めりやす

精選版 日本国語大辞典 「めりやす」の意味・読み・例文・類語

めりやす

〘名〙
① (俳優のしぐさにあしらうもので、俳優と三味線の手の関係の自由さが、当時流行しだしたメリヤスに似ているための俗称。また、一説に「滅入りやすい」曲であるからとも、上方唄の「ぬめり」の変化したものともいう) 歌舞伎下座音楽・長唄一種。歌舞伎舞台で、ものおもい、愁嘆などのせりふのない演技が行なわれる際に、抒情的な効果をあげるために演奏される。三味線・唄とも独吟が普通だが、二人ずつの両吟もあり、もの静かな沈んだ曲調のものが多い。安永~寛政年間(一七七二‐一八〇一)頃が最盛期。のち芝居に関係のないものもでき、長唄の一つに分類される。「五大力」「黒髪」など。めりやすぶし
洒落本跖婦人伝(1753)「おりおり御こえのはなへぬけるも、兵四郎風のめりやすには、どふもいはれますまいし」
義太夫節の三味線で、人物の軽い対話や動作の伴奏としてあしらうもの。

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デジタル大辞泉 「めりやす」の意味・読み・例文・類語

めりやす

長唄の一種で、ふつう歌舞伎下座音楽として、物思い・愁嘆などの無言の演技のとき、叙情的効果を上げるために独吟または両吟で演奏するもの。もの静かな沈んだ曲調が多い。
義太夫節の三味線の手で、人物の軽い対話や動作の彩りとして、短い手を繰り返し演奏するもの。
[補説]メリヤスのように曲が劇に合わせて伸び縮みするからとも、「滅入りやすい」調子の曲だからともいう。

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改訂新版 世界大百科事典 「めりやす」の意味・わかりやすい解説

めりやす

邦楽用語。(1)長唄の一分類。色模様,述懐,髪梳き,愁嘆などの場面で,せりふがないために起こる舞台上の欠陥を補いながら,舞台効果を一段と高めるためにうたわれる抒情的な短編の長唄。黒御簾(くろみす)の中(下座)で三味線のみを伴奏楽器として演奏される独吟物である。最古のめりやすは1731年(享保16)正月,江戸中村座初演の《無間の鐘(むけんのかね)》といわれ,本調子,二上りものもあるが,大部分は三下りの曲である。《黒髪》《もみじ葉》《五大力(ごだいりき)》《明の鐘(あけのかね)》などが長唄めりやす物として知られているが,《四谷怪談》のお岩の髪梳きに使われる《瑠璃(るり)の艶(つや)》や《忠臣蔵》七段目に使われる《小夜千鳥》なども名高い。その語源についてはいくつかの説があるが,俳優の動作に合わせて長くも短くもうたえるため,伸縮自在の織物〈莫大小(めりやす)〉の名前をあてはめたというのが通説。
執筆者:(2)義太夫節の三味線だけの旋律をいうが,やや長い詞(ことば)にあしらって弾く場合と,合(あい)の1種で,人形の動作のあしらいとなる,ややまとまった旋律をいう場合とがあり,短い手の反復の場合もある。また,胡弓,箏,八雲琴などが合奏されたり,数挺の三味線を使用することもある。文楽では蔭で演奏されることもあり,(ゆか)で弾く場合は,〈床のめりやす〉ともいう。〈波のめりやす〉,〈立回りのめりやす〉など,特定の型となっているものや,傘を用いる見得のある立回りに用いる《かさや》など,特別の名称のあるものもある。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「めりやす」の意味・わかりやすい解説

めりやす

三味線音楽用語。

(1)長唄(ながうた)では、歌舞伎(かぶき)の舞台で、色模様、髪梳(かみす)き、愁嘆、述懐など動きの少ない場面に、その舞台効果を高めるために唄われる叙情的な短編の独吟(どくぎん)物。下手(しもて)の黒御簾(くろみす)の中で三味線だけを伴奏楽器として演奏される。大部分は三下(さんさが)りの陰気な沈んだ曲だが、二上(にあが)り、本調子のものもある。現存最古のめりやすは、1731年(享保16)正月、江戸・中村座で坂田兵四郎が唄った『無間の鐘(むけんのかね)』といわれ、そのほか伝存曲としては『もみじ葉』『黒髪(くろかみ)』『五大力(ごだいりき)』『明の鐘(あけのかね)』『白妙(しろたえ)』などがある。また特殊な曲に、『忠臣蔵』七段目に使う『小夜千鳥(さよちどり)』、『四谷怪談』のお岩の髪梳きに使われる『瑠璃の艶(るりのつや)』がある。語源については諸説あるが、俳優の動作にあわせて長くも短くも唄われるため、織物のメリヤス(莫大小)の伸縮自在に共通するとして名づけられたというのが通説である。

(2)義太夫(ぎだゆう)節において、三味線を語りの伴奏とはせず、人物の会話や動作に軽くあしらう三味線の旋律のことをいう。『伊賀越道中双六(いがごえどうちゅうすごろく)』の沼津の段で平作と十兵衛の対話の場面などで聞かれる。

[植田隆之助]

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百科事典マイペディア 「めりやす」の意味・わかりやすい解説

めりやす

日本音楽,特に劇場音楽用語。(1)歌舞伎では,情緒的な場面に下座で奏する抒情的な短い曲(通常,唄1人,三味線1人)。(2)文楽では,舞台の人形の動きにそえる三味線だけの旋律のこと。語源は諸説あるが,音楽的に伸縮自在なことを編物のメリヤスになぞらえたともいう。
→関連項目独吟

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世界大百科事典(旧版)内のめりやすの言及

【下座音楽】より

…〈唄〉は,〈素唄(すうた)〉の場合もあるがふつうは三味線の伴奏を伴う。特殊な演出効果をねらう〈独吟〉〈両吟〉の〈めりやす〉と,数人でうたわれる〈雑用唄(ぞうようた)〉に分けられる。地歌,長唄,端唄などの既存曲の一部をとったものが多いが,芝居のために作られた曲も多い。…

【ぬめり】より

…京都の三味線の名手,岸野次郎三郎が,遊女の位によって弾き分けたことは有名。なお,それらが長唄の〈めりやす〉に転訛(てんか)したという説もある。現在,長唄《天人羽衣》の〈花の色香も……〉の部分を傾城などの出に用いた場合に,〈ぬめり唄〉ということがある。…

※「めりやす」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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