内科学 第10版 「骨髄穿刺・生検」の解説
骨髄穿刺・生検(総論4:臨床試験)
造血組織である骨髄の検査は種々の血液疾患の診断・評価のみならず全身性疾患の病態把握にも重要である.骨髄穿刺の適応を表14-5-1に示す.骨髄生検は骨髄穿刺で検体が採取できない場合(dry tap吸引不能)には必須である.
禁忌となるのは重度の凝固異常が想定される場合(原疾患の診断が優先されることもある),穿刺部位の奇形や炎症の場合である.注意点として,胸骨穿刺の際にはまれではあるが穿刺針が骨を貫通して大動脈損傷,心タンポナーデ,縦隔血腫を引き起こす危険があるので,手技に不慣れな間は上級医とともに施行するべきである.麻酔薬に対する過敏反応にも注意する.
(2)骨髄穿刺の方法
体幹部は造血巣が比較的保たれる傾向があるので,穿刺部位として胸骨第2または第3肋間や後腸骨稜が選択されることが多い.ただし医療事故のリスクや患者の希望から,最近は腸骨が選択される傾向にある.日本血液学会では,「成人に対する骨髄穿刺の穿刺部位に関する注意」なる声明が出され,腸骨の選択が推奨されている(臨床血液50巻6号,2009年).穿刺部皮膚を消毒後,皮下から骨膜表面に十分な局所麻酔を施した後,骨髄穿刺針(近年ディスポーザブルの穿刺針が主流)の先端を骨髄腔内まで押し進めて内針を抜き,かわりにシリンジを装着して,骨髄内の血液0.3~0.4 mL程度を瞬時に吸引採取する.骨髄血は凝固しやすいので,時計皿にはき出した後手早く有核細胞・巨核球数カウント用に一部採取し,ついでスライドグラスに塗抹標本を必要枚数分(通常10枚くらい)作成する.敏速な作業のため臨床検査技師の協力が望ましい.凝固した残血は骨髄クロットとして剥離回収し,病理組織検査にまわす.染色体検査・遺伝子検査やフローサイトメトリーが必要なときは,続けて新たなシリンジに少量ヘパリンを吸ったものを用いて3~5 mL程度を吸引する.
(3)骨髄生検の方法
骨髄生検は骨髄穿刺と類似の手法であるが,より大型の専用針を用いて穿刺部の骨片をそのまま削取することから侵襲がやや大きい.しかし骨髄穿刺で検体が採取できない場合(dry tap吸引不能という)には必須である.ほかに造血能の評価や悪性腫瘍の浸潤を確認するときも骨髄生検の併用が望ましい.骨髄生検の利点を表14-5-2に示す.骨髄疾患の初回診断時には積極的に骨髄生検を併用することが望ましい.
採取部位には通常後腸骨稜が選択される.骨髄穿刺と同様に進めるが,生検針が自立した時点でさらに少し押し進めて,先端が骨皮質を貫通して髄腔内に達したと思われたポイントで内針を抜きとり,外套のみを左右交互に半回転させながら髄腔中を3 cm程度圧進する.ここで外套を数mm戻して針全体を左右に激しく振り動かして,外套先端の骨髄組織を旋断し,外套内に捕捉された切断片を回収する.採取された骨髄片はホルマリンまたはブアン液固定にまわすが,特にdry tapの場合は固定液に入れる前に適宜スタンプ標本を作製しておくと細胞学的評価に有用である.
(4)骨髄所見の評価
正常な骨髄像所見を表14-5-3に示す.以下に異常所見の要点と該当疾患を述べる.
1)有核細胞数の増加・減少:
著減している場合(骨髄低形成)は再生不良性貧血,著増している場合(骨髄過形成)は骨髄増殖性腫瘍など.
2)骨髄芽球の異常増加:
急性白血病やその類縁疾患.
3)特定の細胞の減少:
無顆粒球症,赤芽球癆など.
4)血球形態異常:
巨赤芽球性貧血,骨髄異形成症候群など.
5)異常細胞の存在:
悪性リンパ腫,多発性骨髄腫,癌細胞,血球貪食症候群,先天代謝異常症に伴う異常なマクロファージ系細胞など.
6)感染微生物の検出:
結核,骨髄炎など.
7)骨髄線維化:
骨髄生検標本で判定.[通山 薫]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報