改訂新版 世界大百科事典 「U2型機事件」の意味・わかりやすい解説
U2型機事件 (ユーにがたきじけん)
1960年領空侵犯のアメリカのU2型機をソ連が撃墜した事件。アメリカは1956年以来,技術的優位を背景にソ連の非公式の抗議を無視してソ連領空でのスパイ飛行を続けていたが,60年5月1日,秘密偵察機U2型がソ連のミサイルに撃墜され,パイロットが捕虜となった。ソ連首相フルシチョフはアメリカの謝罪とスパイ飛行の中止を要求したが,アメリカは当初スパイ飛行の事実を否定,その後パイロットの生存が確認されると,安全保障上不可欠だとしてこれを正当化した。アイゼンハワー・アメリカ大統領があくまで謝罪を拒否したため,16日からパリで予定されていた米英仏ソ首脳会議は流会となり,さらにソ連はアイゼンハワー訪ソ招請を取り消した。ソ連は国連軍縮会議からも代表を引き揚げ,1959年のフルシチョフ訪米で高まった米ソ平和共存の気運は崩壊し,60年のアメリカ大統領選では冷戦が主要争点となった。日本の厚木がU2型機の発進基地の一つであったため,日本でも政治問題化した。パイロットは61年ソ連スパイと交換に釈放された。
執筆者:進藤 栄一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報