金融機関が経営不振に陥り,預金の払戻しに応じることができなくなったときに,その金融機関にかわって預金の払戻しに応ずるための保険。外国においては,アメリカで連邦預金保険公社が1933年に,西ドイツ(当時)で預金者保護基金が76年に,イギリスで預金者保護委員会が82年に,それぞれ設立されている。
日本の預金保険制度は,1971年4月に公布・施行された預金保険法によって創設された。預金者等の保護を図るため,金融機関が預金等の払戻しを停止した場合に預金者等に対して保険金等の支払と預金等債権の買取りを行うほか,破綻金融機関に係る合併等に対して適切な資金援助等を行い,もって信用秩序の維持に資することを目的とする制度である。預金保険法に基づき71年7月に特別法人の〈預金保険機構〉が設立された。その機能は,当初,保険金の支払に限定されていたが,86年7月に破綻金融機関を合併や事業譲受により救済する金融機関に対する資金援助が加わった。
96年6月の法改正で2001年3月末までの特例として,ペイオフ・コスト(保険金の支払費用)を上回る特別資金援助や整理回収銀行関連の特例業務(債権の取立てなど)が加えられた。これに伴って機構の勘定も,従来の勘定(一般勘定)のほかに特別資金援助等の特例業務を処理する一般金融機関特別勘定(信用組合以外の金融機関破綻に係るもの),信用組合特別勘定(信用組合の破綻に係るもの)が設けられた。97年12月の法改正では,2001年3月末までの特例措置として破綻金融機関同士が新設合併する場合も機構が資産援助できることとなった。
預金保険料は95年度までは基準預金の0.012%であったが,96年度から一般保険料が対象預金残高の0.048%となり,また2001年3月末までは特別資金援助の原資として特別保険料の0.036%が付加され,合計するとそれまでの7倍となった。保険金の額は,一預金者当り1000万円である。
特に97年秋以降の北海道拓殖銀行をはじめ,相次ぐ金融機関の破綻により,自己資本の充実と金融の安定を図るため,機構に新たに金融危機管理勘定(政府保証10兆円,交付国債3兆円)を設け,2001年3月末までの間,金融機関が発行する優先株式等の引受けをするために金融機能安定化緊急措置法を98年2月に公布・施行した。これにより98年3月に21の銀行に対し総額1兆8156億円の公的資金による優先株等の引受けを行った。機構の機能拡充と金融機関の相次ぐ破綻により,機構の資金援助等は急増している。
なお,農協・漁協等を対象に農水産業協同組合貯金法(1973年7月公布・施行)に基づいて,73年9月に農水産業協同組合貯金保険機構が設立されている。
執筆者:後藤 新一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…預金通貨の重要性が大きいだけに,この危機は一国の金融制度に深刻な打撃を与え,さらには経済システム全体を混乱させる原因ともなった。今日では,公共当局が法律に基づいて銀行のさまざまな活動を規制することによって,銀行経営の不安定化を防止したり,預金保険制度を導入することによって,上に述べたような金融的混乱の防止が図られている。この預金保険制度は個々の民間銀行に対して預金保険に加入することを強制する一方,それらの銀行がなんらかの理由で倒産した場合にも,預金保険でカバーされている一定額の預金に対しては公的機関である預金保険機構が倒産した銀行に代わって払戻しに応じるというものである。…
※「預金保険」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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