日本大百科全書(ニッポニカ) 「デリンジャー現象」の意味・わかりやすい解説
デリンジャー現象
でりんじゃーげんしょう
Dellinger effect
短波による国際無線通信が一時的に途絶する現象。アメリカのJ・H・デリンジャーが報告したところからこの名がつけられている。フェードアウトfade outともいう。国際通信の途絶は短いときは5~10分、長いときは数時間も続く。これは太陽表面のフレアflareという突発的爆発現象に基因している。すなわち、そのフレアによって強力な短波長放射や微粒子放射(プラズマplasmaまたは太陽風)が発生し、その刺激によってこの現象がおこる。このうち短波長放射(1000オングストローム以下の紫外線やX線)は、光速度3×105km/secで進み、約9分で地球の超高層に達して下部電離層(DおよびE層)を乱す。ただしこの場合、昼間側の層の電子密度の異常増加を引き起こす。そしてこの層、とくにD層は電波に対して減衰を与える役割をなす。その減衰度は電波周波数の二乗に反比例し、低い周波数ほどそれが激しい。したがって、D層で電子密度が増加すれば吸収が著しく、ここを電波の反射点としている通信回線では電波障害が大きい。しかもそれは低緯度で著しくおこる。
一方、太陽風は地球に向かう速度がより遅く1.4×103km/secで、約26時間ほどで地球に達し、地球磁場の影響でとくに極地方に集まり、オーロラ現象を生じたり、地球の磁気嵐(あらし)を引き起こす。これは数日間は続き、しかもこれらの現象は昼間側に限らない。統計的には27日の周期性があり、太陽の自転の27日とほぼ一致することから、地球から見たときは太陽面の同じところを見ることになる。しかし、これは太陽の黒点数の少ないときのことであり、そのときはフレアも比較的少ない。一般に、フレアの激しいとき、すなわちデリンジャー現象の活発なときの予測は非常に困難である。
[内田英治]