日本大百科全書(ニッポニカ) 「GCAP」の意味・わかりやすい解説
GCAP
じーしーえーぴー
航空自衛隊の次期戦闘機事業である「グローバル戦闘航空プログラムGlobal Combat Air Program」の略称。次期戦闘機の開発に際し、過去、F-86Fの後継機としてF-104やF-4EJ、F-15Jが導入された際には、F-X(Fighter Experimental)の略称が使用された。
「航空優勢」の確保は国家防衛のための諸作戦を遂行する上での大前提となるものであり、航空自衛隊によると「武力攻撃が発生した場合に、敵からの大きな妨害を受けることなく我の諸作戦を遂行できる状態」のことである。これを確保することにより、その空域下で海上作戦や陸上作戦等の効果的な遂行が可能となる。「航空優勢」を失えば、敵の航空機やミサイルなどにより、飛行中の航空機はもとより、地上ミサイル部隊や航行中のイージス艦、さらには港湾や飛行場も攻撃を受け、艦船や航空機の運用自体が困難となる。この「航空優勢」を確保するためには、技術的な趨勢(すうせい)に適応した高性能戦闘機を適時確保して、その戦闘機が日本の周辺空域に迅速に展開し、より遠方で、侵攻してくる敵の航空機やミサイルによる航空攻撃に対処できる態勢を整える必要がある。
日本に対する武力攻撃が発生した場合に、自衛隊は防衛出動により対処することになるが、周囲を海に囲まれた日本の地理的な特性などを踏まえると、まずは航空機やミサイルによる急襲的な航空攻撃が行われると考えられ、これらの攻撃に対する防空作戦が適切に行われることが必要となる。
戦闘機どうしの戦い方は、搭載兵器や情報共有のための技術的趨勢などの変化によって大きく変化してきている。戦闘機どうしが目視範囲内で格闘戦を行ういわゆるドッグファイトから、目視範囲外からミサイルを打ち合う時代を経て、今後はさらなるステルス性向上に加え、量に勝る敵に対する高度のネットワーク戦闘能力、高度なセンシング技術による情報の融合などの能力向上が必要となる。
現在、GCAPとして導入が検討されているのは、2035年ごろに退役開始が見込まれている航空自衛隊保有のF-2戦闘機の後継機である。F-2選定の際は、次期支援戦闘機FS-Xと呼称していたが、現在は、支援/戦闘という区分はないため、次期戦闘機として開発されることとなった。
2035年ごろの世界において「航空優勢」を確保するためには、2020年代初頭においていずれの国においても実現されていない新たな戦い方を実現でき、将来にわたり適時・適切な能力向上のための改修を加えることができ、さらに高い即応性・継戦能力等を確保できる国内技術基盤を有する次期戦闘機を国家主導で開発していく必要があるとされている。
GCAPに係るこれまでの経緯は以下の通りである。2010年(平成22)、防衛省は「将来の戦闘機に関する研究開発ビジョン」を公表。戦闘機のような高度かつ特殊な技術が集積した装備品の開発は、一朝一夕に行えるものではないことから、中長期的視点にたった戦略的検討を実施することが求められた。そのため防衛関係費の推移や装備品の高性能化に伴う高価格化等の環境の変化を踏まえ、従来以上に戦略的な研究開発、投資が必要との考えに基づき、シーズ・ニーズを踏まえた将来の戦闘機に関する研究開発ビジョンが検討・策定された。
2020年(令和2)、初期的な作業に係る開発経費が予算計上され、戦闘機全体のインテグレーションを担う機体担当企業として三菱重工業と契約が交わされた。
2021年12月には防衛省は、アメリカのロッキード・マーチン社をインテグレーション支援の候補企業に選定するとともに、日米間の相互運用性(インター・オペラビリティ)の確保のため、2021年度から新たな事業をアメリカと協力して開始することとし、さらに、エンジン、搭載電子機器(アビオニクス)などのサブシステムについて、開発経費や技術リスクの低減のため、アメリカおよびイギリスとの協力の可能性を追求することとした。
2022年1月から、エンジンについて、日英両国共同で実証事業を開始するとともに、サブシステムレベルでの協力の実現可能性を検討するための機体の共通化の程度に係る共同分析が行われた。
2022年5月の日英首脳会談において、将来の戦闘機プログラムに関し、同盟国などとも連携しつつ、2022年末までに協力の全体像について合意することで一致、イギリスの次期戦闘機事業のパートナー国であるイタリアも含め、協議を継続し、協力の可能性を追求することとなった。
2022年12月、日英伊首脳が共同で次期戦闘機を開発する事業をGCAPとして公表した。
さらに同月、防衛力整備計画において、2035年度までに、将来にわたって航空優勢を確保・維持することが可能な戦闘機を配備できるよう、改修の自由や同盟国との相互運用性を確保しつつ、イギリスおよびイタリアと次期戦闘機の共同開発を推進し、この際、戦闘機そのものに加え、無人機(UAV)等を含むシステムについても国際協力を視野に開発に取り組むこととした。また、防衛技術基盤の強化策として、上記共同開発等の推進に加え、将来にわたって適時・適切な能力向上が可能となる改修の自由や高い即応性等を実現する国内生産・技術基盤を確保するものとするとされた。
[永岩俊道 2023年5月18日]