真空管やトランジスタの電気発振をもとにして音をつくる楽器の総称。一般には、電気ギター(エレキ・ギター)など在来の楽器と同じ原理で生じる振動を電気的に処理する楽器は含まれない。
世界最初の電子楽器は、ケーヒルThaddeus Cahill(1867―1934)がつくったテルハーモニウムtelharmoniumである。これは1906年にニューヨークで公開されたが、総重量200トンという巨大なものであった。音を電気的に得ることに関する多くの問題を解決し、また今日の電子楽器の基本的要素はほとんどすべて盛り込んだ画期的なものであったが、実用には至らなかった。1920年にはソ連で、音響物理学者テルミンLev S. Theremin(1896―1993)による楽器が公開され、やがてアメリカに紹介された。数人の作曲家がこの楽器のために曲を書いている。これは、2本のアンテナの間や上で演奏者が手を動かすことによって演奏され、製作者の名をとってテルミンとよばれた。これよりも成功したのが、フランスのマルトノMaurice Martenot(1898―1980)が1922年に特許をとったオンド・マルトノである。これは、5オクターブにわたる鍵盤(けんばん)のあるスピネット(チェンバロの一種)に似た楽器で、鍵盤の手前にはグリッサンド用のリボンがある。オネゲル、メシアン、ジョリベなど、この楽器のために作曲した人は多い。さらに1930年代にはドイツのトラウトバインFreidrich Adolf Trautwein(1888―1956)がトラウトニウムtrautoniumを発明し、50年代までこの楽器を用いた曲が書かれ続けた。そして、トランジスタや集積回路などの技術の進歩に伴って、今日のさまざまなシンセサイザーに至っている。
[卜田隆嗣]
『竹内正美著『テルミン――エーテル音楽と20世紀ロシアを生きた男』(2000・岳陽舎)』
電気楽器のうち発振を電子回路で行う種類の楽器。1920年にロシアのテレミンLéon Thérémine(1896-1993)がうなり発振器を用い,アンテナに手を近づけると音の高さが変化する楽器〈テレミン〉を造ったのが最初。26年に,ドイツのマーゲルJörg Mager(1880-1939)は同じくうなり発振器を用い,周波数制御にダイヤルを用いる〈スフェロホンSphaerophon〉を考案した。28年には,リボンを押さえる位置で周波数が変化する〈ヘレルツィオンHellertion〉が2人のドイツ人(ヘルベルガーB.HelbergerとレルテスP.Lertes。この名前から命名された)によって造られた。同年,フランスではマルトノMaurice Martenot(1898-1980)が金属の指輪をつけたリボンを動かして周波数を制御する〈オンド・マルトノ〉を考案し,鍵盤についても特許をとった。スピーカーの前に弦を張った発音体などもくふうして種々の音色の効果を得ており,この楽器を用いた作品は多い。1924年,ドイツの音響学者トラウトワインFriedrich Trautwein(1888-1956)は鋸歯状波の低周波発振器を採用した〈トラウトニウム〉を発明し30年に公表した。これは第2次世界大戦後,大幅に改造されて,多声的で複雑な音響合成が可能となり,〈ミクストゥール・トラウトニウム〉と呼ばれ,電子オルガンの先駆けとなった。50年代に入ると各国で電子楽器の開発が急速に進められた。ドイツでは,小型リード・オルガン風の電子旋律楽器〈クラビオリン〉や〈エレクトロニウム〉などが出現し,フランスでも同じような楽器〈オディオリーヌ〉が造られた。アメリカでは種々の電子オルガンが考えられ,55年にはH.F.オルソンらが考案したRCAの大型ミュージック・シンセサイザー(音楽合成装置)が公表され,新電子音響時代が到来した。日本では59年に日本楽器が電子オルガン〈エレクトーン〉(商品名)の発売を始めた。64年,R.A.モーグはトランジスターによる市販型のシンセサイザーを開発し,電子ピアノ,電子チェンバロ,ストリング・アンサンブルなどの電子楽器類の出現を促した。最近では自動演奏機構や記憶回路をもつ多能なシンセサイザーや電子オルガンが普及してきており,プログラムで演奏することも始まっている。
→シンセサイザー →電子オルガン
執筆者:白砂 昭一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…(3)発振も電子回路で行い,種々の効果を電子回路で付加しているもの。他の電気楽器と区別して〈電子楽器〉とも呼ばれる。〈テレミン〉(1920),〈オンド・マルトノ〉(1928)が古い。…
※「電子楽器」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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