改訂新版 世界大百科事典 「面繫」の意味・わかりやすい解説
面繫 (おもがい)
馬の口に轡(くつわ)をはめるため頭部にからめる装具で,頭絡にあたる。騎馬,輓馬,耕馬,駄馬のいずれであっても,人間が馬を制御するための必需品である。本体は組緒,織緒,絎紐(くけひも)または革でつくられていて,頰と頭頂をめぐって轡をつける簡単なものから,額,咽喉,鼻,顎の部分にもわたすものなど,さまざまな型式があり,それぞれの交差個所に辻金具を使うことが多い。額,頰,鼻の部分には飾金具や杏葉(ぎようよう)を飾りつけることが多く,正倉院には鹿角製の玉を赤と白と黒に染め分けて連ねた例があり,中国の殷代の墓からは子安貝を連ねた面繫を頭部にからませた状態で出土したことがある。馬面や銀面も面繫に着装される。面繫は装飾的な要素をもつ胸繫(むながい)ならびに尻繫とともに三繫と呼ばれ,三懸,三掛とも書き,その総称として鞦(しりがい)の字も用いられた。胸繫は胸から鞍橋に掛け渡して前輪の鞖(しおで)に結びつける飾りで,杏葉や馬鐸(ばたく)を垂下し,馬鈴,飾金具などをつける。前輪に鞖のない鞍では鞍橋の下にとりつけたようである。尻繫は鞍橋の後輪(しずわ)にとめつけて馬の尻を飾るもので,飾馬では尻の要所に雲珠(うず)を配置し,革緒が交差するところに辻金具をつけ,杏葉を垂下する。正倉院の玉面繫には,象牙や犀角と思われる玉も交えて鹿角玉を連ねた胸繫と尻繫が用いられた。馬具のなかでは最も装飾的な要素の強い部分であり,着装方法は多様であるが,尻の中央上部に中心となる雲珠を配置するものと,配置は不明だが雲珠を2個使うものと,革緒を格子状に交差させて尻の両側に多くの杏葉を垂下する3種類に大別することができる。
→馬具
執筆者:小野山 節
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報