配偶型(読み)はいぐうがた(その他表記)mating system

改訂新版 世界大百科事典 「配偶型」の意味・わかりやすい解説

配偶型 (はいぐうがた)
mating system

有性生殖をする動物は,その生涯においていつかは異性とめぐり合い,子孫を残すための営みを行わなければならない。そのとき雄・雌間に結ばれるつがい関係のあり方を配偶型(人間における婚姻制度に対応するもの)という。つがい関係が雄・雌1個体どうしの間で結ばれるか,複数のものと結ばれるか,あるいは特定のつがい関係が存在しないかで配偶型を類別し,それぞれ一夫一妻制,一夫多妻制,一妻多夫制,乱婚制の四つに分類することができる。一夫多妻制と一妻多夫制を総称して複婚制polygamyという場合もある。自由に動ける動物の場合,少なくともある期間,継続したつがい関係が存在するには,つがい相手の識別能力が発達していなければならないので,無脊椎動物では配偶型の発達の度合は低く,脊椎動物の中でも鳥類哺乳類において特によく発達している。

1匹の雄と1匹の雌が一定の期間にわたってつがい関係を形成する場合をいう。つがいでいる期間の長さは種類によって異なり,1繁殖期間中に次々と相手を変えるものから,十数年にもわたって同じつがいが続くものまである。一般に鳥類では一夫一妻制が広く見られ,現生鳥類の92%がそうであるといわれる。しかし,鳥でも長年にわたって一夫一妻のきずなが保たれるものはそう多くはなく,ミズナギドリ類やアホウドリ類のような海鳥,ツル類,ハクチョウ類,ワシ類などのような大型で寿命の長い鳥に多い。ただし最近では標識した長期にわたる観察結果から,小鳥類でも相手が生きているかぎりつがい関係が継続するものがいくつも知られるようになった。一夫一妻制はとくに,雛に与える食物が得にくい鳥とか,雛が一人前になるまでに時間のかかる晩成性の雛を育てる鳥でよく発達しているが,これは両親が協力して雛に餌を運ばないと雛がうまく育たないためと考えられている。

 哺乳類では鳥類とは逆に一夫一妻制は少なく,全体の3%以下という。テナガザル類ほかの若干のサル類,キツネなどイヌ科の大部分,ネコ上科のマングースの仲間の一部,砂漠や乾燥地にすんでいる齧歯(げつし)類のあるものやビーバーなどが,一夫一妻のきずなを守っている。哺乳類は鳥類と比べてひじょうに長い妊娠期間をもっており,しかもその後,長い授乳期間がつづく。雌はこの間ずっと子にしばられていなければならず,一方雄はほとんどの直接的育児活動から解放されるため,その間に他の雌と次々に交尾する機会をもつことができ,一夫多妻や乱婚が進化したと考えられている。

 爬虫類で,一夫一妻のつがい関係が確立しているのが知られているのはワニ類だけで,ナイルワニでは孵化(ふか)後6~8週間も両親がつきそって子ワニを守る。両生類では,トノサマガエルヒキガエルなど長い抱接期間をもっているものでは,基本的に1匹の雄は1匹の雌としか抱接しないが,つがいといえるかどうかは疑問である。魚類では口内哺育をするシクリッド科の魚のように,一夫一妻で稚魚を保護するものもある。またメクラハゼの類はつがいで卵のある穴を守る。

 無脊椎動物では,甲殻類で脱皮の際に雄が雌を守り(ときには脱皮を手伝い),雌が脱皮をすませたあと交尾するものがいるが,雄は複数の雌とこうして交尾するので真の一夫一妻とはいいがたい。ただ1種,ヒトデを食べるエビHymenocera pictaで永続的なつがい関係が知られており,雄はライバルと闘って雌を守る。昆虫類ではモリゴキブリの1種Cryptocercus punctulatusが雌の産室を防衛して一夫一妻のつがい関係を保つのが知られている。砂漠にすむレオミュールワラジムシHemilepistus reamuriiは雄と雌が一つの穴にすみ,協力して巣穴を防衛し,子どもが生まれると給餌まで行う。しかし,総じて無脊椎動物ではつがい関係は希薄である。

 一夫一妻制の中には,群れ生活をしていながらその中の1匹の雄と1匹の雌のみがつがい関係をもち,他のメンバーはヘルパーhelper(手伝い)としてその繁殖を手伝う協同繁殖というシステムもある。魚類,鳥類,哺乳類で知られており,先に生まれた子どもが親を手伝って弟妹の世話をする場合が多い。日本にすむ鳥ではエナガオナガ,北アメリカのフロリダカケスやメキシコカケス,南アメリカのミゾハシカッコウ,オーストラリアのゴウシュウムシクイ類,フエガラス類など,アフリカ~東南アジアではミツスイ類,ハチクイ類,ヒメヤマセミなどが協同繁殖種である。哺乳類ではリカオンオオカミセグロジャッカルなどの群れ(パックpackと呼ぶ)がこうしたシステムをもち,狩りに出た親以外の個体の子も食物を吐きもどして餌を与えられる。しかし,こうしたシステムをもつものでは,その交尾関係が詳細に観察されているものはほとんどなく,ヘルパーなのか実際の親なのかわからないものが多い。

 一夫一妻制におけるひとつの大きな問題は〈婚外交尾〉といわれる現象である。集団営巣性のサギ類やカモ類でよく見られ,雌がつがい相手以外の雄と交尾する現象である。また,なわばり雄の精巣を除去しても雌が受精卵を産んだというハゴロモガラスの実験もあることから,一夫一妻といっても,厳密に遺伝的に父性が保障されてはいないようである。

1匹の雄が複数の雌と同時的に配偶関係をもつ。いっぽう雌はそれぞれがただ1匹の雄とのみつがい関係をもつものをいう。繁殖期に雄がなわばりをつくって雌集団を待ちうけるシカやサイの場合のように,1繁殖期間中に,次々と相手を変えてつがう場合を連続的一夫多妻制successive polygynyというが,これは基本的には短期間の一夫一妻制の連続と考える方がよい。なぜなら,その場合にはおそらく雌も次々と相手を変えてつがっているはずだから,雌の側から見れば連続的一妻多夫制successive polyandryが生じているからである。

 鳥では一夫多妻制のものは全体の5%以下といわれ,日本にすむ鳥ではセッカ,オオヨシキリ,ミソサザイなどがこれにあたる。しかし,普通は一夫一妻制の鳥でも,ときどき一夫二妻や一夫三妻が出現する例が知られている(シジュウカラやセグロセキレイ)。一夫多妻がなぜ生じるのかについて,北アメリカでセジロミソサザイやハゴロモガラス類を研究したオリアンズG.H.Oriansらは,一夫多妻制は環境が不均質で,雄のなわばりの質に大きな差が存在する場合に出現すると考え,次のような仮説を唱えた。つまり,つがい相手の選択権が雌にあると仮定した場合,雄のなわばりの質に差があると雌はすでに他の雌とつがっているよいなわばりの雄を選ぶか,未婚ではあるが悪いなわばりの雄を選んで一夫一妻になるかの選択をせまられる。もし第二雌になればなわばりの質はよくても当然雄からの保護や子育ての手助けをあまり期待することはできない。ゆえに,雌の選択は両者のなわばりの質にどれだけ差があるかによって決まるというものである。この説を批判する有力な仮説はまだ現れていないが,なわばりの質よりも子どもによい遺伝子を伝えるために雄の質の方がたいせつだという主張もある。

 一方,哺乳類の大部分は一夫多妻,あるいは乱婚であるといわれる。アフリカのウガンダプークーやグラントシマウマのような群れをつくる有蹄類は,その中に小さなハレムharemをつくるものが多い。また,南アメリカ高地のビクーナも周年一夫多妻群を維持している。霊長類の中では,ヒヒ類(マントヒヒやゲラダヒヒ)がハレムを単位とする大きな集団をつくることが知られている。ゾウアザラシ,オットセイ,トドなどの海獣が繁殖期に小島に集まって一夫多妻の大きなハレムを形成し,優位雄がほとんどの交尾を独占するのもよく知られた事実である。

 鳥類,哺乳類以外の脊椎動物で一夫多妻のつがい関係が知られているものはほとんどないが,シクリッド科の魚のあるものでは,数匹の雌のなわばりを雄がカバーし,一夫多妻になっているものがある。昆虫では,ホオズキカメムシの雄が複数雌のいる食草を守り,一夫多妻のハレムを形成することが知られている。

1匹の雌が複数の雄と同時的につがい関係をもつ。この場合,子の世話はほとんど雄のしごととなる。一妻多夫制は動物全般を通じてひじょうに少なく,よく研究されている鳥の場合でも,ミフウズラ類,レンカク類,ヒレアシシギ類,タマシギ,一部のシギ類などに知られているのみであるが,その多くは連続的一妻多夫制である。これらの鳥に一妻多夫制が進化した原因はなんだろうか。ミフウズラを除き,これらの種はすべてツンドラや湿地に生息する鳥である。たとえばツンドラでは繁殖期間がひじょうに短く,しかもその間に多量の餌がいっせいに発生する。そうした場合に,もし子育てのすべてを雄にまかせられるとすると,一妻多夫制は繁殖力を最大限に高めるにはひじょうに有効な方法であろう。なぜなら,卵を産めるのは雌だけだからである。同時的に一妻多夫が起こる確実な例はニュージーランドの谷間にすむクイナ科の水鳥シロボシオグロバンである。この鳥では兄弟一妻婚が知られ,巣立ちした雄の兄弟が分散していって雌を見つけるとトリオのつがいになり,いっしょになわばりを守ったり,巣作りをしたりする。雄間には順位があり,優位雄が3分の2,劣位雄が3分の1の割合で雌と交尾する。

特定の雄・雌間につがい関係が存在せず,雄は複数の雌と,また雌も雄よりは少ないが複数の雄と交尾を行う。ただし,多くの場合は,ニホンザル,チンパンジー,ピグミーチンパンジーなどのように一定の組織された群れで生活している動物について使われる言葉であり,単独性の哺乳類などは不特定の雄・雌が交尾していても乱婚制とはいわない。単独性の動物とは雄・雌間につがい関係が生じるのは交尾の時点のみで,それ以外は両性とも単独で生活しているものをいう。無脊椎動物,魚類,両生類,爬虫類のほとんど,そして哺乳類のかなりの部分がこのタイプであろうと考えられる。交尾が1匹の雄と1匹の雌の間でしか行われないものも多い。

 鳥ではレックlekと呼ばれるおもしろい社会行動をともなう乱婚制もある。これはエリマキシギやソウゲンライチョウなどに見られるもので,毎年,繁殖期になるとこれらの雄はアレナarenaと呼ばれる集団踊場へやって来て,儀式的な誇示行動を行う。それによって順位がきまり,高順位のものがそこへやって来る雌のほとんどと交尾をし,雌はそののち単独で営巣し,ヒナを育てる。

 以上のように,動物は自己の有する生理的制約およびどんな所にすんで,何をどのように食っているかという生態的条件によって,子孫を最大に残せるような配偶型を採用している。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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