電車,電気機関車,トロリーバスなどの電気車両が,空中に架設した架空電車線(架線),あるいは走行用レールと別に地上に設けた導電レール(第3軌条という)から電気を取り入れるための装置。架空電車線から集電する装置としては,トロリーポール,ビューゲル,パンタグラフなどがあり,また,導電レールから集電する装置としては集電靴がある。日本最初の電車では,架線が複線式であったことと速度も低かったためトロリーポールが用いられた。その後,架線も単線式となり,電車も高速化され,主としてパンタグラフが用いられるようになった。
トロリーポールtrolley-poleは低速度の電車やトロリーバスに用いられ,トロリーホイール(トロリーバス用ではみぞ付きスライダーが多い),棒,トロリースタンドからなり,スタンドに備えたばねの力によってトロリーホイールを架線に押し付けるようになっている。ビューゲルBügelは,しゃもじ形をした枠をばねによって斜めに上げ,上方にある弓形の部分に架線を接触させて集電する装置で,路面電車に多く用いられる。両者とも構造は簡単であるが,高速域における集電性能が悪く,かつ集電電流が小さいため高速車両には不向きで,トロリーポールの場合,架線が分岐するところではその方向へ人為的に移し換える操作を必要とする。
パンタグラフpantographは,ビューゲルやトロリーポールと比較した場合,構造的には複雑になるが,ばね装置をくふうすることなどにより架線への押付け力が架線の高さが変化してもほぼ一定にすることができ,かつ高速でも架線との追従性をよくすることが可能で,集電電流も大きくとれることなどの理由により,日本ではほとんどの車両がこの方式を採用している。架線の構造の違い,集電電流,走行速度などの違いから種々の構造のパンタグラフがあるが,標準的には上枠と下枠をひし形に組み立て,それぞれがリンク機構で結ばれ,上下に動くようになっている。ひし形上部には,さらにリンク機構とばねとを組み合わせた集電舟が取り付けられており,その上面にあるすり板の架線への追従性能を向上させている。枠組や集電舟は,以前は鋼製のものが多かったが,最近では軽合金製として等価質量を小さくし,追従性能の向上をはかったものが多くなっている。すり板としては,カーボンや鉄系または銅系の焼結合金などが使われている。すり板と集電舟は集電電流によってその構造(枚数)が違っており,直流機関車用では枚数を多くしている。パンタグラフにはこのほか,折りたたんだときの面積を小さくするため,下枠をX形に交差させた方式のものや,ひし形パンタグラフを半分にしたような形状のZ形パンタグラフなどがある。後者には路面電車用のビューゲルの変形としての単純なものから,主としてヨーロッパで用いられている高速大容量のものまであり,折りたたんだときの面積が小さいという利点があるが,日本では,架線高さの変動幅が比較的小さく,したがってひし形にしても枠が小型でよいこと,またZ形は非対称であるため進行方向によって性能が異なることなどにより,高速車両での使用例はない。
第3軌条による給電方式は,地下鉄などトンネル断面を小さくする場合に採用される方式で,この場合の集電装置である集電靴(コレクターシューともいう)は台車に取り付けられる。
執筆者:沼野 稔夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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