狂言の曲名。雑狂言。藁苞(わらづと)に薑(山椒(さんしょう)または生姜(しょうが)の古名)を入れて売り歩く男と、竹筒に入れた酢を売る男(シテ)が出会い、自分に挨拶(あいさつ)なしには売らせないと互いに言い張り、商人司(あきうどのつかさ)(商人の元締め)になったそれぞれの由緒を披露して争う。薑売りは「からこ天皇の御時」に始まる薑の辛さにちなんだから尽くしで述べ立てると、酢売りは「推古(すいこ)天皇の御時」とす尽くしで対抗する。これではらちがあかぬと、都へ上る道すがら「から」と「す」との秀句合戦を繰り広げるが、みごとな洒落(しゃれ)の応酬に意気投合し、笑って別れる。酢と薑の商売物にちなんだことば遊びが小気味よいテンポで繰り広げられ、一服の清涼剤のような狂言に仕上がっている。
[油谷光雄]
…室町時代には〈和泉酢(いずみす)〉の名がうたわれていた。《庭訓往来》以下の諸書に見えるもので,狂言《酢薑(すはじかみ)》には和泉酢を売り歩く行商人が登場する。江戸時代に入ると和泉酢のほかにも各地に良質の酢が産出するようになった。…
※「酢薑」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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