定比例の法則にしたがわない化合物。不定比化合物,ベルトライド化合物berthollide compoundなどともいう。化合物は多くの場合定比例の法則にしたがい,構成元素の原子比が簡単な整数比となるのであって,通常の化学式や化学反応式などもこの法則の上にたって書かれている。ところが簡単な整数比にならず,また一定しない化合物の一群がある。一般に結晶格子の欠陥構造によることが多く,陽性成分をM,陰性成分をXとするとき,MあるいはXのいずれかの成分が一定比よりも多く結晶格子の間に侵入して生ずる侵入型と,いずれかの成分の格子が不足しているような欠損型とがある。侵入型では,たとえば遷移金属の水素化物,炭化物,窒化物などがあるが,これは金属原子の格子のすき間に小さな原子が入りこんでできるものであって,PdH07,ZrH192,TiH173,LaH276,CeH27などがこれに相当する。Hの入る量には限度があって,上記の値以下の数値をとり,不定比性が強く性質はかなり金属に近い。欠損型の例は遷移金属の酸化物,硫化物,セレン化物などにみられる。たとえば,TiO060~135,Fe091~095Oなどで,これらは,結晶格子の中でいずれかの原子の格子位置が空いている欠損構造によるものである。こうした格子欠陥に由来する非化学量論的化合物では,原子比がある比率範囲を連続的に変わることになる。
しかし,つねにそう簡単なものだとはいえない。たとえばMoO3はMoのまわりに六つのOが八面体形6配位に結合し,Oは二つのMoと結合して結晶をつくっているが,このうち一部のOを引き抜き(つまり還元して),格子面をずらして八面体の稜を共有させると,Mo4O11,Mo5O14,Mo8O23,Mo9O26などの結晶が得られる。これらはそれぞれ,MoO275,MoO280,MoO288,MoO289などと書かれるが,上記のように定比化合物であり,MoⅤおよびMoⅥが共存しているものと考えられる。WO272(W18O49),WO290(W20O58),WO292(W25O73),WO295(W40O118)などもそうである。またタングステンブロンズNaxWO3(x=0.3~1.0)では,WO3の結晶格子の間にNa原子が入りこんだ非化学量論的化合物であるが,これもWⅤとWⅥとの共存とも考えられる。
執筆者:中原 勝儼
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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