翻訳|transistor
半導体を用いた能動素子。バイポーラートランジスターと電界効果トランジスターがある。電界効果トランジスターは,アメリカのリニエンフェルドJ.E.Linienfeldにより1928年に特許が提出されているが,バイポーラートランジスターは,48年にバーディーンJ.BardeenおよびブラッテンW.Brattainにより点接触トランジスターの形で報告されたものが最初で,その後49年にはショックリーW.Shockleyによりp-n接合およびp-n接合を用いたトランジスターの理論が発表され,次いで成長接合トランジスターの試作が発表された。実用的な電界効果トランジスターとしては52年にショックリーによる接合ゲート電界効果トランジスターの理論が発表された後,まもなく試作が行われ,MOS電界効果トランジスターが出現したのは60年代の初期である。
バイポーラートランジスターは1個の半導体結晶中の導電型をn-p-nあるいはp-n-pの形に図1のようにしたもので,真ん中のp層またはn層の厚さが電子または正孔の拡散距離に比較して十分薄いことが重要である。通常の動作状態では一方のp-n接合が順方向にバイアスされ,他方のp-n接合が逆方向にバイアスされている。前者のp-n接合をエミッター接合といい,後者のp-n接合をコレクター接合という。
エミッター接合は順バイアスされているのでベース領域に少数キャリア,すなわちn-p-nトランジスターでは電子,p-n-pトランジスターでは正孔を注入する。注入された少数キャリアはベース領域に存在する内蔵電界のためにドリフトし,これに拡散も加わってコレクター接合に到達する。コレクター接合は逆バイアスされているのでコレクターの空間電荷層に到達した少数キャリアは加速されてコレクター領域に流れ込む。したがってコレクター電流は単位時間当り到達した少数キャリアの量により決まり,コレクター電圧はある程度加わっていればその大きさによらないので,図2に示すように出力特性は定電流性を示す。
出力が定電流的であれば負荷抵抗が大きくても,ほぼエミッター電流と同じ大きさのコレクター電流が流れ,負荷抵抗に大きな信号電力を供給できる。一方,エミッター接合に供給される信号電力は小さいので,ほぼ負荷抵抗とエミッター接合の入力抵抗の比に等しい大きな電力利得が得られる。
上記のようにエミッターとベース間に入力信号を加え,コレクターとベース間から出力信号をとり出し,ベース電極が入出力端子に共通になるベース接地の方式では,コレクター電流はエミッターより注入された少数キャリアの分だけ減少するので,エミッター電流より小さくなる。図3に示すようにエミッター接地にすれば電流利得が得られるので,エミッター接地回路が多く使用される。
バイポーラートランジスターの動作周波数限界は,少数キャリアがベースを走行するのに要する時間と,エミッター接合の遷移領域容量の充電時間ならびにコレクター接合の空間電荷層中の少数キャリアの走行時間の和の逆数で決まる。
バイポーラートランジスターは増幅回路や発振回路を構成するほかにゲート回路を構成するのにも使用される。ゲート回路で入力ベース電流が大きく,コレクター接合が順方向にバイアスされる状態になると,ベース電流の向きを変えてコレクター電流を零にしようとしても,コレクター電流は直ちに零にならない。これはコレクター領域およびベース領域に蓄積されていたそれぞれの領域の少数キャリアが流出し,コレクター接合が逆バイアスになるために時間がかかるからで,この時間を少数キャリア蓄積時間という。
エミッター接地のバイポーラートランジスターの伝達コンダクタンスはエミッター直流バイアス電流IeによりqIe/kT(ただしqは電気素量,kはボルツマン定数,Tは絶対温度)で決まるので,トランジスターの寸法によらないことが特徴であるが,消費電力が大きい。
MOS電界効果トランジスターは図4に示すようにシリコン基板にSiO2膜を形成し,その上にゲート電極をつけ,基板の少数キャリアをシリコンとSiO2膜の界面に誘起する向き,すなわちp型シリコン基板を用いた場合には正電圧をゲートに加え,電界誘起によりチャンネルを形成する。この誘起されたチャンネルにオーム性接続を形成するために,チャンネルの導電型と等しい導電型の領域を不純物添加により形成し,これをソース,ドレインとする。ソース,ドレイン内に電圧を加えて電流を流すが,チャンネルにキャリアを流入させるほうをソース,チャンネルからキャリアを流出させるほうをドレインという。したがって,ドレイン・ソース間電流はチャンネルの抵抗体としての電気抵抗で決まり,ゲート電圧を変えることにより,チャンネル中のキャリア密度が変わり,電気抵抗が変わるのでドレイン・ソース間電流を変えることができる。
ゲートはチャンネルと絶縁されているので,ゲートに直流電流は流れず,したがって直流的には入力電力は零になるので,非常に大きな電力利得を得ることができる。
さらにドレイン電圧がゲート電圧より大きくなると,ドレイン近傍にはチャンネルが誘起されずドレイン接合の周囲には空間電荷層が発生する。この場合抵抗体としてのチャンネルはチャンネル電位がゲート電圧に等しくなった点で消失するが,それよりドレイン側ではちょうどバイポーラートランジスターのコレクターと同様にチャンネルの端にきたキャリアがドレイン接合の空間電荷層に入り,空間電荷層中の電界で加速されてドレインに到達する。この場合流れる電流は抵抗体としてのチャンネルを流れてきたキャリアの量により決まるので,ゲート電圧により決まり,ドレイン電圧にほとんど依存せず,図5に示すような定電流性を示す。
MOS電界効果トランジスターはバイポーラートランジスターに比較して製作に必要な工程が少ない反面,動作速度がチャンネルの長さで決まるため,バイポーラートランジスターよりも遅いのがふつうである。しかし消費電力が少ないので,大規模集積回路用素子としては適しており,とくにダイナミックRAMはMOS電界効果トランジスターで構成される。
執筆者:菅野 卓雄
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入力電力よりも大きな出力電力を取り出すことのできる個体増幅素子の総称.1948年,アメリカのJ. Bardeen,W.H. Brattain,W.B. Shockleyの3人によって発明された点接触型トランジスターが最初のもので,もっとも一般的なものは,図示のp-n-pまたはn-p-n接合型トランジスターである.それぞれの領域を,エミッター,ベース,コレクターとよび,エミッター-ベース間は順方向,ベース-コレクター間は逆方向にバイアスされる.順方向バイアス電圧信号によってエミッター部からベース中に少数キャリヤーが注入される.注入された少数キャリヤーの大部分は,ベース-コレクター間の逆バイアス電圧によってコレクター領域に達する.エミッター-ベース間の入力抵抗に比べて,ベース-コレクター間の出力抵抗は 104~105 倍大きいために,入力電力に対して出力電力は 104~105 倍に増幅される.図はベース側を共通電位にしたもので,ベース接地とよばれるが,回路設計上からエミッター接地,コレクター接地方式も用いられる.接合型トランジスターはベース中に注入された少数キャリヤーの動作によって引き起こされるもので,周波数特性は,ベース中を少数キャリヤーの通過する時間で決められる.周波数特性をよくするには,ベース層の幅をできるだけ薄くしたり(1 μm 程度以下),ベース領域中の不純物濃度分布を制御して空間電荷電界を形成して,少数キャリヤーを加速させたり(ドリフトトランジスター),いろいろ工夫されていて,1 GHz 程度まで使用できるものもある.一方,多数キャリヤーを制御してトランジスター作用を行わせるものに,電界効果トランジスターがある.また,p-n接合の光起電力効果を利用して,入力信号を光で行わせるものがフォトトランジスターである.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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