LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン(読み)えるぶいえむえいちもえへねしーるいびとん(英語表記)LVMH Moët Hennessy Louis Vuitton S.A.

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン
えるぶいえむえいちもえへねしーるいびとん
LVMH Moët Hennessy Louis Vuitton S.A.

フランスのブランド企業グループで、世界的に有名な高級ブランドを多数傘下に置く、ブランド業界で世界最大の持株会社。1987年、高級バッグで知られるルイ・ヴィトン社とシャンパンコニャックで有名なモエ・へネシー社の合併により設立された。傘下企業の多くは18~19世紀に端を発する長い歴史を有し、フランスをはじめとするヨーロッパの伝統文化を体現している。

[簗場保行]

歴史

モエ・ヘネシー社は、1971年にモエ・エ・シャンドン社Moët et Chandonとヘネシー社が合併して発足した。1743年創業者クロード・モエClaude Moët(1683―1760)が興したモエ・エ・シャンドンは、フランス最大のシャンパン・メーカーとして長い歴史をもち、ナポレオンポンパドゥール夫人をはじめとする王侯貴族たちに愛されてきた。ヘネシーは1765年アイルランド出身のリチャード・ヘネシーRichard Hennessy(1720―1800)によってコニャックの地に創立され、ブランデーのコニャックで著名となった。

 一方、ルイ・ヴィトンの歴史は1854年、カバン職人のルイ・ヴィトン(1821―1892)が世界最初の旅行カバン専門店を設立したことにさかのぼる。1896年には2代目ジョルジュ・ヴィトンが頭文字LVのロゴに花や星の模様を組み合わせた「モノグラム・キャンバス」を開発した。これは当時流行していたジャポニスム(日本趣味)の影響を受けて、日本の家紋からインスピレーションを得て生まれたといわれる。1959年、3代目ガストンが現在のモノグラムの素材であるソフトキャンバスの生地を開発し、ソフトタイプのバッグの製作が可能になる。模様としては1985年に麦の穂をイメージしたエピ・ライン、1996年に格子状模様のダミエ、そして1998年にエナメル調のベルニラインが登場している。

[簗場保行]

ブランド帝国の形成

LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン(以下、LVMHと略す)誕生後の主導権争いに乗じて、イギリスの酒造会社ギネスと手を組んで買収に成功し、1989年グループ会長に就任したのがベルナール・アルノーBernard Arnault(1949― )である。アルノーは伝統的手工業であるブランド・ビジネスを現代的経営で活性化、旺盛(おうせい)な買収攻勢によって一大ブランド帝国を築きあげた。

 2001年時点で、LVMHは全世界で約5万3000人の従業員を有する巨大グループであり、同年の売上高122億2900万ユーロ(約1兆5000億円)は業界第2位のバンドーム・グループ(スイス)の3倍、同3位のティファニーの7倍と、世界のブランド業界では群を抜いていた。

 事業部門は、シャンパン(「モエ・エ・シャンドン」「ドン・ペリニヨン」など)、コニャック(「ヘネシー」など)の酒類をはじめ、ルイ・ヴィトン、セリーヌ、ロエベ、クリスチャン・ディオール、ジバンシィ、ケンゾー、フェンディ、タグ・ホイヤーなど高級ブランド群を有するファッションおよび皮革製品、香水、化粧品、高級時計、宝飾品のほか、世界最初の百貨店であるル・ボン・マルシェや免税店チェーンDFSなどから構成される。

 その後、イギリスのダイヤモンド鉱山会社デビアスDe Beersと合弁会社を設立し、デビアス・ブランドの宝飾品の販売を2002年に開始。2008年にはスイスの時計メーカー、ウブロHublotを買収。

 2008年のグループの売上高は171億9300万ユーロ、営業利益は36億2800万ユーロ。売上げ構成は、酒・飲料18%、皮革・ファッション35%、香料・化粧品17%、小売り25%、時計・宝飾5%。販売地域の内訳はアメリカ23%、フランス14%、ヨーロッパ(フランスを除く)24%、日本10%、アジア(日本を除く)20%、その他9%であった。

[簗場保行]

LVMHのブランド戦略

ブランド品のマーケティングにおいてもっとも重要なのは、伝統を重んじながらも同時に新製品を投入し、それを顧客に受容してもらうことである。ブランドを支持する顧客にいわばトレンドを追わせ、買い替え需要を喚起するのがねらいである。グループ各社ではそのために、ブランド・イメージを継承した新製品の開発・投入、ブランド・イメージの高揚のための広告宣伝、販売促進のための各種プログラムが実施されている。さらに流通面ではマーケティング・チャネルの厳重な管理が必要である。2002年、傘下の米ダナ・キャラン社の衣料品がディスカウント店に大量に流れ、そのブランド・イメージを著しく低下させた事件は、流通チャネル管理の重要性を改めて認識させた。そこでLVMHではブランド・イメージ維持のため、ライセンス供与の削減と販売ルートの直営化が進められている。グループ全体にかかわる戦略的事項に関しては、グループ各社のトップ・マネジメントによって構成される各種委員会によって調整が図られる。またグループ各社の重要な人事・組織改正および戦略計画についてはLVMHの承認に基づいて遂行され、グループ各社がLVMHのメンバーとして世界的経営資源を共有し、相乗効果を生み出すよう管理される。

[簗場保行]

アジア地域での活動

アメリカに次ぐ市場である日本では、ルイ・ヴィトンが1978年(昭和53)に日本支店を開設して以来売上げを伸ばし続け、2000年(平成12)銀座に国内最大規模の直営店舗をオープン。同年LVMH傘下の日本法人5社の共同出資で軽井沢にアウトレット(在庫処分の低価格販売)の第1号店を開設した。

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『山田正喜子著『創造する経営――欧米企業のトップ16人が語る』(1993・ティビーエス・ブリタニカ)』『山室一幸著『ファッション:ブランド・ビジネス』(2002・朝日出版社)』『ベルナール・アルノー著、杉美春訳『ベルナール・アルノー、語る――ブランド帝国LVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)を創った男』(2003・日経BP社)』『長沢伸也著『ブランド帝国の素顔――LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン』(日経ビジネス人文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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