生物多様性(読み)セイブツタヨウセイ(英語表記)biodiversity

翻訳|biodiversity

デジタル大辞泉 「生物多様性」の意味・読み・例文・類語

せいぶつ‐たようせい〔‐タヤウセイ〕【生物多様性】

いろいろな生物が存在しているようす。生態系多様性しゅにおける多様性、遺伝子の多様性など、各々の段階でさまざまな生命が豊かに存在すること。バイオダイバーシティー。

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共同通信ニュース用語解説 「生物多様性」の解説

生物多様性

地球の長い歴史の中で生まれた多様な生き物や、それらが互いにつながった生態系の豊かさを示す考え方。種の多様性、生態系の多様性、同じ種でも遺伝子が異なる遺伝的多様性の3種類があるとされる。保全や持続可能な利用を国際協力で進めるため、1992年に生物多様性条約が採択された。遺伝資源の利用で生じた利益の公正配分も条約の目的に含まれる。人は食べ物や水の供給気候の調整など多くの恩恵を受けるが、生物多様性は環境汚染気候変動などで急速に失われている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「生物多様性」の意味・わかりやすい解説

生物多様性
せいぶつたようせい
biodiversity

地球上の一つの場所で見出される生命の多様さ,あるいは地球に存在する生命全体の多様さ。多様さの一般的な尺度である種の豊かさは,ある地域におけるの総数を表す。ただ,種の数は地域間の違いをある程度表すことはできるが,多様性の唯一の尺度とはならない。生物多様性とは,種の多様性だけでなく,種がもつ遺伝子の多様性や,種がつくりだす生態系の多様性を網羅する概念である。種の多様性は,種によってその重みが異なる。その評価基準の一つは,その種の分類学上の上位群(,綱,など)の多様性である。ある属はたった一つの種しかもたず,別の属は数百もの種をもつ。どちらの属に含まれる種がより重要であるかは,こうした種の多さを考慮しながら判断することになる。種の多様性はまた,希少な種が生息する環境に固有の多様性という観点から評価される。地域によってはそこにしか生息しない固有種があり,生息域が狭い固有種は,より広い地域に生息する種よりも人間活動の被害を受けやすい。種の遺伝子の多様性は,同じ種であっても遺伝子によりさまざまな形質の違いを生じさせる。また個体ごとに,異なる病気に対する耐性をもたらす可能性がある。生物多様性は,種が形成するさまざまな生態学的共同体(→群集)をも包含する。一般的に,森林と草原からなる地域の生態系は,異なる種が存在するため,森林だけからなる地域よりも多様化しているとみられる。生態系の多様性を定量化する方法は,対象地域のさまざまな生態学的共同体を記録することである。(→生物多様性条約

地球の生物多様性の地図は非常に不完全である。約 190万種の生物には学名がついているが,地球上に生きている種の総数は,約 1000万と推定されている(菌類除外)。つまり,まだほとんどの種が発見・命名されていない。現在の新種を特定する速度では,すべての種に学名がつくまでに約 1000年はかかってしまう。そのため,ある地域で調査を行なったとしても,すべての種を数えることは難しく,生物多様性の尺度としては不完全だと考える必要がある。また,名前のある約 190万種のうち,約 3分の2が 1ヵ所からのみ見つかっている。さらに多くの種は,1個体のみ,もしくはかぎられた数の個体しか見つかっていない。そのため,種内の遺伝的変異の調査はさらに難しく,生物多様性の尺度としては慎重に扱う必要がある。

気候変動の影響が増大し,農業漁業狩猟といった人間活動の範囲が広がっているため,絶滅や個体数の減少は急激に増加している。「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム」IPBESによる 2019年の報告では,最大 100万種の動植物が人間の活動により絶滅の危機に瀕しているという。多数の固有種を含む豊かな生物多様性をもちながら破壊の脅威にさらされている地域はホットスポットとして地図化され,政府や非政府組織の保護活動に役立てられている。

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百科事典マイペディア 「生物多様性」の意味・わかりやすい解説

生物多様性【せいぶつたようせい】

あらゆる生物種(動物,植物,微生物)と,それによって成り立っている生態系,さらに生物が過去から未来へと伝える遺伝子を合わせた概念。生物多様性は多様な生命の存在を尊重し,それを持続・保全する社会や生活の実現を目指すエコロジー思想の基礎概念の一つとして重要な位置を占めている。今日,地球上に生息する生物種は300万種から3000万種の間といわれるが,熱帯雨林などの森林伐採や開発,地球温暖化による気候変動,オゾン層破壊による紫外線の増加,海洋の汚染,酸性雨などによって,野生生物の種の絶滅が30億年余りの生命の歴史上かつてない早さで進行している。生物多様性は,このような状況を背景に,野生生物の保護,自然資源の保全・管理,地球環境保護の観点からも重要な概念となっている。近年,多様な生物の保全や人類との共存に本質的価値を認める倫理的な考え方に加えて,バイオテクノロジーによる品種改良や医薬品の開発という観点からも野生生物種を人類にとっての貴重な資源として保全することを求める声が強まっている。日本では生物多様性条約をふまえて,1995年生物多様性国家戦略が策定され,2007年には第三次生物多様性国家戦略を閣議蹴決定。2008年生物多様性基本法が国会で可決された。→生物多様性条約
→関連項目アマゾニア生態系破壊世界自然保護基金総合地球環境学研究所特定外来生物

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知恵蔵 「生物多様性」の解説

生物多様性

ある生物群系、生態系、または地球上に多様な生物が存在している状態、および進化の過程で多様な遺伝子プールが過去から未来へと受け継がれている状態を指す概念。生物学的多様性(biological diversity)とも言われる。
環境省は「生物の多様性に関する条約」で、生物多様性を、「すべての生物(陸上生態系、海洋その他の水界生態系、これらが複合した生態系その他生息又は生育の場のいかんを問わない)の間の変異性をいうものとし、種内の多様性、種間の多様性及び生態系の多様性を含む」と定義しており、ここに示されているとおり、生物多様性には「生態系の多様性」「種の多様性(種間の多様性)」「遺伝子の多様性(種内の多様性)」という3つのレベルの多様性がある。
「生態系の多様性」は、森林、里山、河川、湿原、干潟、サンゴ礁、乾燥地など地球上に多様な環境が存在し、それぞれに適応した種、個体からなる特有の生態系が存在することをいう。地球上には、現在までに約180万種の生物に名前が付けられているが、未知の生物を含めると数千万種から1億種の生物がいると考えられている。これを「種の多様性」という。
さらに、同じ種でも遺伝子が異なり、形質の多様性を生じ、多様な環境に適応した個体が生存して種を維持することを可能としている。これを「遺伝子の多様性」という。

(葛西奈津子  フリーランスライター / 2010年)

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農林水産関係用語集 「生物多様性」の解説

生物多様性

生物の間にみられる変異性を総合的に指すことばで、生態系(生物群集)、種、遺伝子(種内)の3つのレベルの多様性により捉えられる。従って、生物多様性の保全とは、様々な生物が相互の関係を保ちながら、本来の生息環境の中で繁殖を続けている状態を保全することを意味する。

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