鞘当(読み)さやあて

精選版 日本国語大辞典 「鞘当」の意味・読み・例文・類語

さや‐あて【鞘当】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 路上ですれちがった武士が、互いに刀の鞘をぶつけること。また、それをとがめだてすること。転じて、わずかのことをとがめて争うこと。つまらないことに意地をはること。
    1. [初出の実例]「日本半分かまはれにけり 鞘当や源平互に急度見て〈宗因〉」(出典:俳諧・物種集(1678))
  3. 歌舞伎趣向の一つ。二人の武士が行きちがいに刀のさやを当てたことがもとで争いになるというもの。遊里で傾城葛城(けいせいかつらぎ)をめぐって不破伴左衛門と名古屋山三が争うという内容が多い。元祿一〇年(一六九七江戸中村座の「参会名護(さんかいなごや)」ではじめて演じられ、種々の変遷ののち、「浮世柄比翼稲妻(うきよづかひよくのいなづま)」に至って形式が固まった。
    1. [初出の実例]「不破に名古屋のさやあてサ」(出典:滑稽本・七偏人(1857‐63)五)
  4. ( から ) 二人の男が一人の女性を争うこと。また、その争い。恋の鞘当て。
    1. [初出の実例]「こなさんとは鞘当(サヤアテ)で、とうとう今は女房に」(出典:歌舞伎・謎帯一寸徳兵衛(1811)大切)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鞘当」の意味・わかりやすい解説

鞘当
さやあて

歌舞伎(かぶき)劇の局面の一つ。2人の武士が、往来で刀の鞘が打ち当たったことから争いとなる筋。1697年(元禄10)2月、江戸・中村座初演の『参会名護屋(さんかいなごや)』に扱われた不破伴左衛門(ふわばんざえもん)と名護屋山三(なごやさんざ)の鞘当が始まりで、以後「鞘当」といえば、たいてい不破と名護(古)屋の争いをさす。後年には、不破を名古屋の恋人の遊女葛城(かつらぎ)に横恋慕する敵役(かたきやく)として描き、廓(くるわ)内での鞘当によって対立が頂点に達するという趣向が定型になった。その代表作は1823年(文政6)3月江戸・市村座初演の4世鶴屋南北(つるやなんぼく)作『浮世柄比翼稲妻(うきよがらひよくのいなずま)』の一番目大詰で、現在では独立した一幕物の『鞘当』としても上演される。なお、一般語でも、1人の女を挟んで2人の男が争うことを、恋の鞘当とよんでいる。

[松井俊諭]

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改訂新版 世界大百科事典 「鞘当」の意味・わかりやすい解説

鞘当 (さやあて)

浮世柄比翼稲妻(うきよづかひよくのいなずま)

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「鞘当」の解説

鞘当
(通称)
さやあて

歌舞伎・浄瑠璃外題
元の外題
浮世柄比翼稲妻 など
初演
文政6.3(江戸・市村座)

出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の鞘当の言及

【浮世柄比翼稲妻】より

…傾城葛城となった岩橋は山三の浪宅を訪問し,山三の下女となったお国は彼の危難を救って死ぬ。夜桜の吉原で伴左衛門と山三が鞘当(さやあて)し争うところを長兵衛女房お近(半四郎)が仲裁。小紫を中に扇蝶実は権八と蘭蝶実は権八の兄弥市(2世関三十郎)の恋争いの後,小紫が蘭蝶に身請されてきたのは非人小屋で,二人ともここで死ぬ。…

【名古屋山三郎】より

…この影響下に1680年(延宝8)3月(ただし座組からは貞享年間か)江戸市村座において歌舞伎《遊女論》が上演され,初世市川団十郎の不破,村山四郎次の山三郎,伊藤小平太の葛城で大当りであった。97年(元禄10)正月江戸中村座上演の《参会名護屋(さんかいなごや)》に山三郎・不破の〈鞘当(さやあて)〉の趣向があらわれ,この後,さまざまな鞘当物がつくられるようになった。出雲のお国【鳥居 フミ子】。…

【不破伴左衛門】より

…歌舞伎《鞘当(さやあて)》の主人公として登場する人物。その最初は江戸の土佐浄瑠璃《名古屋山三郎》(延宝ごろ上演)で,不破伴左衛門は名古屋山三郎の友人として登場し,遊女葛城(かつらぎ)を争って山三郎の父を殺害し,親の敵として山三郎に討たれる。…

【昔話稲妻表紙】より

…山三郎と遊女葛城(実は不破の妹)の恋愛や,白拍子藤波を殺した忠臣佐々良三八一家が長く怨霊に苦しめられる因果譚などが,蟹満寺(かにまんじ)縁起その他本邦の昔話,民話を豊富に織りこんだ趣向によって語られ,複雑な筋立ての,京伝独自の幻怪華麗な物語的迷宮世界を形成している。何度も演劇化され,のちの歌舞伎狂言《鞘当(さやあて)》の原作となった作品で,曲亭馬琴の硬質な作風と対蹠的な,京伝読本の典型的な作風を見ることができる。【高田 衛】。…

※「鞘当」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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