高速度写真(読み)コウソクドシャシン(その他表記)highspeed photography

デジタル大辞泉 「高速度写真」の意味・読み・例文・類語

こうそくど‐しゃしん〔カウソクド‐〕【高速度写真】

高速で運動あるいは変化する対象を、1000分の1秒以下のきわめて短時間の露光によって撮影する写真。光源にストロボなどの瞬間発光を使う。

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精選版 日本国語大辞典 「高速度写真」の意味・読み・例文・類語

こうそくど‐しゃしんカウソクド‥【高速度写真】

  1. 〘 名詞 〙 きわめて短い時間の露出で撮影する写真の総称。通常千分の一秒以下の露光時間のものをいう。
    1. [初出の実例]「皆は高速度写真のやうにノロノロ又立ち上った」(出典:蟹工船(1929)〈小林多喜二〉五)

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改訂新版 世界大百科事典 「高速度写真」の意味・わかりやすい解説

高速度写真 (こうそくどしゃしん)
highspeed photography

高速度現象を撮影し観測するための写真技術。瞬間写真,高速度コマ撮り写真,高速度流し写真に分けられる。

高速度現象をぶれなく撮影するため,極短時間の露出で撮影する写真法。例えば,運動速度1000m/sの高速物体を倍率1/50のカメラでとらえ,フィルム上の像の移動距離をフィルムの解像力(約1/50mm)以下におさえるには,露出時間は1/50mm÷(1000m/s×1/50)=10⁻6s以下にする必要がある。このような極短時間露出を得るには,瞬間光源を用いる方法と瞬間シャッターによる方法とがある。

電気火花は便利な瞬間光源である。これはコンデンサー蓄電器)を高電圧に充電し,光源となる放電間隙の第3電極に撮影対象に同期したパルス電圧を加えて放電させることによって得られ,発光量はコンデンサーの充電エネルギー1/2CE2Cはコンデンサーの容量,Eは充電電圧)に,発光継続時間はLCLは放電回路の全インダクタンス)に比例する。光量が十分でしかも発光時間を短くするには,Eを高くLは小さくする必要がある。このため放電間隙とコンデンサーを一体の同軸型とし,Cは大きくLのきわめて小さい瞬間光源がくふうされており,この種のものでは,低電圧(数kV)でも十分明るく,発光時間10⁻7s程度のものがある。

 発光効率のよいキセノンなどの単原子気体を封入した放電管(キセノンフラッシュランプ)も明るい瞬間光源として利用され,発光時間10⁻6s程度のものが報告されている。また,強力な爆薬によってアルゴン中に衝撃波を発生させ,波面背後の圧縮され数万度の高温となったアルゴンの強い発光を利用するアルゴンフラッシュ光源もある。衝撃波が伝搬するアルゴン層の長さを変えることにより10⁻4~10⁻7sの発光時間が容易に得られる。1回ごとに破壊するが,爆薬が使用できるときは強力で便利な光源である。

 これら光源は反射光撮影のほか,大口径のレンズ凹面鏡で光束を集めてカメラレンズを通過させ,光路中の高速現象を影画として撮影する場合にも利用される。この方式では比較的弱い光源で明るい画像が得られ,またシュリーレン法などを併用すると,空気など透明媒体中を伝搬する衝撃波や疎密波などのじょう乱も撮影できる。このほか,X線管に高電圧パルスを加えたときに瞬間的に発生するX線を利用したX線フラッシュ写真法もある。

機械的シャッターは慣性が大きいため,露出時間は10⁻3s程度が最低限度である。そこで瞬間写真では応答速度の大きい電気(磁気)光学効果を利用したシャッターが用いられ,これにはカー効果を利用したカー・セルKerr cell,ファラデー効果を利用したファラデー・セルFaraday cellなどがある。ニトロベンゼンなどの等方な透明液体を透明容器に入れ,これに電極をつけたものをカー・セルという。図1-aのように,2枚の偏光板AおよびPを,それを出た光の振動面が互いに直交するように配置し,その間にカー・セルをおく。セルの対向した電極に高電圧を印加すると,液は一時的に異方体となって複屈折性を示し(カー効果),光の偏光面を回転させるため,A,Pで遮断されていた光の一部が通過するようになる。したがって,極短時間のパルス電圧を印加すれば瞬間シャッターとなるわけで,カー効果は10⁻9s程度の応答速度の高速現象であり,10⁻8sのシャッター速度が得られる。

 図1-bはファラデー・セルを用いたシャッターの原理図である。端面を平行に研磨した重フリントガラス(ファラデー効果が大きい)柱にコイルを巻き,これに通電すると,発生した磁場方向に進む偏光の振動面が回転し(ファラデー効果),直交偏光板PおよびAを光が通過する。ファラデー・セルの場合,最高シャッター速度で10⁻6s程度である。

 このほか,光電面にできた像によって放出される光電子が蛍光面に当たってその像を再現する転像管も瞬間シャッターとして利用され,10⁻12sという極短時間シャッター速度が報告されている。

長尺フィルムに,映写速度より速いコマ撮り速度で撮影すると,現象の時間を引き伸ばして,映画として観察できる。いわゆる高速度撮影とか超高速度撮影と呼ばれている手法であるが,通常のシネカメラのようにフィルムを間欠的に移動させて撮影するかき落し式では,撮影速度は1秒当り1000コマ(1000f/s)が最高で,これ以上の速度を得るためには以下のような特殊なカメラや装置が利用される。

フィルムを連続的に巻き取り,回転プリズムによってフィルムに合わせて像を移動させるもので,100m/s近くの巻取速度が可能で,16mm長尺フィルムで104f/sが得られる。これを16f/sで映写すれば,時間は104/16=625倍に引き伸ばされることになる。像とフィルムの運動のずれやプリズムによる収差のため,かき落し式に比べ画質が劣るが,円板式回転シャッターを組み込んで露出時間を制限すればこの欠点をカバーできる。この方式のカメラは,35mm,70mmフィルム用もあり,人の速い動作,機械部品の速い運動や振動,内燃機関内の燃焼,大規模爆発現象などの観測・運動解析に広く利用されている。

高速回転するドラムの内側にフィルムを装てんし,数百m/sのフィルム移動速度を得る。撮影速度は102~105f/sが得られる。次の回転鏡式カメラと同じく撮影可能なコマ数が限られ,そのままでは映写して見ることはできない。

フィルムを円弧状に固定し,中心にある回転鏡で光束を反射させ,光てこによりフィルムに対し像を高速で移動させるもの。図2のように,レンズ系によって回転鏡に投射された光束は,反射後回転鏡からわずか離れて実像Iを結ぶ。鏡の回転で,光束はリレーレンズL1,L2,L3,……を次々に通過し,フィルム上にIの像を次々に結ぶ。レンズLによる絞りSの像の位置に絞りS1,S2,S3,……があり,Sで絞られた光束がこれを順次通過することによりシャッター作用が得られる。この方式のカメラは空気タービン駆動の5000~1万8000回転/sの超高速回転鏡を使用するなど工学の粋を集めた装置で,104~2.5×107f/sの撮影速度をもち,画質がよく撮影速度の精度も高い。一方,記録時間および露出時間が極端に短く,現象との同期・照明など高度の周辺技術が要求される。時間倍率は103~106で電子顕微鏡の空間倍率に対応する。爆発,破壊など各種の高エネルギー物理関係の超高速現象の研究で威力を発揮している。

転像管を利用した高速カメラ。光電面に結像した像の明暗に応じて発生した光電子は,加速し集束され,蛍光面に光像が再現する。電子は,加速,偏向が容易で,比較的暗い現象も電子的に増幅して記録できる。2.5×104~2×107f/sの超高速撮影が可能で,撮影後すぐに結果が見られ,同期も回転鏡式より容易であるが,画質,撮影速度の精度で劣る。光電面の物質を選べば,赤外線,X線の画像をも記録することができる。

各画面の情報量を減らし,代わりに撮影速度を高める像分割法には種々の方法が報告され実施されている。図3はレンチキュラープレートlenticular plate(細い円柱レンズの集合体)を利用した例である。n本のレンズからなるプレート2枚を直交させてできるn2個の小レンズの集光点に乾板をおき,光点と乾板とを高速で相対移動させれば,時間的変化が光点の軌跡として記録される。直交プレートを通して,この軌跡をたどれば,現象はn2個の画素からなる像の変化として再生される。小量の起爆薬の点火・燃焼などの経過を100~140倍に拡大し,5万f/sの高速で記録できる。

多数の電気火花光源からの光束を大口径の凹面鏡で集光し,それぞれの光束に対応するレンズを通過させ,光路中の被写体の影画を乾板に撮影するもの。電気火花光源は回路定数で決まる時間間隔をおいて順次発光し,光源,レンズの組数だけのコマ撮りができる。シュリーレン法を用いると空気中の衝撃波も明りょうに撮影できる。

流し写真に用いられるカメラで流しカメラともいう。この方法は像分割を極端にして直線の画面としたものと考えられる。図4のように対物レンズによる被写体の像をスリットSで水平な直線部分だけ切りとる。これをリレーレンズ,回転鏡によってフィルム上に結像し高速で流す。フィルムには幅方向に空間座標x,長さ方向が時間tを表す写真が記録される。この回転鏡式では,最高流し速度104m/s前後,一様な速度をもち,時間分解能10⁻9s程度で,超高圧衝撃波による物質の圧縮特性,高圧相への転移圧力の計測など,瞬間現象の精度の高い観測装置として使用される。しかし光学系に明るいものが作りにくく,爆発のような強い自発光現象以外は,アルゴンの衝撃圧縮下の強い発光を利用する。回転鏡でも八面体鏡を用いて任意の時間からの撮影ができるもの,ドラム式のものもある。また転像管を用いたものではピコ秒の時間分解能をもつものもあり,レーザー発振の観察に利用されている。

露出時間が短いため高感度のフィルムを選び,ときには増感現像をする必要があり,極短露光域での感度低下も無視できない。また現象との同期も重要である。回転プリズム式では機械的接点で十分同期できるが,回転鏡式では鏡の回転の狭い角度範囲に合わせるため,現象の発生を鏡の回転角に合わせて±1μs以内の精度で制御する技術も必要で,撮影対象の起動法の研究が重要となる。またこの種のカメラでは,ときとして二重露光を防ぐため高速のキャッピングシャッターcapping shutterを用いる。小さな電気雷管に通電して,透明ガラスにひびを入れ不透明とする爆発シャッターは,高速回転鏡による次の回転相での露光を遮断するのに十分な応答速度をもっている。またカー・セルのような超高速シャッターでは,直交偏光板による光の遮断率が10⁻4程度の場合,少なくとも10⁻6sの高速シャッターをキャッピングシャッターとしてかぶりを防ぐことが必要になる。一般に超高速になるほど,特殊でより高度な周辺技術をくふうし,カメラの性能をひきだす必要がある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「高速度写真」の意味・わかりやすい解説

高速度写真
こうそくどしゃしん
high-speed photography

非常に短い時間の露光で撮影し,速い現象を停止せしめて瞬間の状態を観察する写真的測定法の一種。露出時間は普通 1000分の1秒以下で,現在1万分の1秒から 100億分の1秒の範囲にわたっている。大別して,瞬間写真,高速度映画に分類できる。前者は1~数枚のコマ撮りないしは重ね撮り,後者は数十~数千コマ以上連続にコマ撮りができ,緩速度で現象を再現しうる。破壊や爆発現象あるいは高速度運動体の研究に用いられる。

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