日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒトデ」の意味・わかりやすい解説
ヒトデ
ひとで / 海星
starfish
棘皮(きょくひ)動物門ヒトデ綱Asteroideaに属する海産動物の総称。またはそのなかの1種。体は平たく硬い星形で、中央から放射状に伸びた腕をもつ。海岸の浅瀬から深さ数千メートルの深海まで分布し、世界で1500余種、日本近海からは約200種が知られる。
[重井陸夫]
形態
腕は普通5本あるが、種類によっては8~16本のものもまれではなく、40本近いものもある。また、本来5腕の種が4本あるいは6本もつこともまれではない。腕の部分がほとんどなく、全体が五角形のものもある。体色は一般に鮮やかで、赤、青、黄、紫、茶、あるいはそれらの入り混じったものなどさまざまである。体は無数の小骨板が寄り集まってできているために硬くて重い。それぞれの骨板は靭帯(じんたい)や筋肉で結ばれていて、体をねじ曲げることができる仕組みになっている。骨板の上は薄い表皮で覆われている。体の背面や側面に棘(とげ)をもつものもある。また、叉棘(さきょく)というごく小さいピンセットのような棘の変形物をもつものもあり、皮鰓(ひさい)というアワ粒ほどの小さな呼吸用の袋を体の背面に無数にもつものもある。体の下面中心には口があり、口の部分から各腕の先端へ向かって歩帯溝という溝が走っている。溝の縁には管足が対(つい)をなして規則正しく並んでいる。腕の最先端部の管足は対をなさず、吸盤を欠き、基部に赤い眼点がある。体の内部には、口に続く部分に胃があり、盲嚢(もうのう)、生殖巣、水管系、血洞系、神経系が放射状に伸びて腕の先端近くまで達している。肛門(こうもん)のないものも多いが、ある場合には背面の中心に小さく開く。背面の中心近くには多孔板(たこうばん)といういぼのような部分があり、外界と水管系とをつないでいる。
[重井陸夫]
生態
体の移動には管足を用いる。岩の上にすむものは、管足の先の吸盤を岩に吸着させ、多数の管足の働きで体全体を片方へ押し進めながら、じわじわとはい進む。砂泥の上にすむものは、管足で砂泥をかき分けるようにしながら進む。ほとんどのものが肉食で、動きの鈍い動物、とくに二枚貝を好み、巻き貝、多毛類、小形甲殻類、棘皮動物、あるいは魚貝類の死骸(しがい)なども食べる。また、砂泥中の腐食物を食べるものもある。摂食方法は、餌(えさ)をそのまま口の中へ取り入れるものもあるが、胃を反転して口から外へ押し出し、体外消化を行うものが多い。その場合、たとえば二枚貝を食べるときには、まず貝の上にのしかかって抱きかかえるような姿勢をとり、貝殻の両側に多数の管足を吸い付けて引っ張り開けようとする。長時間のうちには、貝の殻を閉じる筋肉は疲労して貝殻がすこし開くので、すきまから胃を中に差し込んで消化を始める。
繁殖期になると雌雄はおのおの放卵、放精し、海中で受精がおこる。受精卵から孵化(ふか)した幼生は普通、浮遊生活に入るが、直接親が保育する種も多数ある。無性的に体全体が分裂したり、腕の自切によって増えるものもある。腕は一般に切れやすいが、再生しやすく、1本の腕から完全な個体を再生する例もある。
[重井陸夫]
ヒトデとよばれる種
本来、動物群の総称を特定の種の名前にあてることは望ましくないが、学名Asterias amurensisという種について、古くからヒトデという和名が与えられている。キヒトデあるいはアムールヒトデの名でよばれることもあるが定着していない。この種は日本産ヒトデ類のうちもっとも普通のものの一つで、各地の内湾の砂泥上あるいは港の岩壁などに群生している。腕の長さは15センチメートル以上になり、付け根がややくびれ、表面がざらざらしている。東京湾以南では全身黄色のものが多いが、東北地方や北海道方面のものは青や紫色の地に一部黄色が混じったものが多い。ホタテガイ、カキ、アサリ、ハマグリ、アコヤガイなどの養殖場の貝類を食い荒らす有害動物で、かつて東京湾で大発生したことがある。九州以北、日本海、黄海、北太平洋の浅海に分布する。
[重井陸夫]
人間生活との関係
前述のように養殖場の二枚貝を食害する有害動物として古くからよく知られている。利用価値はほとんどなく、一部のものが生物学の研究材料や室内アクセサリー、あるいは肥料として用いられるにすぎず、食用にはならない。
[重井陸夫]