ユーロ圏のソブリン危機・銀行危機に対処するために創設された、常設の金融支援機構。European Stability Mechanismの頭文字をとったもので、ヨーロッパ安定メカニズムと訳される。2010年5月に、ソブリン危機に陥った国々に対して金融支援を行うための、暫定的な機構として創設されたEFSF(ヨーロッパ金融安定基金)の後継機関にあたる。ユーロ圏参加国で調印されたESM設立条約に基づいて恒久の機構として創設され、2012年10月に発足した。ユーロ圏の19か国が参加し、本部はルクセンブルク。
ソブリン危機と同時に銀行危機にも直面した場合、その国の公的資金による銀行の救済は、当該国の財政収支を悪化させ、ソブリン危機をより深刻なものにしかねないことから、ESMが危機に直面している銀行に直接融資や資本注入を行うことによって救済し、銀行危機とソブリン危機の連鎖を断ち切ることを目ざしている。
ESMの自己資本は、加盟国の拠出する総額約8000億ユーロの資金からなり、最大の資金提供国であるドイツがこのうち約27%を負担し、2位がフランスで約20%、3位がイタリアで約18%となっている。ESMは、この自己資本を元にESM債やその他資本市場債券を発行して資金を調達し、これを融資の原資とする。ESMの発行する債券は高い格付けを有し、そのため低金利での資金調達が可能である。ESMは5000億ユーロの融資枠を有し、1か国あたり最大600億ユーロまで融資が可能となっている。なおEFSFも存続し、債券の発行を行っているが、新規の融資は行っていない。
最高意思決定機関は、ユーロ圏19か国の財務相からなる理事会で、ユーログループ(ユーロ圏財務相会合)議長が理事会の議長を務め、特定多数決で決定がなされる。ヨーロッパ委員会(欧州委員会)やヨーロッパ中央銀行(ECB)もオブザーバーとして理事会に参加する。融資に際して、支援要請国は厳格なコンディショナリティ(融資条件)を課され、また、詳細な改革プログラムの提出と実行が求められ、返済が完遂するまでESMによって返済状況や改革の進捗状況が厳しく監視される。
ESMはEFSFとともに2010年から2016年まで、アイルランド、ポルトガル、ギリシア、スペイン、キプロスのユーロ圏の5か国に対して、総額2545億ユーロの金融支援を行った。ギリシアを除く4か国はすでに返済を完遂し、成功裏にEFSF/ESMプログラムは終了したが、ギリシアに対する支援終了の見込みはたっていない。ユーロ圏を強化するために、金融支援にとどまらずESMの役割をより拡充・強化し、ヨーロッパ通貨基金European Monetary Fund(EMF)へ発展させる計画も浮上している。
[星野 郁 2018年11月19日]
「欧州安定メカニズム」のページをご覧ください。
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
… 電子戦は次のように分類される。(1)ESM(electronic support measures。電子支援対策) 脅威をすみやかに確認するため,放射電磁波を捜索し,傍受し,標定し,直ちにそれを分析識別する活動である。…
… 電子戦は次のように分類される。(1)ESM(electronic support measures。電子支援対策) 脅威をすみやかに確認するため,放射電磁波を捜索し,傍受し,標定し,直ちにそれを分析識別する活動である。…
※「ESM」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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