政治学は、西欧においては、古代ギリシア・ローマの時代から、この名称で知られた、もっとも古い学問の分野の一つであった。政治学の西欧における語源は古代ギリシアの都市国家であるポリスに由来する。つまりそれはポリスにおける公共生活を対象とする学問として発達した。アリストテレスはこれを「諸学の女王」とよんでいる。けれども、古い歴史をもつ学問であるだけに、その学問的性格や方法はきわめて雑多であり、厳密な意味での学問としての確立は比較的最近のことに属する。政治学がもっとも古くてまた新しい学問だといわれるゆえんがここにある。
古代のアリストテレスが政治学の始祖とよばれ、そして近代初期のマキャベッリが近代政治学の父といわれるのは、彼らの政治研究が、政治の現実を実証的、経験的に考察し、分析し、一定の法則化、理論化を行い、また比較するための理論的枠組みを構築したからにほかならない。もちろん彼らにおいても政治における理念の考察や理想の追求などがみられないではないが、彼らが経験科学としての政治学の樹立に大きな影響を及ぼしたことは否定できない。
[福岡政行]
政治学は以上のような歴史的背景をもっているので、政治学という概念は、広義、狭義にわたり、さまざまな意味に用いられている。もっとも広い意味では、政治学は、およそ政治に関するいっさいの理論的、歴史的、思想的、哲学的、科学的研究や考察をさし、とくに哲学と科学の区別や、歴史・理論・政策の区別などもなされない。
しかし政治学をより狭義に用いる場合には、政治に関する実証的、経験的な研究をさし、政治に関する宗教的、哲学的、倫理的考察、つまり政治や国家の本質や目的、実現すべき理念や価値などの考察、あるいは一定の世界観やイデオロギー、形而上(けいじじょう)学などの立場からする政治の研究などは除外される。つまり経験科学あるいは最近のより厳格な方法論に基づく行動科学としての政治学に限定して用いられる。そして、こうした狭義における政治学=政治科学のなかでも、最近は、従来の「政治学」が経験科学あるいは社会科学としてかならずしも方法論的には厳格ではなく、また実証性において不十分であったという批判が加えられ、それと区別する意味で「政治分析」political analysisという表現が用いられる。また従来の法的、制度的側面を重視した「伝統的政治学」に対して、政治における行動や過程の分析に重点を置くものとして「行動論的政治学」とか「現代政治学」という呼び方がなされることもある。
政治学が独立した学問として大学に設置されるようになったのは19世紀後半であり、それまでは法学の一部(ドイツ)、あるいは歴史研究の一部(アメリカ)をなしていた。政治学が盛んに研究されるようになったのは第二次世界大戦以降であり、今日では、「政治学」「政治学史(政治思想史)」「比較政治」「政治社会学」「政治意識(行動)論」「国際政治」などさまざまな諸分野に分かれて研究が進められている。
[福岡政行]
このような政治学の歴史の下で、日本の政治学は、戦前においてはドイツ国家学・公法学の影響が強く、必然的に、国家あるいは憲法という概念を中心とした研究が多くみられた。しかし、小野塚喜平次(きへいじ)により政治学が国家学から独立し、吉野作造が独自のデモクラシー論を主唱し、大山郁夫(いくお)によって社会学的に政治学が研究され、「社会法則」の樹立が試みられるなかで、政治学がしだいに「科学としての政治学」への転化を示し始めていたのである。それゆえ、政治学の一社会科学としての自立は確保されたと考えられる反面、政治学が国家あるいは国体(とくにこの当時のファシズム的なもの)に触れざるをえないため、どうしても天皇制という時代的制約が課せられてしまうことにもなったのである。
第二次大戦が終わって、日本のあらゆるところに、そしてあらゆる面に自由がもたらされたとき、政治社会もそして政治学も長い間の拘束から解放され、新しい出発へと踏み出した。戦後日本の政治学は、アメリカの行動論的、システム論的、機能論的研究の影響を強く受けながらも、日本独自の研究を推進することを目ざした。政治学の各分野でもしだいにユニークな研究が試みられ、政治意識、投票行動の研究などもかなりの程度、実証的なデータを収集し、利用可能な状態にまで成長してきた。この結果、日本という政治的現実を研究対象とし、アメリカの研究方法を利用した調査なども数多く行われた。
[福岡政行]
かつて、マスター・サイエンスmaster science(統合科学)の地位を与えられていた政治学は、現在、隣接諸科学からの激しい研究領域上の侵犯を受けている。政治学は経済学、法学、経営学、社会学、心理学などとともに社会科学の一分野として位置している。そして、統合的役割を果たすために、あらゆる学問をまとめて、社会的現実の的確な予測と価値方向定位を可能にしなければならないという使命を内包している。丸山真男(まさお)は政治学の研究者を評して「あらゆることについて何事かを知っており、何事かについてあらゆることを知っている人」と述べ、それはオーケストラの指揮者のような人であると規定する。つまり、オーケストラのあらゆる楽器についての知識dilettantismと指揮法についての完全な知識professionalismの双方を身につけていることである。政治学の研究者には、政治学が本来統治の術であり、そのためにあらゆる情報を分析して判断するものであるから、必然的に学際的な協同研究の姿勢がみられるのである。一方、複雑・多岐化している社会現象に対しては、どうしても複眼的なアプローチが必要である。そのためにも、もっとも複雑な機構と機能を有する「権力」を研究対象とする政治学が広い知識の利用を試みて、いろいろな隣接科学との協同研究を行うことが必要となる。政治学の学際的研究が進むとき初めて、政治学の社会科学における学問的位置が確定し、その存在が示されるといわれる。
[福岡政行]
それでは、今日、政治学の大学における講座はどのようになっているのか。標準的な講座は次の10ジャンルである。(1)国家論 この領域は、ドイツ国家学や公法学の影響を受けて、古いタイプの研究領域であるが、現在においても、現代国家論、行政国家論、福祉国家論というような形で、国家全体を研究するテーマでもある。しかしながら、最近では、政治体系論が研究の主流になっていることを考えると、国家を一元的にとらえるのではなく多元的にとらえるアプローチが重要になってきている。(2)政治制度論 政治制度論は、憲法学の影響を受けており、比較政治機構論あるいは政治制度論というような形で主要な研究対象を議会や政党など政治制度に限定したものであり、伝統的な政治アプローチである。(3)政治過程論 今日において政治学の研究がシステム理論の影響を強く受けるなかで、政治過程論という講座が政治学の主要な研究領域になってきた。これは、政党、圧力団体、選挙、マスコミ、官僚制など、いわゆる政治過程のなかのさまざまのエージェントがどのようにして政治的なメカニズムを果たしていくのかということを中心的対象としているのである。政党論は、そのなかでも現代政治が政党政治をその基底に置いていることから重要な研究領域となっているし、圧力団体は政党を補足する形で、また議会デモクラシーのなかで選挙論、マスコミ論なども重要なテーマとなっている。さらに、官僚制の研究は、マックス・ウェーバーの研究以後、政治学においても不可欠の分野であり、今日では、政策決定などの分野においても重要視されている。(4)行政学 今日的世界が行政国家的な状況を呈しているということから、行政学は重要な研究領域であり、地方行政、自治行政、地方自治論などとあわせて、政治学の主要な一画を占めている。(5)国際政治論 政治学は、内政的な問題のみならず国際関係の分野についても多くの問題を提起している。そのために、外交史あるいは国際政治論、集団安全保障論など、国際関係論が政治学の一分野となっている。(6)行動科学的政治学 この分野は、政治学のなかでも新しい分野として、政治社会学、政治心理学、政治意識論、政治文化論あるいはまたリーダーシップ論等々の講座名となっており、人間の行動を中心に政治分析を行う手法であって、最近ではこれらの講座がかなり重要なものとなっている。(7)政治理論 政治についての理論研究は、すべての領域と関連するが、民主主義理論などに代表されるように、重要な分野である。最近では、政治変動論や政治発展論、あるいはエリート理論や意思決定論など、さまざまな理論が展開されるようになり、政治学の主要な講座として扱われている。また、単に歴史的、学説史的な研究にとどまるものではなく、研究対象との関係できわめて多彩な領域である。(8)計量政治学 政治学の研究領域のなかではもっとも新しいものであり、政治を計量的あるいは数量的に解明するもので、政治の科学化のもっとも典型的なタイプである。(9)比較政治 政治学の研究領域のなかでアメリカなどでは、比較政治の分野がきわめて大きなウェイトを占めており、日本においても比較政治学の講座は一般的となっている。現在においては、政治学は歴史的、地域的な比較がその根底にあることから、また、世界の政治状況が国内の政治に大きく影響することから、この比較政治という分野は最近ますます重要視されている。(10)政治哲学 この分野は、国家論と並び古いアプローチである政治思想、政治哲学、政治理論史等々の分野である。
以上のように、政治学は、さまざまのジャンルに分かれているが、それらはすべて相互補完的であり、固有の領域の専門化と、他の領域との協同化が進んでいる。
[福岡政行]
このように、政治学の研究は科学的なものと哲学的なものの二つに大別される。一方は、事実に基づいた実証主義Positivismから生じる「記述的」descriptiveな理論であり、他方は、価値を中心とした理想主義Idealismから生じる「規範的」normativeな理論である。そして、この両者の中間に「規定的」prescriptiveな理論が生じるのである。しかし、実際は先の二理論が混在して、きわめて恣意(しい)的で思弁的な理論が多くみられることもあり、中間に政策学も成立する。
この政治学における事実分析と価値判断の問題は政治学における古くからの問題である。そして、とくに現在、「行動科学革命」が生じたあと、政治学においてもゲーム理論、モデル研究、シミュレーションなどの数学的手法が取り入れられ、投票行動、政治意識論などにおいて統計的手法が用いられ数量分析が多くみられることによって、政治学研究における価値判断の問題が重要となってきている。
[福岡政行]
それゆえ今日、政治学はその方法論において大きな曲り角にたっているといわれる。しかしながら、政治のダイナミックな過程を鋭く照射する手法がとられ、政治を体系的、動態的に分析する傾向が高まっていることは否定できない。イデオロギー的なアプローチも、制度的なアプローチも、哲学的で思弁的なアプローチも、それぞれの存在は薄くなってきており、政治現象を実証的にとらえる科学的政治学が主流となっている。
また、コンピュータの政治分析での利用が広まるなかで、ふたたび政治的方向定位という哲学的視点が欠落する傾向もある。それゆえ政治学は、むやみに方法論に苦悶(くもん)することなく、時の政治的課題に対して、あらゆるアプローチを試みることによって、事実解明を前提とし、そのうえで解決方法を思索する必要が叫ばれている。つまり政治学の今日的課題は、時代の政治的課題をいかに解明し、その解決策をつくりだすかにあるといえよう。いずれにせよ、日本の政治学のみならず、今日の政治学は、社会科学の一分野として、いかにして自立してゆくかが問われているのである。
[福岡政行]
『D・イーストン著、山川雄巳訳『政治体系』第二版(1976・ぺりかん社)』▽『飯坂良明・堀江湛編『ワークブック政治学』(1979・有斐閣)』▽『飯坂良明著『政治学』(1975・学陽書房)』▽『David EastonA Systems Analysis of Political Life (1965, New York)』
政治学は,狭い意味では,今日の現実政治についての学問を意味するが,広義では,一般に政治についての研究の総称として用いられている。それは,大学の教科などにおいて,およそ次のような分野に分かれている。(1)政治制度や機構についての研究 政治機構(制度)論,国家論,公法学,(2)官僚制や行政についての研究 行政学,地方自治論,(3)政治的決定の内容や方法についての研究 政策学,戦略論,意思決定論,(4)政治的決定にいたる過程の研究 政治過程論,(5)政治的指導者やエリートの研究 リーダーシップ論,エリート論,(6)政治的集団の研究 政党論,圧力集団論,大衆運動論,(7)政治的イデオロギーや思想の研究 イデオロギー論,政治思想史,(8)大衆の政治意識や心理についての研究 政治意識論,政治心理学,政治文化論,政治人類学,(9)政治の社会的背景や条件の研究 政治社会学,(10)政治発展や変動についての研究 政治発展論,政治変動論,革命論,(11)政治についての一般理論 政治体系論,政治構造論,(12)政治現象への数量的・実証的研究 政治行動論,数理政治学,(13)政治についての歴史的研究 政治史,(14)政治についての比較研究 比較政治学,各国研究,(15)国際社会の政治についての研究 国際政治学,国際関係,などである。
今日の政治学は,およそ以上のような広い分野にまたがって多様に発展しつつある学問である。同時にそこでは,歴史的・数量的・規範的・理解(解釈)的方法が複雑に交錯している。それは,政治学が歴史的状況に規定されながら発展してきたということと,その学問的特質がもたらしたものである。
政治についての体系的な研究は,紀元前5世紀のギリシアにおいてはじまった。ソクラテスにおける〈善きポリスと市民〉の問いにはじまった政治についての学問は,プラトンにおける理想のポリスの探求,アリストテレスにおける経験的なポリス国制の比較研究へと発展していった。しかし,ポリスの共同体的特質を反映して,そのいずれにおいても,政治の規範的研究と経験的研究は直接的に結合し,したがって政治学はまた〈善き市民〉としての生き方を説く倫理学でもあった。ヨーロッパ中世世界が,宗教的な聖なる秩序から現実の秩序を弁証するスコラ学によっておおわれたなかで,現実の秩序の由来を現実的に追求する思考は,ルネサンス時代とともに開けた。この意味で,新しい近代国家の秩序が,国民軍という権力的基盤と君主の人心収攬(しゆうらん)術によって保たれることを説いたマキアベリは,近代政治学の開祖とされる。また,国家主権を説いたJ.ボーダン,国際法の存在を主張したH.グロティウスは,近代の国家秩序,国際秩序の法的基盤を整備した。
しかし,ルネサンスの時代において,政治における主体は,カトリック的世界秩序から自立して近代国家を担う君主たちだけだった。彼らは国家統治の秘術を駆使する一方,人民に対しては王権神授説によってみずからの正統性を弁証すれば足りた。しかし,市民階級が成熟し,市民革命を通じて政治の共同的な主体として登場するようになると,政治学は新しい課題に直面するようになる。T.ホッブズ,J.ロック,J.J.ルソーらによる自然権と社会契約説の理論は,そのひとつの解答であった。ここでつくられた合意による国家と政府形成の論理と権力が立ち入ることのできない市民の権利の領域の設定は,その大枠において現代にまで持続的に有効性をもちえていよう。
市民社会における政治学の焦点は,このようにして建設した市民国家の政治制度をどのように構築し運営するかに向けられていた。それは制度論の時代であった。そのなかで,三権分立,議会政治,国民代表,政党,世論,選挙,公共の福祉,市民国家,国際秩序などについての理論が次から次へと形成され,それらはまた現実の政治秩序をつくりだすのに効力をもったのである。
政治学のこのような状況を一変させたのは,労働者階級を中心とする大衆が政治の舞台に登場し,政治が市民の理性的な合意をこえるものによって動かされていることが,広く認識されるようになってからである。マルクスは政治が経済的な下部構造によって規定された上部構造であり,制度論が市民階級のイデオロギーでしかないと批判して,政治における構造論やイデオロギー論への道を開いた。M.ウェーバーは,政治がその民族社会のエートス(社会倫理)によって規定されていることを分析して,政治文化論や政治人類学の基礎をつくった。またS.フロイトは,意識下の世界の力学が,人間をつき動かし,非合理的な行動をとらせるという解釈を提出し,政治意識論や政治心理学の勃興を促した。このようにして政治学の対象と方法は一挙に拡大し,政治学は狭義の政治現象だけではなく,多くの分野へと分化しながらもあらゆる人間事象を考察の対象に入れざるをえない総合科学への道をたどりはじめたのである。
19世紀末から20世紀前半へかけてのこのような政治学の転換は,各国民主政治の慣行を比較研究したJ.ブライス,大衆の政治行動の非合理性を把握することを説いたG.ウォーラス,政治を過程としてみることをはじめたA.F.ベントリー,政治においてつねに変わらぬ支配エリートを研究したG.モスカ,大衆組織における寡頭支配の鉄則を指摘したR.ミヘルス,世論がステレオ・タイプによって支配されていることを分析したW.リップマンなどの業績に典型的に示されている。これらの政治研究者たちに共通に分けもたれていたのは,政治学を経験的・実証的な学問として自立させたいという強い志向だった。それは政治学者たちの間に,一方では大衆社会化された政治の世界に対する醒めた感情や社会主義革命運動の現実への幻滅の意識が,他方では経験的な社会科学としてのめざましい発展を遂げつつあった経済学や心理学に倣おうという意欲が働いていたからである。
政治学におけるこのような流れを推し進めるのに大きな役割を果たしたのは,C.メリアムを先頭とする1930年アメリカのシカゴ学派であった。そこで彼らは,フロイト的な深層心理解釈を採り入れて政治現象を分析する手法を開発するかたわら,統計や調査結果を数量的に処理して政治現象を客観的に測定・分析する道を開いた。その中心的理論家H.D.ラスウェルは,このようにして形成される新しい政治学は,国家や政府だけではなく社会のあらゆる場で見られる権力現象の研究を対象とし,その素材は集団の制度や人びとの主義主張ではなく,主観的な解釈を排した諸個人の客観的な行動であるという立場を鮮明に打ち出した。その意味で,こういう実証主義的な政治学の主張は,後に政治行動論と呼ばれるようになる。政治行動論は,コンピューターの発達によって大規模な調査の集計分析や大量データの処理が容易になったために,20世紀中葉の政治学の裾野を大きく拡大し,新しい次元を開くのに貢献した。
他方,市民国家が予定した制度的枠組みをこえて,多数の社会集団や政治運動が政治的決定に影響を与えようと活動するようになった現代社会の政治を背景に,政治的決定が作成される現実的な過程を分析しようという政治過程論の立場に立つ研究も,P.ヘリングやD.B.トルーマンらの研究以降,数多くなされてきている。さらに,大衆の政治意識の研究や拡大の一途をたどる行政の研究など,現代政治の発展とともに広がった政治学の新しい領域も数多い。また第2次大戦後,米ソ両陣営の対立と第三世界諸国の登場は,国際政治学や比較政治学に新たな展開を促す要因になっている。
しかし,20世紀後半以来の先進諸国における新しい政治参加の波は,このようにして発展してきた経験主義的な政治学の流れに新しい方向をつけ加えた。そこでは,政治は単に外側から客観主義的に分析するものとしてだけではなく,内側から共同で築き上げていくものとしての視点が,ふたたび強調されるようになる。それは,大衆を主体とした新たな制度論の時代のはじまりとして見ることもできるだろう。このようにして,国家や議会あるいは地方政治をどのように組み替えていくかという問題やシビル・ミニマムというような政策の新たな公準,あるいは平和の創出への戦略を主題とする平和学という新しい分野などが,これまでの経験主義的研究とならんで政治学者の問題関心のなかに組み入れられつつある。
以上のような政治学の歴史の素描のなかに,政治学が他の社会科学に対してもつ特色のいくつかが浮かび出ている。そのひとつは,政治学の総合科学性である。政治は,本来,人間のあらゆる側面を含み,そこでは人間を,たとえば〈経済的人間homo-economicus〉のように抽象して扱うことは意味をもたない。それは,大衆参加の時代になればなるほどそうである。人間が自己の属する世界を具体的に理解し,そのなかで自身を再定位したいという欲求から出発する政治学は,その意味で,その時代における人間の知識の集約と知性の熟達の表現とでもいうべき側面をもっている。その限りで,政治学は総合的な社会科学であると同様に,体系性をもたない知識の雑然としたまとまりと批判される宿命を負っているともいえるだろう。それは,政治学のもうひとつの特質である規範科学と経験科学の相克の問題とも重なる。古典ギリシアでの出発の当時から,政治学は,その学問の担い手の主体のあり方の問題と切り離すことができなかった。政治学を経験科学として純粋化させようとするあらゆる試みも,結局は,政治学を隠者の学問か権力集団の密教に終わらせるのが常であって,他方,その外側に生じる膨大な制度論や政策学あるいは思想の論議を,学問のなかから放逐することはついにできなかったのである。この限りで,政治学がまた,研究者の時代と立場に深く規定された学問であることは必然的だとするほかない。
執筆者:高畠 通敏
アリストテレスの著書。この書はギリシア政治思想の結晶として,またその後への影響の大きさにおいて,政治思想上の古典中の古典である。全体は8巻から成り,その内容は多岐にわたるが,要点としては次の2点が挙げられる。第1は,〈人間は生来,ポリス的動物である〉という有名なテーゼである。これはポリス(都市国家)が人間にとって欠くべからざるもの,人間の目的,とくにその倫理性がポリスの中においてのみ実現されるという考えを示している。ポリスの政治制度や法律はこの倫理的目的と一体のものとして考察される。第2にポリスの国制につき,支配者の数(1人,少数,多数)という基準と,その統治が全体の利益にかなう良き統治かまたは支配者の利益のみを追求する悪しき統治かという基準を組み合わせて,六つの政体を区別した(王政,貴族政,〈国制〉=穏当な民主政は良く,僭主政,寡頭政,民主政は悪い)。
執筆者:佐々木 毅
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…北部ドイツの人。公的活動面ではヘルボルン大学の法律学の教授を数年,エムデン市の市法律顧問を三十数年つとめたが,研究・著述面では,とりわけ政治学ないし国家論の体系の構築につとめた。代表的著書《政治学Politica methodice digesta et exemplis sacris et profanis illustrati》(1603)は,カルバンの神学に立脚した自然法論,当時のドイツの身分制議会をふまえた代表の理論,当時のフランスのJ.ボーダンが君主に認めた主権を国民全体に帰属させる国民主権論によって特徴づけられている。…
…アリストテレスはプラトンのイデア論を批判し,百数十のポリスを比較検討して〈ポリス的動物〉にふさわしい政体を考察した。彼は《政治学》において,政体を支配者の数と支配の質的差異によって6種類に分ける。このうち王制は1人,貴族制は少数,〈国制〉は多数が,共通利益を目的に支配する正しい政体であるとする。…
※「政治学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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