(読み)クツワ

デジタル大辞泉 「轡」の意味・読み・例文・類語

くつ‐わ【×轡/×銜/×鑣】

《口輪の意》手綱たづなをつけるため、馬の口にかませる金具。くつばみ。くくみ。「―をとる」
手綱。
紋所の名。円形の中に十字を置く。轡の鏡の部分の形をかたどったもの。
遊女屋。また、遊女屋の亭主。忘八ぼうはち
「女郎は浮気らしく見えて心の賢きが上物、と―の又市が申せし」〈浮・一代男・六〉

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精選版 日本国語大辞典 「轡」の意味・読み・例文・類語

くつ‐わ【轡・銜・勒】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 馬の口にはませる金具。口の中に入れる噛(はみ)と、面懸(おもがい)にとりつける立聞(たちぎき)につづく鏡(かがみ)、手綱をつける承鞚(みずつき)から成り、鉄または銅でつくられる。鏡の形状により、唐轡(からぐつわ)、鏡轡(かがみぐつわ)杏葉轡(ぎょうようぐつわ)、木葉轡(このはぐつわ)出雲轡(いずもぐつわ)などの種類がある。また、材質により、鉄を磨いた白轡、銀銅の銀轡、金銅の金轡、漆(うるし)を塗った塗轡などの類がある。くつばみ。くくみ。〔享和本新撰字鏡(898‐901頃)〕
    1. 轡<b>①</b>
  3. につけて、馬の頭上から首にからみつける革や糸の飾りひも。おもがい。
  4. の承鞚(みずつき)につけて、馬をあやつる綱。手綱。くつわづら。
    1. [初出の実例]「或有は馬勒・馬控(クツワ)・馬に中る」(出典:岩淵本願経 律平安初期点(810頃))
  5. 紋所の名。馬のくつわをかたどったもの。轡、轡菱、内田轡、角轡、陰の轡、花轡などの種類がある。
    1. 轡@轡菱
      轡@轡菱
  6. 遊女をかかえておく家。遊女屋。また、その家の主人。くつわや。ぼうはち。
    1. [初出の実例]「此の女思ひ侘びて揚屋(あげや)へ行く〈略〉集ひて殿達の御出なれば、轡(クツハ)出て、奥に誘(いざな)ひ入れて退きぬ」(出典:仮名草子仁勢物語(1639‐40頃)下)
  7. 和菓子の名。「あかだ」と同じく、江戸時代に尾張国(愛知県)津島で、津島神社の県祭(あがたまつり)に参詣する人の、厄病よけ、邪気払いのみやげとしてつくられたもの。油で揚げた米団子で、もと、馬のくつわの形をしていたので、この名がある。

くつ‐ばみ【轡・銜・勒・&JISEF69;】

  1. 〘 名詞 〙くつわ(轡)
    1. [初出の実例]「悪因轡(クツハミ)を連ねて苦しき処に〈国会図書館本訓釈 轡 久ツ波彌乎〉」(出典:日本霊異記(810‐824)中)
    2. 「主従八騎屹っと見帰て馬の轡(クツバミ)を引回すとぞみへし」(出典:太平記(14C後)一〇)

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普及版 字通 「轡」の読み・字形・画数・意味


22画

[字音]
[字訓] たづな・くつわ

[説文解字]
[金文]

[字形] 象形
馬のくつわの形。初形は車に従わず、その部分を(けい)の形に作る。〔説文〕四下(ち)を録しており、その字形に含まれているは、馬の鼻をつなぐものである。轡(たづな)はその馬の鼻をつなぐ紐を中心として、左右に紐をめぐらしている形で、その全体形が轡である。〔説文〕十三上に「馬の轡なり」とし、字を絲ととに従う形としている。

[訓義]
1. くつわ、くつばみ。
2. たづな、くつばみのひも。
3. つなぐ、つなぐひも。

[古辞書の訓]
和名抄〕轡 久豆和良(くつわづら)と訓む。俗に久和(くつわ)と云ふ 〔名義抄〕轡 クツバミ・クツハ・クツハヅラ

[熟語]
轡銜轡筴・轡首・轡頭轡輿轡勒
[下接語]
按轡・鞍轡・委轡・雲轡・銜轡・急轡・御轡・金轡・挈轡・策轡・弛轡・執轡・柔轡・垂轡・轡・絶轡・旋轡・操轡・長轡・停轡・投轡・頓轡・馬轡・飛轡・撫轡・分轡・轡・秉轡・方轡・奉轡・約轡・攬轡・六轡・連轡・勒轡

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改訂新版 世界大百科事典 「轡」の意味・わかりやすい解説

轡 (くつわ)

馬の口にくわえさせて馬を制御するのに用いる用具で,大部分が金属製。馬を使う上で最も重要なものである。馬の口中に入る部分を銜(はみ),銜の両端につけて轡を面繫(おもがい)につなぐ部分を鏡板(かがみいた),銜の両端に組み合わせて手綱を結びとめる棒状の部分を引手(ひつて)という。騎乗者や御者はこの手綱を通じて馬を制御する。轡の字はもともと〈たづな〉の意で,現代の中国語でも手綱を指し,銜の字が〈くつわ〉を意味するというように,同一の漢字でも内容の違うことがあるので注意を要する。轡を構成する部分のなかでは鏡板の形制が変化に富んでいるので,その形によって馬具の系統などが論議されるが,銜の形による大別も重要である。ルリスタン青銅器中の轡によく見られるように,銜が一本棒からなるもの,2本の棒を中央で組み合わせた二連銜,3本を組み合わせた三連銜がある。三連銜は漢代特有の形式といわれてきたが,近年の出土品によると,中原ではむしろ二連銜が一般的である。また一方,三連銜は前1千年紀の地中海地域にもある。銜には捩(よじ)れを加えたり,多数の突起をつけたりして,制御の効果を高めようとしたものもある。最古の轡の証拠は,黒海沿岸で発見された前2千年紀前半までさかのぼる骨製の棒状鏡板である。前2千年紀後半には青銅や鉄の轡が主流となった。東アジアでは,殷代の轡が最も古いが青銅の鏡板だけしか残っていない。西周時代に青銅製の二連銜が現れ,後漢代に鉄製品が登場した。春秋戦国時代から後漢代にいたる鏡板は概して棒状である。日本の古墳から出土する二連銜板状鏡板の轡は魏晋南北朝時代の系統をひくものである。正倉院には茨(いばら)のように刺(とげ)をつけた鏡板をもつ蒺蔾銜(うばらぐつわ)があり,平安時代に唐の棒状鏡板付轡から変化したものが唐鞍(からくら)轡として使われたほかは,輪郭が杏葉(ぎようよう)形の鏡板をもつ杏葉轡,十文字形を残して透しを入れた鏡板をもつ十文字轡,円板状の鏡板をもつ鏡轡,この鏡板に透しを入れることから変化した透し轡などが江戸時代まで用いられた。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「轡」の意味・わかりやすい解説


くつわ

ウマの口に取り付け、手綱(たづな)をつけてウマを御する馬具。日本語の起源は口輪(くちわ)から転訛(てんか)したとする説がある。古くは「くつばみ」といい、手綱のことを「くつわ」ということもあった。轡のことを勒(ろくはみ)や銜(くつわはみ)という語を用いることがある。現在の轡は、金属製、ゴム製、ナイロン製などがある。轡には小勒銜(しょうろくばみ)と大勒銜の2種類がある。小勒銜は2個の棒状の「はみ身」とその先端にはみ環(かん)(引き手)があり、はみ環に手綱がつけられる。大勒銜は「はみ身」「はみ枝」「轡鎖(くつわくさり)」の3部からできている。はみの部分はウマの口腔(こうくう)の切歯(せっし)と前臼歯(ぜんきゅうし)との間の歯のない部位(槽間縁(そうかんえん))に取り付ける。

 人類は最初、ウシと同じように鼻環をウマに取り付けていたが、ウマの口腔の解剖学的構造を巧みに利用して轡を発明した。轡は、初めは布、綱、革紐(ひも)などが用いられていた。最古の固定した轡としては、紀元前2000年ころ鹿角(ろっかく)製のものが出現している。その後、青銅製から鉄製になっている。日本にはアジア大陸から鉄製の轡が渡来している。古墳時代の出土品には、「はみ身」に鏡板がついていて、当時の優れた技術を知ることができる。

[松尾信一]

『日本乗馬協会編『日本馬術史 第3巻』(1940・大日本騎道会/復刻版・1980・原書房)』『森浩一編『日本古代文化の探求・馬』(1979・社会思想社)』『加茂儀一著『騎行・車行の歴史』(1980・法政大学出版局)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「轡」の意味・わかりやすい解説


くつわ
bit

馬具の一種。馬の口にはめ,手綱につないで馬を制御する道具。日本では馬の口に入るところを馬銜 (はみ。喰) ,面繋 (おもがい。→三繋 ) を受ける壺金を立聞 (たちぎき) ,手綱をつなぐ部分を引手,馬銜の両端にある板を鏡板という。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【ウマ(馬)】より

…奇蹄目ウマ科ウマ属の哺乳類。現世のものはウマ科ウマ属しかない。ウマ属には,ウマ亜属(プシバルスキーウマ,家畜のウマおよび絶滅したターパン),アジアノロバ亜属(オナジャー,キャン),グレビーシマウマ亜属(グレビーシマウマ),シマウマ亜属(サバンナシマウマ,ヤマシマウマ,絶滅したクアッガ)と,それらと古く分かれたロバ亜属(アフリカノロバと家畜のロバ)がある。北アメリカ起源であるが,現代では野生種はアジア,アフリカにだけ分布する。…

【馬具】より

…馬の機能からみると,制御用,騎手や荷物の安定用および牽引力の伝達用,装飾,武具などの身体を保護するものに四大別することができる。第1の馬を制御するために必要な装具は,(くつわ)と轡を頭に固定させる面繫(おもがい)と手綱とである。第2は騎手の安定を保つための(くら)と鞍の両側にさげて足をかける(あぶみ),あるいは荷物をのせる鞍,車や犂(すき)を付ける装具である。…

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