,油の抽出に用いるヘキサンなどの抽出剤,脱色に用いる活性炭,不純物の除去に用いるタルクなどがある。1997年10月1日現在,日本では化学的合成品349品目,天然物489品目の食品添加物が許可されている。アメリカでは,天然物や包装材料を含むので約2500種が許可されている。
食品添加物は,不特定多数の人が長い期間にわたって摂取するものだから,その安全性には強い注意をはらわなければならない。国際的にもFAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)が共同して食品添加物専門家委員会を組織しており,世界中で使用している食品添加物の安全性評価を行っている。日本でもその評価を尊重しつつ,独自に安全性試験を実施し,安全性に疑いがあるものは使用禁止としている。最近では,チクロやAF-2に発癌性が明らかとなり,使用が禁止された。
→食品 →食品衛生
執筆者:田島 真
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(的場輝佳 関西福祉科学大学教授 / 2007年)
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
食品製造の過程において,食品の加工,保存などの目的で使用される化学的合成品.食品添加物公定書に収載されている物質に限定され,添加物の規格,使用基準,純度試験法などの規格が定められている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…(4)その他の食品 キノコ類,山菜類などの林産物,食塩などの鉱物性食品,油脂類,調味料,香辛料,嗜好飲料,菓子類,醸造食品,そして化学合成品が含まれる。このうち,鉱物性食品は食塩が主要なものであるが,そのほか,豆腐製造に用いる〈にがり〉など食品添加物として用いられるものがある。化学的合成品は,文字どおり食品添加物であるが,天然のセルロースを化学的につくるカルボキシメチルセルロースなどは,アイスクリームの主成分で,食品といってよい。…
…その後,食品工業の発達と食品衛生行政の重要性の増大に伴い,本法は,1957年の大幅改正を含むいくつかの改正を加えられ今日に至っている。本法による規制の対象となる物質は,食品(医薬品と医薬部外品を除くすべての飲食物)のほかに,食品添加物,器具,容器包装にも及び,また,規制の対象となる営業行為は,製造,輸入,加工,調理,貯蔵,運搬,販売等広範囲にわたっている。このうち,食品と食品添加物の規制の概要は,次のとおりである。…
※「食品添加物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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