日本大百科全書(ニッポニカ) 「都市社会主義」の意味・わかりやすい解説
都市社会主義
とししゃかいしゅぎ
municipal socialism
近代産業の発達に伴い激化する労働問題、貧困問題、都市問題という社会問題を改良する一手段として、19世紀末に主張された社会主義思想と運動。イギリスのウェッブ夫妻を指導者とするフェビアン主義によって代表される。市政改革の一環として、電気、ガス、水道、都市交通機関などの公益事業の公有化や保健、衛生、教育の公営などが主張され、グラスゴー、バーミンガムなどの工業都市で部分的には実行された。生産手段の所有、生産の決定、指揮および経営の職分掌は、消費者ならびに市民の民主制にゆだねられることによって初めて能率の保持、社会的利益の保護が得られるという観点から、地方自治体は社会改良の主体として期待され、このような公共事業の市有・共有あるいは市営を通じて、市民の公約的な利益にサービスしていくという方法によって漸進的に社会主義の実現が図られた。
わが国においては片山潜(せん)が、都市問題の解決を市民の自治に求め、市民の市政参加を主張するなかで、選挙権の拡大(普通選挙権)とともに、公共事業の市有・公有を要求した。「斯(この)問題を討究研鑽(けんさん)するに従ひ、愈々(いよいよ)余をして都市問題の解決は、社会主義に依(よ)らざるべからざるを悟らしめた」(『都市社会主義』1903)。安部磯雄(あべいそお)が『都市独占事業論』(1911)において強調したのも市営事業の実現であった。
[村上義和]