鉛もしくはその化合物の吸収によっておこる中毒をいう。真鍮(しんちゅう)(黄銅(おうどう))工場、鉛再生業、蓄電池製造、船体解体業、クリスタルガラス製造、塩化ビニル加工業、ケーブル工業などの職場で、鉛の粉塵(ふんじん)や溶解時に発生するフューム(煙霧状粉末)を吸入したり、汚染した手などを介して口から入り、中毒をおこす。アメリカでは、古い家屋に塗ってあった鉛を含むペンキがはがれ落ち、それを幼児が食べること(異味症)によって鉛中毒をおこした例もある。
中毒症状として次のような障害をおこす。
(1)血液障害 血色素の合成過程を鉛が阻害するために貧血がおこり、貧血が強いと鉛蒼白(そうはく)とよばれるように顔色が青白くなる。
(2)消化器障害 初期には食欲減退、食後胃部不快感、便秘や下痢がある。また、鉛仙痛といい、突然けいれん性の腹痛がおこり、虫垂炎と誤られることがある。
(3)神経障害 末梢(まっしょう)神経障害として、初期には筋肉痛、関節痛、筋力低下、進行すると両手先が幽霊のように下がる伸筋麻痺(まひ)の症状がみられる。中枢神経障害としては、鉛脳症がおこる。これはとくに幼児に多くみられ、持続する嘔吐(おうと)、昏睡(こんすい)、けいれん発作がおこり、致命率は高い。また、回復しても後遺症が残る。
(4)その他 歯肉の縁に鉛が析出して暗青色の着色(鉛縁(なまりえん))としてみられることがある。
[重田定義]
四アルキル鉛(テトラアルキル鉛)は四エチル鉛と四メチル鉛の混合物で、ガソリンのオクタン価を高めるために添加する。四アルキル鉛中毒は、製造工場や原液輸送中の事故、あるいは貯蔵タンクのクリーニング作業、加鉛ガソリンを洗浄に用いた場合などに発生する。
中毒は、蒸気の形では吸入によって、液体の形では脂溶性のため皮膚から入っておこる。大量の四アルキル鉛蒸気を吸入すると、血圧や体温が降下し、虚脱状態になり、興奮、狂躁(きょうそう)、錯乱などの精神症状を現すことがある。軽度の暴露を繰り返していると、数日から2、3週間後に不眠、悪夢、けいれん、幻覚、昏睡などがおこる。
加鉛ガソリンの使用以来、自動車の排ガスによる環境汚染として鉛暴露が問題になり、世界的に低鉛化、無鉛化が進められた。鉛中毒に対してはキレート剤が用いられるが、代表的な重金属に対する解毒剤バル(BAL)は無効で、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)のカルシウム化合物(EDTA,Ca,2Na)が用いられ、尿中に排出させる。ペニシリンの加水分解産物として得られるペニシラミンも繁用されている。
労働衛生上の許容濃度は、無機鉛は1立方メートル当り0.15ミリグラム、四アルキル鉛は鉛の濃度として1立方メートル当り0.075ミリグラムである。
[重田定義]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新