改訂新版 世界大百科事典 「金属管」の意味・わかりやすい解説
金属管 (きんぞくかん)
metal tube and pipe
金属材料のインゴットを,圧延,溶接などによって管状に加工したものの総称。とくに鋼製のものは鋼管と呼ばれる。金属管はわれわれの日常生活をはじめとして社会のありとあらゆるところで利用されている。身近にみられる金属管には,ガス管,水道管,排水管,電気配線保護管,冷蔵庫のラジエーターの銅管や,クーラーの銅管,自動車の燃料供給用の管や排気用の管,オイルの管などがあり,日常生活において,流体を通すための管や保護をするための容器,また熱を表面で発散したり取り入れたりする役目をもつ熱交換用の部品などとして重要な役割を果たしている。これらの金属管は,どういう流体を流すか,なにを中に入れるか,熱交換の温度はどの程度であるかということによって,金属の種類が決められ,また目的にかなったつくり方が選ばれる。
産業用の管の役割も前記のものとあまり変わらないが,流れる流体の種類,包む物体の種類などが想像もつかないほど多数にのぼるということである。農業用金属管のおもしろい例に,スパイラル鋼管という大径管を用いるサイロの外壁の製造がある。スパイラル鋼管というのは,鋼をスパイラルに巻いて,その継目を溶接した溶接鋼管で,継目がスパイラルになる。帯鋼の幅は一定でも巻くときのピッチの大小によって管径を帯鋼の幅の約1/3(ピッチは無限大)から無限大(ピッチ0)まで変化できるつくり方で,肉厚が数mm,直径が数mのスパイラル鋼管が製造されている。サイロは,帯鋼のコイルと継ぎ合わせるための溶接機を現地に運び,運搬車のエンジンの動力でその場で基礎の上に鋼管をつくり上げ,そのあと必要な口を溶断してつけ,屋根をふいてつくられる。
鉱業では,探鉱のためのボーリング用の特殊鋼管,石油を井戸からくみ上げるための油井管,ラインパイプと呼ばれる天然ガスや原油を遠方に輸送する大径管,坑道の環境を整えるための通気管・給排水管などが活用されている。ボーリング用の管や油井管は特別に強靱(きようじん)性が要求されるので,材料には特殊鋼が使用され,製造法は継目なし製管法が採用されている。ラインパイプには前述のスパイラル管も使用されるが,ピッチが無限大,すなわち継目がパイプと平行に走る管が用いられる。これは,継目を溶接するので材質劣化のおそれのあるこの部分の長さがスパイラル管に比べて短いからである。この大径管には広幅の厚鋼板をU型,O型の順にプレスで曲げた後,継目を溶接し,その後エキスパンダーを内部に入れて拡管し,径と真円度を調整するUOE管と,広幅の帯鋼をかご状に配置させた小型の成形ロールで徐々に成形し,その後2組のロールの間の溝型を通過させつつ成形を完了するケージフォーミング法でつくられる電縫管とがある。ラインパイプはアラスカ,シベリアなどの寒冷地で使用されることもあるので,低温における破壊靱性の大きい材質に調質しなければならない。地熱をとり出すために地下の高熱部に送水し,水蒸気を採集する地熱利用の分野では,使用するパイプはとくに硫酸や硫化水素による腐食(孔食)を考慮した材料でつくる必要がある。油井管・ボーリング用管などと同じく数十mmの直径で継目なし法によりつくられる。しかし溶接技術の進歩により,2本1組の溝型ロールの間で帯鋼を成形するロールフォーミング法による電縫管もこの分野で活用される可能性をもつようになってきた。給水管・通気管などには,普通鋼の帯鋼をロール成形し電気溶接した電縫管が使用されている。建築配管なども同様である。配線を保護する鋼管のほとんどは電縫管である。排水用にはしばしば黄銅が用いられ,化学実験室の排水管には鉛管が使用される。人類が初めて塑性加工により製造した継目なし管は鉛管であり,これは押出加工によってつくられたものである。黄銅管はクロムめっきをして化粧室の給排水管として使用されている。足場に用いられる銅管やガス管は鍛接管が用いられている。これは帯鋼を鍛接温度まで急速に加熱し,ロールで管状に成形し,継目は鍛接してつくるものである。建物へ水道をとり入れる管は電縫管が使用されているが,道路に埋設されている配管は鋳鉄管である。この鋳鉄管は,高速回転する鋳型の内面に溶かした金属を遠心力で押しつけつつ凝固する遠心鋳造法により製造されている。
エネルギー産業である電力では,水力発電でも火力発電でも金属管が活用されている。水力発電では送水用の鋼管がわき役である。火力発電では,燃料から得た火力を過熱水蒸気のエネルギーに変換するボイラーのボイラーチューブが重要である。このパイプは高温・高圧にさらされ,しかも燃料中に硫黄などが存在するため耐食性も必要とされ,耐熱鋼の継目なし鋼管が使用されている。原子力の分野でも,原子力エネルギーを過熱水蒸気のエネルギーとしてとり出すため,ボイラーチューブに相当する管には耐熱ステンレス鋼管などが重用されている。また炉心の燃料棒の被覆にはジルカロイの管が使用されるが,これらははじめ継目なし法で素管を製造し,その後二次加工して成形されたものである。
化学工業のプラント用の高温・高圧・腐食雰囲気という環境で使用される管は特殊鋼(ステンレス鋼を含む),超合金(スーパーアロイ)材料(Fe-Ni-Co……,Ni-Co-……など),チタン合金やジルコニウム合金などの材料でつくられ,ほとんどが継目なし管である。
管の使われる場所をいくつか挙げたが,金属管はありとあらゆるところで使用されている。継目のある管・継目のない管,銅管・アルミニウム管・鋼管,大径管・小径管・細管・極細管と,形状・材料・寸法も多岐にわたっている。
継目のある金属管のつくり方は上述したが,ほかに薄い板を幾層にも巻いて層間を接着した金属管もある。家庭用のステンレスパイプなどがこの方法でつくられている。薄い帯鋼に銅めっきして巻き,高温に熱して銅を鑞(ろう)として層間を接着したバンディチューブがある。これは自動車のエンジンの排気管に使用されている。
継目なし管(シームレスパイプseamless pipe)の製作法は,圧延法,押出法,押抜-引抜法に大別できる。継目なし管製造法の特徴は塑性加工法にあるとともに,共通していえることは,金属塊(ビレットないしブランク)に穿孔(せんこう)するときの肉厚および外径寸法と,その後の延伸のとり方にある。つまり,小さな穿孔後,長く細く薄く延伸するか,穿孔時にすでに製品寸法に近い状態の管をつくってしまうかによる。傾斜圧延法は1885年にマンネスマン兄弟R.& M.Mannesmannが発明した方法で,ロール軸を傾斜させて材料を圧延すると材料に前進力と回転力が与えられ,かつ材料の芯にざく穴があく傾向が生ずることを利用したもので,マンネスマン穿孔法ともいう。材料の芯にピアサー(穿孔機)をあてて穿孔を行う。ピアサーに荷重して押しあけるほうが内面きずのない良い管が製造できることがわかり,また,芯にざく穴があく傾向のあるロール傾斜圧延でもピアサーで穿孔ができることがわかってきた。そこで円形断面の型の中で内接する正方形断面ビレットに円筒ポンチを押し込み,中心に穿孔すると余肉は周囲のダイスになじんで素管ができるという,イタリアのカルメスのアイデアを生かして,2段の穴型圧延機に正方形断面ビレットを押し込み,ピアサーにより穿孔する圧延穿孔法が1970年代初めに新日本製鉄の技術者たちにより開発された。このようにつくられた素管は,その後芯金(マンドレル)を使用したり,あるいは使用せずに延伸圧延されて製品の管とされる。押出しによる方法では,芯の穿孔は切削穿孔または後方押出しによりなされ,銅や銅合金の管,鋼管,超合金管,チタン管,ジルカロイ管などはマンドレルを伴った前方押出しにより製管される。アルミニウムとその合金の管は,スパイダーダイスを使用することによりビレットから押出しにより製管される。これら圧延または押出しにより製造された管は,小径の薄肉の管にするため冷間圧延,冷間押抜き,冷間引抜きなどにより,塑性加工される。また熱間押抜きで直径数百mmの鋼管をつくる方法もある。冷間押抜きや冷間引抜きで管を細く加工する場合には,芯金としてマンドレルや浮きプラグを内面に入れ,とくに肉厚を精度よく整えることが多い。
缶やコップは短いふた付きの管と考えることもできる。金属細管の多くのものは,板から深絞りによりコップをつくり,それを押抜きと引抜きにより細管にするという方法でつくられている。貴金属の装身具をつくる場合の素材としての細管は,この方法でつくられる。ステンレス製の注射針も管の一種と考えてもよい。これも同様の方法で管に成形し,電解研磨により仕上げ,一定の長さに切断したものである。
小は貴金属の鎖,大は管用のT字形継手,ベローズ管,フィン付管などが管を素材として,塑性加工や切削加工により成形されてつくられている。中空の四角柱や多角形の柱も,円管を製造した後,プレスやロール成形により容易に製造することができる。金属管は,種々の形をした有用な製品,部品にさまざまな加工手段によって,形を変化させて活用もされている。
→圧延 →押出加工
執筆者:木原 諄二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報