電離圏嵐(読み)でんりけんあらし(その他表記)ionospheric storm

日本大百科全書(ニッポニカ) 「電離圏嵐」の意味・わかりやすい解説

電離圏嵐
でんりけんあらし
ionospheric storm

太陽フレア(太陽面爆発)によって放出されるX線、極紫外線(極紫外光)、高速陽子、高速プラズマ流などが地球周辺環境に与える大規模擾乱(じょうらん)現象の一つ。電離圏の大規模な乱れで、地磁気の乱れと並行しておこる。電離圏嵐がおこると、電波伝搬が乱され、短波無線通信は著しく障害を受ける。

 太陽フレアによって発生したX線がまず地球に到来し、昼間側の超高層大気を電離する。このため、D領域、E領域の電離度が急増するので、昼間にあたる地域では、フレア直後に電波の吸収が急増し、通信が途絶することがある。デリンジャー現象フェードアウト)とよばれていたのはこの電波消失現象のことである。フレア後2~3時間たつと、高速陽子が到来し、極地域の極冠帯上空に侵入し、D領域の大気を電離する。これにより電波の吸収が増える現象は、極冠帯吸収または極冠帯消失とよばれている。フレアから1~3日たつと、高速プラズマ流が到来し、地磁気嵐と並行して、電離圏も極地域を中心に著しく乱される。とくに極地域のオーロラ帯では、オーロラ粒子が大気を電離し、E領域、F領域の電離度は増える。全地球的にみると、この乱れは主としてF領域に現れ、中高緯度帯ではF領域最大電子密度は減少するのに対し、低緯度帯では増加する傾向がある。

[小川利紘]

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改訂新版 世界大百科事典 「電離圏嵐」の意味・わかりやすい解説

電離圏嵐 (でんりけんあらし)
ionospheric storm

太陽のフレアにともなって放射される太陽宇宙線(おもに高エネルギーの陽子)および高速プラズマ流(太陽風)が,それぞれ平均数時間後および1~2日後に地球に到達し,極域をはじめ世界的規模で電離圏を数日間にわたって激しく乱す現象をいう。電離圏あらしによって電離層伝搬の電波を利用している種々の無線通信が障害を受ける。太陽フレアにともなう電磁波の異常放射は直後に急始電離圏じょう乱(デリンジャー現象)を起こすが,粒子の異常放射は電磁波より遅れて地球にじょう乱を起こす。太陽宇宙線は地球磁場磁力線に導かれて磁極を中心とする極冠域の電離圏D領域から成層圏にかけての大気中に侵入し,大気を強く電離する。特にD領域の異常電離により,極冠域を通る無線通信回線について短波帯通信の途絶などの通信障害が発生し,これらは数日間続くことがある。太陽からは太陽風とよばれるプラズマ流が常時流出しており,通常の太陽風速は400~500km/sであるが,太陽フレアで発生するプラズマ流速は1000km/s程度と高速である。高速プラズマ流が地球の磁気圏にぶつかるとき,地球磁場が大きく変動する地磁気あらし,極域での激しいオーロラ現象,および世界的規模でF領域の電子密度が変化するF領域電離圏あらしが発生し,これらは数日間継続する。オーロラの原因となるオーロラ粒子の降り込みによって,極域電離圏のE,D領域が異常電離されるため,オーロラ帯を通る通信回線に障害が発生する。F領域電離圏あらしは高緯度から中緯度にかけての広い範囲でF2層の電子密度が低下する現象である。この原因は,オーロラ帯への粒子の降り込みとオーロラ帯の強い電離圏電流によって,極域超高層大気が加熱されて大規模な大気運動が起こり,中性大気の組成が広い範囲で変化することによると考えられている。F領域あらしの結果,遠距離無線通信に使用されていた電波が電離層を突き抜けてしまい,受信点に電波が到達しなくなるため通信が途絶する。国際協力のもとに太陽に起因する電離圏あらしを予知し,無線通信利用者にあらかじめ警告するようにしており,これを電波警報という。
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