翻訳|chimpanzee
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霊長目オランウータン科チンパンジー属に属する類人猿。クロショウジョウとも呼ばれる。西アフリカのセネガル,ギニア,シエラレオネから,ナイジェリア,カメルーン,コンゴ民主共和国の北半,ウガンダおよびタンザニアの西部にかけて分布している。おもに熱帯多雨林に生息しているが,ギニアとタンザニアでは,乾燥疎開林にも進出している。3亜種が認められており,西アフリカに分布するニシチンパンジーP.t.verus,中央アフリカに分布するチェゴチンパンジーP.t.troglodytes,コンゴ民主共和国から東アフリカにかけて分布するケナガチンパンジーP.t.schweinfurthiiに分けられる。なおピグミーチンパンジーは同属だが,別種。
頭胴長は,雄が80~90cmで雌は70~80cm,体重は,雄が40~50kgで雌は40kg前後である。下肢に比して上肢はよく発達して長く,樹上での腕わたり(ブラキエーション)に適した体形をもっている。地上を四足歩行で長距離にわたって移動することも多い。地上歩行は,軽く握った手の指の中節の背面を地面につけて歩く(ナックル・ウォーク)。全身の体毛は黒い。若い個体の顔の色は淡色を呈するが,成長するにつれて黒くなる。幼い個体は,肛門の部分に白い毛の房をもつが,これは成長するに従って消失する。また成体では,雌雄を問わず前頭部がはげるものがある。脳容量は,雄が約380cm3,雌も約350cm3に達する。ゴリラの雄の脳容量(約530cm3)には及ばないが,テナガザルの脳容量(約100cm3)よりはるかに大きい。
チンパンジーは,20~100頭程度の,複雄複雌の単位集団を形成する。各単位集団は一定の遊動域をもつが,植生によって20~500km2という大きな変異を見せ,乾燥するほど広面積をカバーするようになる。隣接する単位集団の遊動域間には30%内外の重複が見られるが,集団は互いに避けあう傾向が強い。隣接集団間には明確な優劣関係が存在し,劣位集団は優位集団を避けて遊動する。発情した雌が単位集団を離脱し,異なる集団に移籍することはよく観察される。しかし,おとなの雄が集団間を移籍した例はない。
チンパンジーの一つの単位集団は,全成員が一つのまとまりをなすこともあるが,多くはさまざまな大きさの小集団に分かれて遊動域内を遊動している。小集団のメンバーシップは流動的で,離合集散を繰り返すが,その構成によって,母親と子どもたちの集団,おとなの雄だけからなる集団,おとなの雄と子どもをもたない雌からなる集団,すべての性・年齢階層を含む混成集団などに分けることができる。このうち,母親と子どもたちの集団とおとなの雄ばかりからなる集団がもっとも強い結合を示す。おとなの雄の間には直線的な順位関係が認められ,彼らが単位集団の遊動域を共同で他集団から防衛し,単位集団の核になっている。小集団のサイズは,主要な食物である果実が豊富に実る季節に大きく,果実が少ない季節には小さくなる傾向がある。
別々に遊動していた二つの小集団が出会うと,激しい音声の応酬,枝揺すりなどの示威行動,さらに接近して,キス,握手,抱擁などの挨拶行動が見られる。このほか,劣位のチンパンジーが優位者に近づいてその体に触れたり,手を差し出したりして緊張を解く〈宥和(ゆうわ)行動〉や,逆に優位者が劣位者に手を差し出したりして劣位者の緊張を解く〈いたわり行動〉なども見られる。また,食物を所有している者に対して,片手の平を上にして差し出すと,所有者が食物を分け与える〈物乞い(ものごい)=分配行動〉も見られる。このような社会行動の発達は,チンパンジーの単位集団内の離合集散性や開放性の基盤になっているものと考えられる。
チンパンジーは,毎夜樹上で枝を折って簡単なベッドをつくって就眠する。朝,ベッドから出た直後と,夕方,眠る前の2回に集中的に採食する。昼間は,毛づくろいをしたり睡眠をとったりして休憩することが多い。子どもの遊びはこの時間帯によく見られる。道具を用いての〈アリ釣り〉などが見られるのもこの休憩時間帯である。
チンパンジーは雑食性で,果実,葉,茎,花および昆虫(主としてシロアリとアリ)を食べる。乾燥疎開林に生息するチンパンジーは,乾季にマメ科の堅い種子を食べることが知られている。このほか,チンパンジーは,ヒヒやアカコロブスなどのサル類,ブッシュバックやヤブイノシシなどの有蹄(ゆうてい)類の幼獣を捕獲して,その肉を食べる。同じチンパンジーの赤ん坊を殺して食べた共食いの例がこれまでに十数例記録されているが,この原因はよくわかっていない。
チンパンジーの雌の月経周期は35~40日程度で,排卵の前後に7~10日間発情する。発情した雌は,外陰部と肛門のまわりの性皮が,球状に腫脹(しゆちよう)する。妊娠期間は約240日である。出産後,3~4年間は発情せず性的休止期を迎えるため,出産間隔は少なくとも4~5年以上ということになる。
生後4歳までの赤ん坊は,母親の腹や背にしがみついて運ばれる。おとなの雄はしばしばこの時期の赤ん坊を子守りする。5歳になると独立行動をするようになるが,8歳くらいまではまだ母親に心理的,社会的に依存しており,母親に追従していることが多い。雌は9~12歳で性的成熟に達し,発情するようになる。しだいに母親から離れて行動するようになり,さらに自分が生まれた単位集団を離れて,多くは隣接する他の単位集団に移籍する。これとは対照的に,雄は単位集団間を移籍するようなことはなく,自分の集団のおとなの雄たちに追従するようになる。雌は13歳,雄は15歳くらいでおとなとなり,雌は出産し,雄はおとなの雄たちの仲間入りをするようになる。
タンザニアやセネガルでは,チンパンジーが,樹皮,枝,草やつたなどでつくった釣棒をシロアリの塚やオオアリの巣穴に差し込み,シロアリやオオアリを“釣る”ことが知られている。またギニアでは,アブラヤシの堅い種子を石でたたき割って,その胚乳を食べるのが観察されている。
近年,手話をチンパンジーに教えて,人間との間に会話を試みる実験が行われている。その結果,チンパンジーにはある程度の抽象能力や概念化の能力があること,それらの概念を用いての思考洞察の能力があること,そしてかなり複雑なコミュニケーションを行うことができることが明らかにされている。
執筆者:高畑 由起夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
哺乳(ほにゅう)綱霊長目ショウジョウ科の動物。クロショウジョウ(黒猩々)ともいい、ボノボ、ゴリラとともに、アフリカの大形類人猿African great apesの一員である。
[伊谷純一郎]
アフリカ大陸の赤道を北西から南東にたすき掛けにするような分布を示す。北限は、セネガルの北緯15度、南限はコンゴ民主共和国(旧、ザイール)、タンガニーカ湖畔の南緯7度30分、東限はタンザニア、ウガラ川左岸の東経31度30分である。分布域は、低地熱帯多雨林、山地林、乾燥疎開林を含み、ゴリラに比べてより乾燥した植生にも生息しているが、サバナへは進出していない。セネガルからニジェール川右岸にまで分布するニシチンパンジーP. t. verus、ニジェール川左岸からコンゴ(ザイール)川右岸、サンガ川右岸の多雨林帯に分布するチェゴチンパンジーP. t. troglodytes、ウバンギ川以東、ウガンダ西部、タンザニア西部にまで分布するケナガチンパンジーP. t. schweinfurthiiの3亜種に分けられている。
[伊谷純一郎]
体重は、雄が40キログラム、なかには50キログラムに達するものがあるが、雌は平均35キログラムで、ゴリラほど性差は顕著でない。スイスの人類学者シュルツAdolf Schultzは、雄100に対する雌の体重比を92.1としている。身長は、雄が150センチメートル、雌は130センチメートルである。全身黒色の毛に覆われるが、3歳までの子には肛門(こうもん)の上に白い毛があり、これは成長とともに消失する。顔は裸出し、その皮膚は子は明色であるがしだいに暗色または黒色になる。個体によっては成長しても飴(あめ)色のものもある。ゴリラに比べて耳殻が大きい。眉(まゆ)の上の隆起はゴリラともども顕著である。ケナガチンパンジーは、雌雄ともに前額部がはげる個体が多い。歯数はヒトと同じ32本であるが、雄は強大な犬歯をもち、歯隙(しげき)が目だつ。下肢に対して前肢が長く、手の指の中節背面を地面につけて、いわゆるナックル・ウォークを行う。四足歩行時の体軸はオナガザルのように地面に水平ではなく、斜めになる。雄の頭蓋(とうがい)内容量は約400ccで、小形類人猿であるテナガザルの100ccに比べて格段の開きがある。性的成熟までには、雌は約8年、雄は約10年を要する。野生のものの寿命については十分な資料はないが、40年以上生きると考えてよいであろう。老齢個体のなかには、腰から背面にかけての毛が白くなるものもある。
[伊谷純一郎]
地上・樹上で活動するが、移動時は地上歩行によることが多く、夜間は樹上に木の枝を折り曲げてつくったベッドの上で眠る。食物は果実を主とするが、葉、茎、樹皮、花なども食べ、そのほかサル、レイヨウ、ノブタ、リスなどのあらゆる哺乳動物を捕食し、鳥の雛(ひな)や卵、アリ、シロアリなどの昆虫類も好んで食べる雑食性である。また、アリ、シロアリなどの捕食、樹洞に蓄えられた蜂蜜(はちみつ)の採食には、木の枝やつるなどの道具を用いる。西アフリカでは、アブラヤシの実を石でたたき割って食べたという観察もある。これらの道具使用行動には地域による技法の違いが認められ、各地域集団によって伝承される文化的行動であることが明らかにされている。食物の分配行動がみられることも行動の進化を考察するうえで重要な意義をもつ。
[伊谷純一郎]
平均40頭、20頭から80頭の複雄複雌の集団をつくって生活する。集団の遊動域は生息環境によって異なるが、常緑林では20~40平方キロメートル、疎開林では100~500平方キロメートル以上に達する。通常その約30%を隣接集団の遊動域と重複させているが、集団間には相いれない対立があり、また集団間の優劣が認められる。ニホンザルなどのような凝集性のある集団をつくることなく、絶えず離合集散を繰り返すが、集団内の雄の間には強い結合が認められる。性的成熟を迎えた雌は、自発的に、生まれ育った出自集団を去って隣接集団に加入し、そこで子を産み育てる。すなわち、チンパンジーの社会は、集団間で雌を交換する父系社会であるといってよい。初産年齢は10歳前後、1産1子で、出産間隔は約5年である。発情した雌の性皮は著しい腫脹(しゅちょう)をみせる。雌間に社会的交渉が乏しいのもこの社会の特色である。タンザニアのゴンベ、マハレで長期にわたる観察が続けられている。
[伊谷純一郎]
『ジェーン・グドール著、河合雅雄訳『森の隣人』(1973・平凡社)』▽『伊谷純一郎編著『チンパンジー記』(1977・講談社)』▽『西田利貞著『野生チンパンジー観察記』(1981・中央公論社)』
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… 音声ではなく,行動型としてみれば,このカテゴリーに入るものは少なくない。類人猿のチンパンジーでは,このカテゴリーに入るものとして〈あいさつ〉とか〈なだめ〉とかの微妙な伝達行動が多様にあらわれる。にもかかわらず,サルや類人猿が音声言語を使えないのは,発声器官とくに喉頭部の構造に帰するといわれる。…
…
【社会的文化的特徴とその進化】
かつてヒトを定義するための多くの特性があげられたが,近年の霊長類を対象とした研究によってそれらの中のいくつかはヒトの定義に耐えうるものではないことが明らかにされるにいたった。ヒトは道具を使用し道具を作る動物であるといわれたが,野生チンパンジーについての多くの観察がそれを無効にしたというのもその一例であろう。雑食性もヒトだけの特性ではなかったし,近親婚の回避や,集団間での女性の交換といった項目も人類に固有の特性ではないことが明らかになった。…
※「チンパンジー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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