遠心鋳造(読み)えんしんちゅうぞう(その他表記)centrifugal casting

改訂新版 世界大百科事典 「遠心鋳造」の意味・わかりやすい解説

遠心鋳造 (えんしんちゅうぞう)
centrifugal casting

鋳型を水平または垂直の回転軸を中心に高速で回転させ,その中に溶湯(溶融金属)を注入して鋳物を製造する方法。溶湯は,遠心力によって鋳型内壁に押しつけられた状態で凝固するので,円筒形の鋳型を用いれば,中子を用いずに円筒または円環状の製品が鋳造できる。これを〈真の遠心鋳造法〉という。鉄道用車輪などでは,ハブのところを垂直の回転軸,押湯,湯口とし,鋳型を高速で回転させれば,遠心力によって溶湯がスポーク部を通ってリム部を充てんするように入り,車輪が鋳造できる。これを〈半遠心鋳造法〉といい,車輪のほか歯車地,プーリースプロケットなどをつくっている。垂直の回転軸上に設けた湯口より放射状に湯道を出し,その先端に各種の形状の鋳型を複数個配置することにより,不規則な形状の製品を高重力のもとで一度に多数個鋳造することができる。これを〈遠心加圧鋳造法〉といい,座金,ブレーキシューなどの小物の鋳造に使われるが,1回に鋳込む製品は,鋳型を回転する場合にバランスをとる必要があるので,同一か類似の形状が望ましい。

 工業的には〈真の遠心鋳造法〉の水平軸回転式が最も多く使われている。鋳型の内壁は,砂を内張りしたり,水冷金型を用いたり,金型に薄く砂の層を焼き付けたサンドレジン法を用いたりする。鋳型は高速で回転するローラーにより支持および駆動される。鋳型の回転は,速すぎると鋳物に高温割れが発生し,遅いと溶湯が滴下して,酸化物が生成したり湯境などの欠陥が生じる。適切な回転速度は,金属および鋳型の種類,製品の肉厚によって異なるが,一般に重力の60~75倍の遠心力を生じる回転速度がよいとされる。主要製品には鋳鉄管があり,日本で年間90万tが上水道用,土木用として製造されている。径4~260cm,長さ3~9m程度のものがつくられ,厚さは約6mmまで薄くできる。

 径に対し長さの短い製品,たとえばシリンダーライナーなどの鋳造には〈真の遠心鋳造法〉の垂直軸回転式が用いられる。この場合,溶湯内面は回転放物面となるが,回転速度を上げればほぼ円筒内面が得られる。したがって,垂直軸式は水平軸式より大きな遠心力を必要とし,重力の100倍くらいの遠心力が生じる回転速度が選ばれる。

 いずれの方式にも共通な遠心鋳造の利点は,(1)密度の低いスラグや砂は,鋳物内壁に集まるので,容易に切削・除去できる,(2)圧力下で凝固するので組織がち密になる,(3)中子,湯道,湯口,押湯が不必要なので歩留りがよい,(4)大量生産に適する,などである。欠点は,(1)通常の設備のほかに専用設備が必要である,(2)形状・寸法に制限がある,(3)溶湯と初晶の比重差が大きいときは,重い相は外部に軽い相は内部に集まり偏析を起こす,(4)比重の大きい鋳鉄や銅合金には適するが,アルミニウム合金などでは問題が残る,などである。以上の遠心鋳造の特徴をいかした製品の例として鋼の熱間圧延用ロールがある。まず耐摩耗性のある材料で外層部を遠心鋳造し,つぎに靱性(じんせい)のある材料で内部を充てんし,耐摩耗性も靱性もあるロールをつくることができる。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「遠心鋳造」の意味・わかりやすい解説

遠心鋳造
えんしんちゅうぞう
centrifugal casting

円筒状の鋳型をその中心軸の周りに回転させながら溶融金属を注入し、遠心力によって鋳型壁に溶解金属を押し付けながら金属を管状に凝固させる方法。円筒鋳型の中に管の内面をつくるための鋳型(中子(なかご))を入れておくことなしに中空管状の鋳物をつくることができる。細くて長い管をつくるときは鋳型の回転軸を水平にし(横型)、太くて短い管をつくるときは鋳型の回転軸を垂直にする(縦型)。横型のときは、遠心力が重力よりも大きくなるような回転数にしないと、溶融金属が落下する。また縦型のときは、回転数を大きくしないと、鋳物の上下で肉厚が異なってくる。

 遠心力が重力の40倍から80倍になるような回転数で操業するのが普通である。鋳物の外周部は金属が緻密(ちみつ)となり、軽い滓(かす)などは内周に浮かび出るので、内面を切削加工で仕上げ、製品とする。現在もっとも多くつくられているのは上水道用の鋳鉄管で、鋳鉄製のシリンダーライナーや、鋳鋼管、銅合金の軸受などもつくられている。

[井川克也・原善四郎]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「遠心鋳造」の意味・わかりやすい解説

遠心鋳造【えんしんちゅうぞう】

鋳型を高速で回転しながら溶融金属を注入し,遠心力を利用して鋳物をつくる方法。鋳鉄管,シリンダーライナーなど円筒状ないしそれに近いものの量産に利用される。遠心力の作用で緻密(ちみつ)な組織の鋳物が得られ,中子(なかご),押湯(おしゆ)などが不要となるのが特徴。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内の遠心鋳造の言及

【鋳造】より


[鋳造法の種類]
 普通に行われているのは,重力で鋳型内の空洞に溶湯を注ぎ込んで凝固させる〈置き注ぎ法〉であるが,それ以外に,以下のような特殊な鋳造法が目的に応じて採用されている。(1)遠心鋳造 高速で回転する鋳型内に溶湯を流し込んで,遠心力を利用して行う鋳造法。遠心力の作用で緻密な組織の鋳物が得られ,中子や押湯などが不要。…

※「遠心鋳造」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android