HACCP(読み)はさっぷ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「HACCP」の意味・わかりやすい解説

HACCP
はさっぷ

食品衛生管理システムの一つ。「ハセップ」ともよばれる。Hazard Analysis and Critical Control Pointの頭文字をとったもので、危害分析重要管理点と訳される。

 HACCPは、食品の原材料生産から加工、流通、販売、消費に至るまでのすべての過程について、工程ごとにHA(危害分析)を行い、危害を防止するCCP(重要管理点)を定め、CCPのCL(Critical Limit:管理基準)を一定頻度で継続監視することにより、危害の発生を未然に防ぐものである。食品は私たちの生活に不可欠なもので、本来安全であるべきものであるが、現実には食中毒の原因であることも多い。消費者が食品の安全・安心に対して非常に敏感になっている現状をみると、食品産業が消費者からの信頼を回復する一つの手段がHACCPシステムの導入であるといえよう。

 同システムは、アポロ計画の宇宙食の安全性を保証するために、アメリカの食品会社ピルスベリー社とNASA(ナサ)(アメリカ航空宇宙局)が、陸軍のナティック研究所で開発した方式を取り入れて、1959年にピルスベリー社が自社工場へ適用したのが始まりであるとされている。同社は、1971年の全国食品安全性大会において、その概念をHACCPシステムとして発表し、1973年にFDA(アメリカ食品医薬品局)により低酸性缶詰の適性製造・品質管理基準に導入された。1985年にはアメリカ科学アカデミーが、このシステムの有効性を評価し、食品製造者に積極導入を、また行政当局には法的強制力のある採用を勧告してから本格的に普及した。

 1993年にはFAO国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)の合同食品規格計画(コーデックス)委員会から「HACCPシステム適用のためのガイドライン」が示されて世界へと広がった。また、1997年のクリントンによる大統領教書でHACCPの適用が発表された。今日では、アメリカをはじめカナダ、オーストラリア、EU諸国においてHACCPシステムは法律により義務づけられている。

 日本でも、1994年(平成6)に製造物責任法(PL法)が制定されたが、HACCPの世界的な導入動向を踏まえた食品衛生法及び栄養改善法の改正が必要になり、1995年に「食品衛生法及び栄養改善法の一部を改正する法律」が公布、1996年施行された。改正の具体的対応として1997年度より総合衛生管理製造過程の承認制度が開始された。また、1996年に続発した腸管出血性大腸菌O157による食中毒の集団発生を受け、政府は食品製造業者におけるHACCPの普及を支援する目的で、1998年に「食品の製造過程の管理の高度化に関する臨時措置法」(HACCP手法支援法)を公布、施行した。

 1998年には厚生省(現厚生労働省)より乳・乳製品の36社、86施設、177件に総合衛生管理製造過程の承認が行われ、その後、食肉加工品、魚肉練り製品、容器包装詰加圧加熱殺菌食品(レトルト食品)、清涼飲料水に承認対象が広がった。

 以上のように、アメリカやEUの多くの国が、HACCPシステムを義務化しているのに対して、日本では自主的な食品製造法と位置づけられた承認制度となっているために、日本型HACCPシステムともよばれるものになっている。

 2011年(平成23)3月、東日本大震災の際に発生した福島第一原子力発電所の事故に伴い、環境中に放射性物質が大量放出された。2011年12月、国内乳業メーカーの粉ミルクから国の暫定規制値以下ではあるが、放射性セシウムが検出された。この粉ミルクの原料は北海道産と輸入品であったものの原料を溶かした液体を乾燥させる工程でセシウムを含む外気を取り入れた結果、粉ミルクにセシウムが吸着したものとメーカー側では推定している。工場はHACCP認証を受けていたが、今後は防塵(ぼうじん)フィルターの再検討など想定外の事態に備えた新たなHACCP認証が必要になっている。

[甲斐 諭]

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