イギリスの化学者、物理学者。9月22日、鍛冶(かじ)職人の子としてロンドン郊外のニューイントン・バッツで生まれる。読み書きと算術を習っただけで、1804年書店兼製本業の店に徒弟奉公した。製本に回される科学の本に興味をもち、本に書かれている実験を試したりした。1810年から町の科学協会に出席、1812年、店の客だった王立研究所所員の計らいでデービーの公開講座を聞き、自然科学の仕事につきたいと強く願うようになった。この年、年季の明けたファラデーは、製本職人として別の店に勤めたが、デービーにその講演を丹念にまとめたノートを添えて職を求める手紙を送った。1813年3月王立研究所の実験室助手に採用され、10月にデービーの秘書兼助手として2年間のヨーロッパ旅行に同行。1815年帰国、ふたたび王立研究所の実験室助手、1825年実験室主任、1833年化学教授となった。1824年王立協会会員に選ばれた。37年間王立研究所の屋根裏部屋で過ごしたが、1858年女王に提供されたハンプトン・コートの邸宅に移り、1867年8月25日、76歳の生涯を閉じた。
[高橋智子]
ファラデーは、王立研究所に持ち込まれる工業上の諸問題、おもに化学的研究にデービーの助手として取り組んだ。1816年トスカナの生石灰を分析して処女論文を書き、1819年から5年間鉄の合金を研究した。1823年塩素ガスの液化に成功、ついで二酸化硫黄(いおう)、二酸化窒素、アンモニアなどを次々に液化。1825年ガスボンベの底にたまる物質中にベンゼンを発見、炭素と水素からなることを示した。このころ、J・ハーシェルらと光学ガラスの改良を手がけ、重ガラスをつくったが、改良そのものには失敗。このガラスはのちに反磁性の研究に使われた。
[高橋智子]
1820年エールステッドは電流の磁気作用を発見し、アンペールは電気磁気の相互作用に関して「アンペールの法則」を定式化しつつあった。この分野が静電気・磁気学から電気と磁気の相互作用を研究する電磁気学へと大きく飛躍しようとしていた時代にファラデーは電磁気学研究に手を染めた。1821年電磁気回転の実験に成功、電気と磁気の相互作用を確信したファラデーは、電流の磁気作用の逆、つまり磁気から電流が生じるかどうかの問題に取り組んだ。定常電流が磁気を生じることから、導線の近くに磁石を置くことで定常電流が得られると考え、1824年、電流を通した導線近くに強力な磁石を置き、回転中の離れた所に置いた磁針の振れを観察した。しかしなんの変化も認められなかった。エネルギー保存を考えれば、誘導電流を得るには磁気を変化させる必要があるが、そうした考えのなかった当時、このことを認識するのに7年を必要とした。1831年8月、回路の開閉によって第二の回路に電流が生じることを、10月、コイルの中に棒磁石を出入りさせると電流が生じることを確認、電磁誘導を発見した。
1833年、それまで知られていたボルタ電堆(でんたい)の電気、熱電気、動物電気、摩擦電気、電磁誘導の電気など種々の電流の同一性を確認、さらに定量化を可能にする電気分解の法則を定式化した。ここで電気化学当量やイオン概念を導入、電気分解を特殊な電気伝導と考え、その機構を明らかにしようとした。1836年には電気容量が介在する物質に依存することを確かめ、いわゆる遠隔作用論を批判した。のちにマクスウェルに引き継がれる力線の概念を導入、近接作用論への基礎を築いた。産業革命の進展が電信技術の進歩をもたらし、電磁気学の発展を要請していた時代であり、アンペール、ウェーバー、ガウスら多くの科学者がこの問題に取り組んでいた。ファラデーもその一人として実験を体系的に組織したのであった。
1835年自己誘導の発見、1838年気体放電でのファラデー暗部の発見、1845年ファラデー効果、反磁性の発見、1850年復氷の発見など多くの注目すべき業績をあげた。
[高橋智子]
『H・スーチン著、小出昭一郎・田村保子訳『ファラデーの生涯』(1985・東京図書)』
イギリスの化学者,電気化学者,物理学者.鍛冶師の息子としてロンドンに生まれる.1805年製本屋の徒弟となり,7年間勤めた.仕事の合間にブリタニカ百科辞典の化学に関する項目を読み,自分でも実験装置を組み立てた.1810年に自己修養を目的に活動するCity Philosophical Society(市哲学協会)に参加し,科学に関するはじめての報告を行っている.1812年店の顧客の一人から,ロイヤル・インスティチューションのH. Davy(デイビー)の連続講演会の聴講券をもらい,聴講後,講義録を整理してDavyを訪問し,就職を依頼した.1813年3月に偶然空いたロイヤル・インスティチューションの助手に就くことができた.同年10月から1815年4月までDavyの使用人という待遇でフランス,イタリアなどを旅行し,A.G.A.A. Volta(ボルタ)などに会い電気化学の分野で刺激を受けた.当時フランスではP.-S. Laplaceを中心に自然科学をニュートン力学のモデルで記述する(数理物理学)傾向が強かったが,Voltaが電池を発明した後,電気分解現象,電流の磁気作用現象などの諸発見があり,実験的手法(実験物理学)が注目されるようになった.数学教育を受けていなかったかれが自然科学研究の道に入れたのは,こうした当時の時代背景があったことによる.帰国後,かれはロイヤル・インスティチューションの化学助手として,DavyおよびW.T. Brandeから実験手法を学んだ.1816年に最初の論文“トスカナ産生石灰の分析”を発表した.1820年にH.C. Oerstedが発見した電流の磁気作用に触発され,1821年には自ら製作した大出力電池と水銀槽を利用した装置で磁気回転を示す実験に成功し,論文“新しい電気磁気運動と磁気理論について”で報告した.1825年には都市照明として登場した石炭ガスに関心を向け,ベンゼンを発見した.同年ロイヤル・ソサエティ会員に選出され,能力のある研究者として認められた.1830年代は電気,磁気の研究で多くの発見を行った.1831年にはアメリカのJ. Henryとは独立に電磁誘導の法則を発見,1833年にガルバーニ電気,静電気など各種の電気相互の同一性および電気分解の法則を確立した.1845年には偏光面が磁気によって回転するファラデー効果を発見した.この時期の研究成果はExperimental Researches in Electricity(電気学実験研究)全3巻(1839~1855年)として刊行された.かれの研究成果の多くは,その後J.C. Maxwellの電磁気理論として体系化されることになった.一方,科学研究の成果を普及する活動にも熱心で,ロイヤル・インスティチューションで開催された金曜午後の講演(1826~1862年)や子供向けクリスマス講演(1827~1861年)には万全な準備で臨んだ.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
イギリスの物理学者,化学者。ロンドン近郊ニューイントンに鍛冶工の子として生まれた。13歳のときから製本屋の徒弟として働いていたが,この間,読書によって科学知識に興味をもつようになった。1812年にローヤル・インスティチューションでH.デービーの講演を聴いたことが契機となって翌年3月から彼の実験室助手となり,デービーの大陸旅行(1813-15)にも同行している。33年以降ローヤル・インスティチューションの化学教授。H.C.エルステッドが1820年に発表した電流の磁気作用の発見に刺激を受けて電磁気現象に関心をもち,21年に電磁気回転の実験に成功,その後も電流の磁気作用の逆現象として,誘導電流の検出を試みた。その実験はなかなか成功しなかったが,一方ではその間,ローヤル・インスティチューション本来の産業分野からの依頼研究を行って,特殊鋼の研究や光学ガラス製造法の改良などにおいて優れた業績を残している。31年にようやく誘導電流の検出に成功し,電磁誘導現象を発見,続いて,いろいろな電気の同一性に関する研究から電気の化学分解作用に注目し,34年には電気分解の法則(ファラデーの法則)を発見した。また彼は誘導電流の発生機構や電気分解の機構を考察する中で,〈電気緊張状態〉という概念を導出したが,この概念は後にJ.C.マクスウェルによってベクトルポテンシャルとして,電磁気現象の数学的表現の中にとり入れられた。45年からは,物質の磁気的性質についての研究に取り組み,反磁性体を発見し,反磁性体の無極性を主張した。電磁気現象に関して,彼はそれまでの遠隔作用論を排し,近接作用論から電場,磁場,力線の概念を導入,マクスウェルの電磁場理論への端緒を開いた。このほか,静電誘導現象の説明(近接作用論)における誘電率の概念の導出(1837),真空放電におけるファラデー暗部の発見(1838),磁場中におかれた透明物質が旋光性を示す現象(ファラデー効果)の発見(1845)などの業績もある。1824年ローヤル・ソサエティ会員。講演をまとめた《ろうそくの科学》(1861)は今でも科学啓蒙書として広く読まれている。
執筆者:日野川 静枝
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…イギリスには,映画の前史を形成したもっとも重要な人々が存在した。18世紀後半に〈パノラマ〉を考案したR.バーカー,19世紀前半に〈ファラデーの車輪〉と呼ばれる装置を発案したM.ファラデー,〈ソーマトロープ〉を考案したフィットンとパリス,〈ゾーエトロープ〉を考案したW.G.ホーナー,19世紀後半には初めて〈連続写真〉の撮影を行ったE.マイブリッジ,映画用カメラを初めて作ったW.フリーズ・グリーン等々。次いで1896年3月に《ドーバーの荒海》と題した自作のフィルムのイギリスでは初めての興行上映を行ったR.W.ポール,1900年前後にいち早くクローズアップやカット・バックといった映画的手法や,ロケーション撮影や書割を背景に用いたセット撮影を駆使して世界最初の〈モンタージュ〉を試みたG.A.スミスをはじめ,J.ウィリアムソン,C.アーバン,C.ヘプワースら,映画史家G.サドゥールによって〈ブライトン派〉と名づけられた映画のパイオニアたちが輩出した。…
…電気伝導体に対して,それを貫く磁力線が相対的に運動するとき,導体の中に生ずる渦状の電流。1824年D.F.J.アラゴーが,回転する円板の上の磁針が振れる現象(アラゴーの回転板と呼ばれている)を発見したのが初めで,この現象はその後M.ファラデーが発見した電磁誘導の法則によって説明された。渦電流によって,強い磁場中で回転する電気伝導体の円板が強い制動力を受けることをJ.B.L.フーコーが実験で示した(1855)ことからフーコー電流とも呼ばれ,この現象は交流の積算電力計や電磁ブレーキなどに利用されている。…
…弾性体内の応力は各点でのひずみを通じて順次隣り合った部分に伝わっていくからまさに近接作用である。M.ファラデーは二つの帯電した物体の間のクーロン力も,帯電体の間の空間に充満した電気力管が引っ張られた(または押し合った)ゴムのような状態にあるため生ずると考えた。彼はこのような立場から電場,磁場,力線などの概念,すなわち場の考え方を導入し,それまで遠隔作用と考えられていた電磁気力を場を通じた近接作用によるものとして説明した。…
…磁場が電流によっても生ずることを発見したのはH.C.エルステッドで,これを定量的に法則化したのはA.M.アンペールである。また反対に,コイルの中をよぎる磁束の時間的変化によってコイル内に起電力が生ずるという電磁誘導の法則がM.ファラデーによって発見され,このようにして電気と磁気の間に密接な関係のあることが明らかにされていった。ファラデーはまた電磁石を用い,いわゆる強磁性を示す鉄,コバルト,ニッケル以外の物質も多かれ少なかれ磁気的であり,これらは反磁性と常磁性とに分類できることを示した。…
…その発展の中で,多彩な電気技術の発展の基礎である電磁誘導の発見も行われた。電磁誘導は31年M.ファラデーが発見した。この現象を利用した発電機は多くの人が試みたが,W.vonジーメンスおよびZ.T.グラムによって,70年前後にほぼ完成された。…
…ニュートン力学は物理学のすべての分野の規範であったから,19世紀前半までの電磁気学でも遠隔作用の観点がとられていた。近接作用を電磁気学にもちこんだのはM.ファラデーであり,それにみごとな数学的定式化を与えたのがマクスウェルである。近接作用の観点から電磁気学の中心問題を述べれば,(1)電荷や電流は周囲の空間にいかなる電場,磁場をつくるか,(2)電場,磁場は電荷や電流にいかなる力を及ぼすかということである。…
…その起電力を誘導起電力induced electromotive force,電流を誘導電流induced currentと呼ぶ。1831年M.ファラデーによって発見され,それまで別の現象と考えられていた電気と磁気との間に関係があることが示された。閉じた回路の近くで永久磁石を動かすか,あるいは電流が流れている他の回路を動かしたり,その電流を切ったりしたときこの現象が観測されるほか,また閉じた回路に流れている電流が変化した場合にも,この回路を貫く磁束が変化するため回路に誘導起電力を生ずる。…
…磁場の中に置かれた透明で等方的な物質中を,直線偏光が磁場と平行に進むとき,その偏光面が回転する現象をいう。1845年にM.ファラデーによって鉛ガラスで発見された。偏光面の回転角θは,物質の厚さdと磁場の磁束密度の大きさBとに比例し,θ=RdBで表される。…
※「ファラデー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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