餅酒(読み)もちさけ

改訂新版 世界大百科事典 「餅酒」の意味・わかりやすい解説

餅酒 (もちさけ)

狂言曲名脇狂言百姓物大蔵,和泉両流にある。加賀の国の百姓が,大雪のために延引していた去年の年貢物の菊酒を,上頭(うえとう)(京都にいる荘園領主)に納めるため上京する。途中,これも去年の年貢として鏡餅を納めに行く越前の国の百姓と道づれになる。都の御館(みたち)に着くとちょうど折ふしの歌会で,年貢延引の罰として,奏者(そうじや)(取次役)に歌を詠めといわれる。加賀は〈飲み臥せる宵のまぎれに年一つ打ち越し酒の二年酔ひかな〉,越前は〈年の内に餅はつきけり一年を去年(こぞ)とや食はん今年とや食はん〉と詠んで,万雑公事(まんぞうくじ)(諸課税)を赦免され大喜びしたところ,その高声をとがめられて今度は大きな歌を詠めといわれる。加賀は〈盃は空と土との間(あい)のもの富士を尽きずの法(ほう)とこそ飲め〉,越前は〈大空にはばかるほどの餅もがな生けらう一期(いちご)かぶり食らはん〉と首尾よく詠んで,両人は盃を頂き,奏者の命ずるまま,洛中を舞い立ちにしようと,酒と餅との徳を祝い謡って留める。登場は越前の国の百姓,加賀の国の百姓,奏者の3人で,越前がシテ。ほかに囃子(笛,小鼓,大鼓,太鼓)が入る。《筑紫奥つくしのおく)》《雁鴈金(がんかりがね)》《昆布柿(こぶがき)》《三人夫(さんにんぶ)》など,百姓物と呼ばれる一群の狂言は,いずれも諸国の百姓が上洛の途中で道づれになるところから話が始まり,御館に着いて年貢物にちなんだ歌を詠んだり,語りを演じたり,〈三段ノ舞〉を舞ったりして終わる同工異曲の作劇法を採っている。それらのなかで《餅酒》は基本的な古作と目されている。祝言性本位の曲で劇的葛藤に乏しいため,現在では新年の能会に《翁》付き脇能に続いて演じられるなどのほかは,あまり上演されない。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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