教科外領域における生活指導に対して、学校における各教科の学習の指導(教科指導)を総称していう。子供たちに知識・認識・技能を習得させ、そのことを通して彼らの人格を発達させていく教師の教育的働きかけの総体をいう。
[吉本 均]
学習指導という用語は、第二次世界大戦後、新教育の普及とともに、戦前の「教授」の対抗語として広く使用されるようになった。
戦前の授業では、教師は教科書に記述されている内容を一方的に伝達・注入して、子供たちにそれを機械的に暗記させるという傾向があった。このような子供不在ともいうべき指導のあり方を根底から批判し、指導観のコペルニクス的転回を求めたのが、戦後新教育であった。つまり、書物中心、教師中心の指導から、子供中心の指導への転換である。教師がある一定の内容を教え授けるというニュアンスをもつ教授に対して、子供の興味、自発性を重視する指導のあり方が強調されたのである。
この日本の戦後新教育は、19世紀末から20世紀初頭にかけて世界的に広がった「新教育」運動と系譜を同じくしている。それは、ドイツにおいては、ヘルバルト学派の教授の五段階説の硬直化を批判して、「子供から」vom Kinde ausのスローガンを掲げた改革教育学Reformpädagogikであり、アメリカにおいては、伝統的教育に対抗した進歩主義教育progressive educationである。これらは、第一に、当時の画一的・形式的・注入的教授に対して、子供の自発的・個性的学習を強く主張し、第二に、ともすれば教え込みになりがちな一斉教授に対して、子供の学習活動の個人差を考慮する学習指導の個別化を構想した点に、特徴をみいだすことができる。
わが国の戦後新教育における学習指導には、このような児童中心主義教育思想が色濃く反映している。そこでは、子供の学習活動が経験の連続的発展としてとらえられ、子供が具体的社会生活上の諸問題を、経験を通して解決していく問題解決学習が中心であった。
しかし、学習指導のもつこのような性格は、戦後新教育が批判されるのに伴って、しだいにその変容を迫られることになった。とくに、系統学習の立場から、問題解決学習では系統的な教科教授の体系を軽視することになり、子供の学力形成に成功しないという点が厳しく批判された。確かに、「はい回る経験主義」では、子供たちは、日常生活領域を越えて、客観的に存在している人類の文化遺産を習得することはできない。子供の興味・自発性に追従することで、教科内容の本質を子供に伝えていくという教科教授の課題が見落とされてはならない。
今日における学習指導の課題は、教科内容の本質を獲得していく子供たちの能動的学習活動をいかにして呼び起こすかということ、つまり、客観的な教科内容の指導と子供の主体的な学習活動との統一のあり方を究明するところにある。
[吉本 均]
学習指導の基本様式については、授業の構成要因のどこに視点を据えるかによって、さまざまなレベルで、そのあり方を分類することができる。
第一に、学習指導は、子供たちの「学習行為」に着目することで次の三つに分類される。(1)「思考・認識」に働きかける指導、(2)「表現・創造」に働きかける指導、(3)「練習・記憶・ドリル」に働きかける指導。
すべての教科内容において、子供たちの知的・能動的学習活動を呼び起こし、高い統一的な目標・内容をひとりひとりの子供に達成させていくためには、子供の学習行為の基本特性に応じた学習指導のあり方が考慮されなければならない。たとえば、「思考・認識」の指導に関しては主として「発問」「説明」の果たす役割が大きいし、「表現・創造」の指導のためには「助言」が、そして「練習・記憶・ドリル」の指導においては「指示」といった学習指導の方法が、より多く活用されるのが望ましいということになるであろう。
第二に、学習指導は、「学習形態」に着目することで次の三つに分類される。(1)一斉学習、(2)小集団(班)学習、(3)個別学習。「一斉学習」は、教師の説明や発問や指示などによって子供たち全員の学習活動を組織していく形態である。この形態では、子供たちの思考・表現を交流させ、練り上げることができる点に特徴がある。「小集団(班)学習」は、通例5~6名を1グループとし、各グループ別に子供たち相互が援助しあい、話し合う形態である。そこでは、子供たちひとりひとりの本音や多様な意見をすくい上げることができる点に特徴がある。「個別学習」は、子供たちが自ら考え、ひとり調べや書き込みなどを行う形態である。そこでは、学習者の学力、興味、認知スタイル、あるいは学習ペースなどの個人差に応じて、ひとりひとりに学習を成立させることができる。
学校教育においては一斉学習が重視されることが多いが、教師の説明、一問一答の学習指導だけでは、ともすれば子供たちは受動的立場に置かれ、消極的態度に陥りやすい。したがって、子供たちの能動的学習活動を成立させるためには、一斉に教師の説明、発問に集中させたり、ひとりひとりが個性的に書き、班の仲間で話し合い、皆で討議してまとめていったりすることなど、学習形態を多様に構成し、転換していく必要がある。
第三に、学習指導は、「教授法」に着目することで次の三つに分類される。(1)提示的教授法、(2)課題解決的教授法、(3)問答的教授法。「提示的教授法」は、主として、子供が対象について不明瞭(ふめいりょう)な表象しかもたない場合に用いられる。教師は模範を示したり、実物を見せたり、説明したりすることで教材を提示し、子供たちに「見る」「聞く」という内的能動活動を呼び起こし、教科内容を習得させるのである。「課題解決的教授法」では、教師は学習課題を設定し、適切な指示・助言によって子供たちにノート作業、実験、観察、資料調べなどの自主的活動に取り組ませながら教科内容を習得させるのである。「問答的教授法」では、教師と子供、子供と子供との対話や論争や問答などの方法を用いて、子供たちを教科内容の習得に向かわせることができる。
以上の三つの教授法は、教師の恣意(しい)で孤立的に適用されるものではない。1時間の授業においても、この三つの方法は、授業の目標・内容・方法、および子供の発達や学習集団の発展段階などの相互関連を考慮して、創造的に組み合わせて行使しなければならない。
[吉本 均]
『広岡亮蔵著『教育学著作集2 学習形態論』(1968・明治図書出版)』▽『細谷俊夫著『教育方法』第3版(1980・岩波書店)』▽『吉本均著『発問と集団思考の理論』(1977・明治図書出版)』
…そして,前の学習経験に含まれる構造を正しく把握するとき正の転移が生じ,これを誤ってとらえたり,不十分にしかとらえなかったりすると負の転移が生ずることとなる。発達【滝沢 武久】
[学校における学習指導]
上記のような学習のメカニズムを考慮して進められるが,文化,科学,芸術の基本的内容を精選し,系統的に配列し,これを学習者の生活,既得の経験や知識と適切に結合することがとくに求められる。実際の学習指導においては,学習者の多様な反応が現れるから,それらに適切に対応することによって指導の効果をあげることが期待される。…
…ただし教育心理学の定義はいまだ確定的でなく,人によって相当にニュアンスの異なる定義がなされる。研究内容としては,成長と発達,学習と学習指導,人格と適応,測定と評価を四大領域としてあげるのがもっとも一般的である。しかしこれも教育心理学の定義の仕方によって重点のおきかたにちがいがある。…
…前者を外発的動機づけ,後者を内発的動機づけという。学習指導にかかわる動機づけの操作を例にとると,外発的動機づけの代表的な方法は賞罰(飴とむち),競争,協同などである。これに対して内発的動機づけの例としては,既有の知識と矛盾するような知識を与えると学習者の内部に概念的葛藤が生じ,これを解消しようとする知的好奇心が発生して学習行動が活発化するという事実を利用するものが代表的である。…
※「学習指導」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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