学習者および教授者の活動を、コンピュータを中心とする機器によって効果的かつ効率的に進める、個別学習の考え方に基づく教育。そのように整備された環境をCAIシステムという。コンピュータを教育経営や教育情報などの管理運営に活用するCMIとは異なり、コンピュータを教科教育で活用する一つの態様をさす。CAIとCMIは、1989年(平成1)に告示された学習指導要領で導入された、コンピュータや情報に関する教育を意味する「情報教育」とも異なる。「情報教育」ではコンピュータや情報および関連する事項が教育内容として扱われる。
CAIは、コンピュータ・アシステッド・インストラクションComputer Assisted Instructionの略で、AssistedのかわりにAidedが使われることもある。文字どおりには「コンピュータに援助された教授」である。「教授」を意味するInstructionのかわりに、とくにヨーロッパでは、「学習」を意味するLearningを用い、CALと略されることもある。CAIはプログラム学習、ティーチング・マシン、行動科学、認知科学、情報科学等の発展のうえに成り立っている。今日の高速回線と映像の圧縮技術、および関連するインターフェースや品質の高いデータベース技術の普及によって、訓練機関や高等教育機関で導入されつつあるeラーニングの基礎と基本を形成したシステムでもある。
[篠原文陽児]
教授・学習の過程は、教育目標に向けて教師と学習者が働きかけ合うという事象の連続である。CAIシステムはこの事象のうち、教師の働きかけの多くをコンピュータの処理能力にゆだねようとするものである。そして、教育の内容と方法等にかかわる研究と実践とを統合し、教育をより科学化する試みの一つである。
[篠原文陽児]
CAIシステムの歴史は、アメリカでのIBM社の研究に始まり、1958年に開始され、1960年に完成した。その後、コンピュータの機能の拡充と、教授理論・学習理論、また評価理論等々の研究の発展に伴って、イリノイ大学のPLATO(プラトー)システム(1960)、ブリンガムヤング大学のTICCIT(ティキット)システム(1969)などが次々と開発された。日本でも、1960年代に研究が進められ、大型計算機や中型計算機を使ったタイムシェアリング方式(TSS)によるシステムが開発された。しかし、コンピュータそのものの価格が高いこと、そして先に述べた諸理論等や実践が日本の教育の現場ではまだ十分に消化されていなかったなどの事由によって、広く普及するまでには至らなかった。
1980年代になって、パーソナルコンピュータの出現と機能の充実、そして価格の低下が、これまでの研究の蓄積のうえに、CAIを教育実践の場で活用しようという意識をもたらした。1980年代から1990年代初頭にかけては、人間の柔軟な話しことばによる自然言語CAI、学習の最適化モデルに基づく最適化教授モデルCAI、人工知能型CAI、データベース型CAIなどの研究が盛んとなり、人間の学習や情報の処理のしかた、つまり認知構造の研究の進展に寄与した。こうした研究と実践的利用による成果の多くは、1990年代後半から始まったWebラーニングやeラーニングとよばれるインターネットなど情報通信ネットワークを用いた教育の基礎研究として活用され、CAIの重要性をますます認識させることになった。
[篠原文陽児]
これまでのCAIには、「問題解決学習」「ゲーム・シミュレーション学習」「問い合わせ学習(情報検索型)」「個別学習」「ドリル学習」などがあり、eラーニングの基礎・基本として位置づけられている。しかし、学校教育におけるパーソナルコンピュータを活用したCAIの教育利用は、数学・理科教育における、平行四辺形や台形の面積の求め方にみられるような動きを与えた証明や、天体の運動などのような、日中の教室授業では観察などがむずかしい事象の指導に代表される演示用シミュレーション学習、技能の正確性、迅速性を高めるドリル学習が多く、学校教育の授業活動の大部分を占める講義形式による概念形成を目的とするような、個別学習のCAIは少ない。一方すでにパソコンが学校に導入され、教科教育の「基礎・基本の定着と充実」に活用される環境は整って、とくに低学年での活用を促す質の高いソフトウェアが市販などされている。
1989年(平成1)、1998年および1999年には「新しい学力観」や「生きる力」が示された学習指導要領が告示され、それらをいっそう充実し展開させる趣旨に基づいて、2008年と2009年の学習指導要領が告示された。そのなかで、新たな教育目標として重要な「表現力」と「判断力・思考力」に、CAIシステムが活用されるようになっている。ただし、新たな時代に対応する学校教育の役割とは何か、教師の役割とは何か等々、教育学や教育方法学および子供の心身の発達段階に関係する多くの基本的な問いに答えられなければ、CAIのみならず多様なメディアは、これまでの視聴覚教材・機材の導入にみられたと同じ轍(てつ)を踏むことになろう。グローバル化社会に対応する学校教育や、生涯学習社会における豊かな学習を実現するために導入したはずのメディアによって、一部の教師や指導者に業務が集中したり、児童・生徒をはじめとする青少年の心身の健全な発達が阻害されたりすることは避けねばならない。
[篠原文陽児]
『教育工学研究成果刊行委員会編『教育工学の新しい展開』(1977・第一法規出版)』▽『社会教育審議会教育放送分科会著『教育におけるマイクロコンピュータの利用について――報告』(1985・文部省)』▽『文部省初等中等局著『情報社会に対応する初等中等教育の在り方に関する調査研究協力者会議第一次審議とりまとめ』(1985・文部省)』▽『ユネスコ「21世紀教育国際委員会」編、天城勲監訳『学習:秘められた宝――ユネスコ「21世紀教育国際委員会」報告書』(1997・ぎょうせい)』▽『野津良夫編『視聴覚教育の新しい展開』第2版(1998・東信堂)』▽『ジェーン・ハーリー著、西村辧作・山田詩津夫訳『コンピュータが子どもの心を変える』(1999・大修館書店)』▽『情報処理振興事業協会(IPA)編『Learning Web Project 学びのデジタル革命――21世紀の学びを拓く最先端の教育の情報化プロジェクト』(2000・学習研究社)』▽『佐伯胖著『新・コンピュータと教育』(岩波新書)』▽『Jack A. Chambers et al.Computer Assisted Instruction;Its Use in the Classroom (1983, Prentice Hall, New York)』
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