日本大百科全書(ニッポニカ) 「頸部腫瘤」の意味・わかりやすい解説
頸部腫瘤
けいぶしゅりゅう
頸部にこぶ様の物体ができた状態をいう。このような病状をおこす病気はいろいろあるが、もっとも多いのは甲状腺(せん)疾患と関係するもので、その頻度は頸部腫瘤の50~60%である。甲状腺疾患としてはバセドウ病がもっとも多い。この場合には、頸部の正中部で、やや下方に存在する甲状腺が全体に大きくなり、息切れなどの全身症状がみられる。ついで亜急性あるいは慢性甲状腺炎、良性甲状腺腫、甲状腺の悪性腫瘍(しゅよう)などの順となる。甲状腺疾患以外のものでもっとも多いのは単純性リンパ節炎である。これは口腔(こうくう)、咽頭(いんとう)、喉頭(こうとう)、鼻腔、副鼻腔、顔面、頭部などの化膿(かのう)性疾患をはじめとした炎症性疾患に続発するもので、痛くなることが多い。幼小児ではきわめて大きな腫瘤となることもあるが、多くは母指頭大以下の大きさである。ついで多いのは唾液(だえき)腺の疾患で、耳の前下方にある耳下腺、下顎(かがく)の横下方にある顎下腺の炎症、腫瘍、ときに唾石などがある。炎症や唾石では食事のときに腫瘤が増大することがある。結核性リンパ節炎は昔ほど多くはないが、数個のリンパ節が癒合して大きな比較的軟らかい腫瘤となる。また、大きさが2センチメートル以上の無痛性の腫瘤の場合には、癌(がん)のリンパ節転移や悪性腫瘍の可能性がある。なお、先天的な嚢胞(のうほう)もまれではない。
[河村正三]