改訂新版 世界大百科事典 「脱税犯」の意味・わかりやすい解説
脱税犯 (だつぜいはん)
広義では,国または地方公共団体の租税債権を直接侵害するために刑罰を科せられる行為をいう。租税犯の主要部分を占める犯罪で,逋脱(ほだつ)犯,間接逋脱犯,不納付犯,滞納処分免脱犯の4種に大別される。
(1)逋脱犯は,納税義務者が〈偽りその他不正の行為〉によって税を免れまたはその還付を受ける犯罪をいう(所得税法238,239条,法人税法159条,相続税法68条,酒税法55条,地価税法39条等)。脱税犯の典型で,狭義で脱税犯というと逋脱犯をさす。逋脱犯の構成要件である〈偽りその他不正の行為〉とは,〈逋脱の意図をもって,その手段として税の賦課,徴収,納付を不能もしくは著しく困難ならしめるようななんらかの偽計その他の工作を行うことをいう〉(1967年の最高裁判所判決)。二重帳簿作成などがその典型的事例である。しかし,具体的にどのような行為が〈偽りその他不正の行為〉にあたるのかは,必ずしも明確でなく,今後の判例の集積がまたれる。判例(1963年の最高裁判所判決等)によると,税を免れる意思によって申告書を提出せず,そのため税を免れる結果が発生した場合,不申告犯になっても,逋脱犯にはならない。ところが,所得金額をことさら過少に記載した申告書を提出する行為自体,〈偽りその他不正の行為〉にあたるとされる(1973年の最高裁判所判決)。逋脱犯に対しては懲役もしくは罰金または両者が併科されるが,悪質な巨額脱税に対処するため,1980年の改正で,所得税,法人税,相続税など直接国税逋脱犯に対する懲役の上限は,3年から5年に引き上げられ,また,同年ごろから,それまでほとんど例がなかった直接国税逋脱犯に対する懲役の実刑判決が次々に出されている。
(2)間接逋脱犯は,消費税の分野で,課税物件の製造に税務官庁の免許が必要な場合(例,酒税法7条)に,免許を受けないで製造することを構成要件とする犯罪である。酒類の密造犯(酒税法54条)などがこれにあたる。納税義務の違反そのものではないが,必然的に納税義務の不履行をともない税の減収をもたらすことが予想されるので,広義の脱税犯に含められる。
(3)不納付犯は,源泉徴収義務者または特別徴収義務者が,納税義務者から徴収して納付しなければならない税額を納付しないことを構成要件とする犯罪である(所得税法240条,地方税法86条1項,122条1項等)。徴収義務は納税義務それ自体ではないが,これを履行しないときは,必然的に当該租税収入の減少をまねき,租税債権を侵害することになるので,脱税犯に属する。
(4)滞納処分免脱犯は,納税者が滞納処分の執行を免れる目的でその財産を隠蔽(いんぺい),損壊,処分し,またはその財産に係る負担を偽って増加する行為をすることを構成要件とする犯罪である(国税徴収法187条,地方税法50条)。
執筆者:板倉 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報