金銭債権契約の付款のひとつで,債権の本体の価値を貨幣価値の変動から守るため,特定の金価値(多くが契約時の金価値)をもって債務者が支払うことを約束する条項をいう。通常2種類に大別され,その1は,たとえば契約時の貨幣法が定める純分と量目の金貨もしくは金の一定量をもって支払うことを約束する金貨約款または金貨債権約款であり,第2は,その金貨ないし金の一定量と同一の価値をもつ貨幣をもって支払うことを約する金貨価値約款ないし金価値約款である。金約款は,物価水準や為替相場が大幅に変化することが見込まれる場合,長期にわたる貸付けや証券投資を行う債権者の経済的危険を担保するために考案されたもので,主として国際間の取引に用いられる。近代経済社会において契約自由の原則が確立されてから,この種の金約款も建前としては有効であるが,他方今日多くの国が金本位制を廃止し,銀行券の金兌換(だかん)を停止していることから,銀行券の強制通用力を損なうおそれもあり,その有効性をめぐる議論も多い。アメリカでは,南北戦争時代1862年2月の〈法貨法Legal Tender Act〉に基づき不換紙幣のグリーンバックスが発行され,物価上昇率が高まったため,金約款が一般化したといわれる。その後1933年6月アメリカ議会は〈アメリカの鋳貨と通貨に対する統一的価値を確保するための合同決議〉を行い金約款を廃止したが,77年10月に至り,ある法案の付帯条項として金約款が復活した。
日本においては民法402条1項,2項において金貨約款を認めているが,その場合の金貨は通貨であることを要すると解される。なお,こうした金約款のほか,国際取引において米ドル以外の通貨建ての契約で,その通貨と米ドルの間の特定時点における為替相場で換算した米ドルの価値に等しい当該通貨を債務者が支払うことを約するドル約款,あるいは円以外の通貨建取引で,同じ趣旨で円の価値保証を規定する円約款などがある。
執筆者:河西 宏之
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売買代金などのように契約において約定される金銭債務について、インフレなどの理由からその実質的価値が下落した場合に、債権者を保護する目的で約定される貨幣価値担保約款の一種。これはその代表的なもの。金約款には、特定国の発行する特定の金貨で支払うことを約する金貨約款、および、特定数量の金貨または特定量目の純金の価値に相当する金銭額を支払うことを約する金価値約款の2種類がある。金約款はその性質上、長期的契約において利用されるものであるが、とくに国際取引において、第一次世界大戦後の貨幣制度の混乱を機として、公債・社債発行契約などに広く利用された。第二次大戦後はガット(現世界貿易機関=WTO)体制の変動とともにその利用状況も変化している。国によって金約款を禁止する法律を制定しているものもあるが、かかる約款の効力は、債務の準拠法によって決定されるべきであると一般に考えられている。
[澤木敬郎]
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