納税者の租税負担を減少させようとする行為は,〈脱税tax evasion,Steuerhinterziehung〉〈節税tax saving,Steuerersparung〉および〈租税回避tax avoidance,Steuerumgehung〉の三つに大別される。脱税とは,課税要件の充足という事実の全部または一部を秘匿することにより違法に租税を免れ(またはその還付を受け)る等の行為であり(脱税犯),また,節税とは,租税法規が本来予定している行為形式を用いて租税負担の適法な減少を図る行為(例えば,長期譲渡所得の課税の特例の適用を受ける等)である。これに対して,租税回避とは,ある経済目的を達成するに際して,通常採用されないような,また,租税法規が予定していないような異常な行為形式を採用することによって課税要件の充足を回避し,もって租税負担の減少を図る行為である。私的自治の原則の支配する私法関係においては,当事者が同一の経済目的を達成するための複数の行為形式の中からその意思に従って選択をなす可能性が認められているので,租税回避が可能となる。しかし,何が通常用いられている行為形式であるかという点についての判断は相対的にならざるをえないから,節税と租税回避とを明確に区分することはむずかしい。租税回避行為が行われた場合に,租税法上は通常の行為形式に関する課税要件が充足されたとみなして課税を行うことを租税回避行為の否認といい,また,それを定めた規定を否認規定という。日本における否認規定としては,同族会社の行為計算の否認に関する法人税法132条(同族会社),資産の無償・低額譲渡に関する同法22条2項,役員賞与等に関する同法34~36条等がある。したがって,例えば,法人により土地が通常の価格と比して著しく低額で譲渡された場合には,私法上どれだけの価格を付するかは当事者の自由であるが,租税法上は,土地が通常の価格で譲渡されたものとして益金が認定され,また通常の価格と現実の低額の譲渡価額との差が寄付金とされることになる。
執筆者:中里 実
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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