靴を履くときなどに、足にはく内ばきの総称。つまさきから脚部までを覆う。長さはさまざまであるが、膝下(ひざした)までの短靴下(ソックスsocks)と、大腿部(だいたいぶ)までの長靴下(ストッキングstockings)の2種類に大別できる。靴下は、片足ごとに分離しているのが原則で、腰部で一体になっているものはタイツtightsとして区別している。織物、皮、編物などでつくられるが、今日では編物が大部分を占めている。靴下は、靴と足の摩擦の緩衝、脚部の保護、防寒、脚線の美しさを高めるなどの目的ではかれる。人類初期のころ北方地域では、干し草や毛髪、羊毛を靴の中に入れたり、直接、毛皮で靴下の機能を代用したりする保温が主目的であった。より南の地域では、足の保護を主眼としており、靴下の発生は靴やズボンのそれと明確に区別されにくい。
[深井晃子]
現存する最古の手編み靴下は、4~5世紀、エジプトのコプト時代につくられた厚手毛糸編みのソックスである。7世紀中期、編物技術はエジプトからアラブ人へと伝えられ、8世紀にはイスラム文化とともにイベリア半島へ伝播(でんぱ)した。この技術は、15世紀以降、北ヨーロッパへと伝えられて行くが、北ヨーロッパでは、16世紀後期ごろまで、靴下というよりも一種のズボンであるホーズhose(フランス語ではショスchausses)が用いられていた。これは布や革で、脚部にぴったりとフィットさせるために裁断縫製されたものであった。16世紀ころ以降、ホーズはしだいにパンツ部分(ブリーチズbreeches、フランス語ではオー・ド・ショースhaut-de-chausses)と靴下とに分離していき、靴下は、ストックスstocks、のちにストッキング(フランス語ではバ・ド・ショースbas-de-chausses)とよばれるようになり、編物がそれまでの布製にとってかわった。さらには1589年、イギリス、カルバートンの牧師ウィリアム・リーWilliam Lee(?―1610)によって、画期的な靴下の枠編機が発明された。その後、1656年には弟のジェームズによって、ロンドンに枠編業者組合が設立され、イギリスは17世紀末にはヨーロッパ随一の靴下工業国となった。
17世紀の男子靴下は衣装の重要なポイントであり、さまざまな靴下がつくられた。最上のものはシルクで、凝った装飾が施されていた。より安価なものは木綿やウールでつくられた。16世紀から19世紀になるまでは、膝でガーター留めにする長靴下がはかれたが、1820年代から30年代に長ズボンが一般的になると、以後ソックスが主流となっていく。今日では、はき口(トップ)に細いゴム糸を挿入した組織をつけたソックスが一般化し、ガーターは使用されなくなった。
一方、女性用靴下は20世紀の初めまで、長いスカートに隠されていたが、女性の隠れた楽しみの一つとして多様な流行をみせている。18世紀には、白靴下の流行、19世紀には透し編み、刺しゅう、レース、紋章入り、あるいは歴史的できごとを描くといった、精緻(せいち)な装飾を施した靴下が流行した。1900年には、フレンチ・カンカンからの発想で、黒靴下の流行が生まれた。第一次世界大戦以後、スカートの短縮化に伴い、女性靴下の選択基準は変化していく。肌の色にできるだけ近い、したがって透明感のあるものが好まれるようになった。これには絹が最上であり、木綿のライル糸、羊毛なども用いられた。第二次大戦中は絹靴下が欠乏し、多くの女性は素足を余儀なくされた。ボビー・ソックス(女子学生がはく短い靴下)が流行したのもこのころである。
靴下にとって画期的なナイロンは、1935年アメリカのデュポン社のカロザースCarothersによって発明された。40年にはナイロン・ストッキングが発売されたが、本格的に絹靴下にとってかわったのは、戦争が終わってからである。ミニスカートが大流行した60年代になると、ナイロン・ストッキングにかわってパンティ・ストッキング(パンティ・ホーズ)が多くの女性たちの支持を得た。ガーター・ベルトやガーターを必要としない、より機能的なパンティ・ストッキングは、外衣の流行と呼応しながら、さまざまな色や柄の変化を生み出しながら現在に至っている。
[深井晃子]
日本では、7~8世紀、束帯のおり、沓(履)(くつ)の下に襪(しとうず)という布製の沓下(くつした)が用いられたことが、正倉院の宝物によって知られている。しかし今日、靴下といえば西欧から伝わった編み靴下をさし、17世紀初頭の慶長(けいちょう)・元和(げんな)(1596~1624)の南蛮貿易時代に、他の渡来品とともに初めて靴下が日本にもたらされたといえる。現存する最古のものは、17世紀後半と推定される、水戸・徳川家所蔵の木綿の長靴下であり、光圀(みつくに)公所用と伝えられている。当時それが「メリヤス足袋(たび)」とよばれたことは、たとえば江戸初期の『洛陽(らくよう)集』に「唐人の古里寒しメリヤス足袋 眠松(ミンショウ)」とあることによっても知られよう。また、『長崎夜話草(やわそう)』(1719)に「女利安(めりやす)、紅毛(おらんだ) 詞なる故に文字なし足袋(たび) 手覆(ておひ) 綿糸(もめんいと)又は真糸にて漉(すき)たるもの何里 根本紅毛人長崎女人におしへ多里」とある。メリヤス(莫大小、目利安)の語源は、スペイン語のメディアスmedias、ポルトガル語のメイアスmeiasであり、いずれも靴下を意味する。1871年(明治4)、西村勝三がアメリカから靴下編機を輸入して、東京・築地(つきじ)に工場を設立し、日本で初めて機械編靴下が生産された。その後靴下は、日清(にっしん)、日露戦争以来、戦争のたびごとに、軍需品として大幅な需要増大となった。
[深井晃子]
『坂田信正・山本恒二著『くつ下読本』第7版(1975・日本靴下協会)』
爪先から脚部をおおう衣類。綿,麻,絹,毛織物,毛皮,化学繊維などで作られ,長さや厚さによってソックス,ハイソックス,タイツ,パンティ・ストッキングなどさまざまの種類がある。脚部だけをおおう習慣は,ゲートル風にひも状のものを巻きつけたものがエジプトやギリシアでみられ,中世にも引き続き用いられてきた。布でおおうようになったのは,15世紀終りころから16世紀にかけてである。この時代に,それまで足首まで達していた長い丈の男子服が,腰部をおおうだけの短い胴衣ダブレットになり,あらわになった脚部をおおうタイツ風のズボン(英語ホーズ,フランス語ショース)と組み合わせて着るようになった。このズボンは股上を縫い合わせないで片脚ずつはき,上衣にひもなどで結びつけていた。色や柄の異なるものを片方ずつはくことが,ミ・パルティmi-partiと呼ばれて流行した。16世紀にブリーチズというゆったりしたズボンがあらわれると,下から見える脚部にひざまでの長さの靴下をはくようになり,17世紀以後,男女とも用いた。靴下を留めるのにはガーターと呼ばれるひもを用いた。蝶結びにしたり,バックルをつけたりして装飾の一つでもあった。イギリスでは,ヘンリー8世と王妃のために,黒と金や,金銀を織り込んだ絹の靴下がつくられた。またエリザベス1世に,彼女の仕立師であるモンタギュー夫人は,黒い絹のメリヤス編の靴下を献上した。16世紀の終り,ウィリアム・リーが靴下編機を発明,それまでのはき心地の悪い布製のものに代わって,伸縮のきく編物の靴下が,しだいに用いられるようになった。1830年代に,男子の半ズボンが長ズボンに変わると,短い丈の靴下(ソックス)になった。女性は長いスカートの下に靴下をはき,ガーターを巻いて留めていたが,20世紀の初めになってコルセットに靴下をつるためのサスペンダーがつけられた。
日本へは16世紀後半の南蛮貿易によってもたらされ,徳川光圀所用のメリヤス製靴下が今に残っている。しかし一般に広まるのは洋服,洋靴の普及した明治末期になってからである。第1次大戦後,女性のスカートが短くなると,昼間はベージュ,グレー,黒など,夜にはドレスに調和した色のものが用いられた。透明感のある絹の靴下がもてはやされたが,かなり高価なものであった。1938年,アメリカのデュポン社によってナイロンのストッキングが発明され,翌年市場へ出て,第2次大戦後は世界的に広まった。当初のストッキングは各部を縫い合わせてつくるため,はいた場合に後ろに縫目があったが,その後縫目のないシームレス・ストッキングもつくられた。60年代後半のミニ・スカートの流行で,腰部までおおうタイツ状のパンティ・ストッキングが普及した。
執筆者:池田 孝江
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…1417年,ドイツで綿糸,麻糸,毛糸による手編が始まり,15世紀後半にはイギリスでも編物が用いられ始めた。1527年,フランスに編靴下組合が設立され,16世紀後半になると,ドイツやイギリスでも絹の編靴下が貴族に用いられた。88年,イギリスの牧師リーWilliam Leeがヒゲ針を用いた靴下編機を発明し,翌年にはさらに1インチ20ゲージ(後述)のフルファッション(成型編)絹靴下編機に発展した。…
※「靴下」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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