改訂新版 世界大百科事典 「食品衛生」の意味・わかりやすい解説
食品衛生 (しょくひんえいせい)
food sanitary
人間の生命・健康の維持・増進のため食料品の無毒性など,安全性を確保することをいう。行政的には食品衛生法にもとづき,食品の製造,販売等に対する規格・基準の設定や監視業務を行うことをいい,厚生省公衆衛生局,都道府県衛生局等,保健所,市町村等に食品衛生課(または係)が設置され,全国に網羅されたネットワークがある。また,衛生試験所が国・地方自治体に設置され,食品衛生の検査業務の中心になっている。
執筆者:豊川 裕之
食品衛生法
食品の安全性を確保し,飲食による危害を防止することは,人の生命・健康を守るうえで不可欠の要請である。このため,現在,食品衛生法(1947公布)にもとづく監督と規制が行われている。日本の食品衛生行政は,第2次大戦前までは警察の手によって行われていたが,本法の制定に伴って警察機構から切り離され,厚生大臣と知事の権限に移されることとなった。その後,食品工業の発達と食品衛生行政の重要性の増大に伴い,本法は,1957年の大幅改正を含むいくつかの改正を加えられ今日に至っている。本法による規制の対象となる物質は,食品(医薬品と医薬部外品を除くすべての飲食物)のほかに,食品添加物,器具,容器包装にも及び,また,規制の対象となる営業行為は,製造,輸入,加工,調理,貯蔵,運搬,販売等広範囲にわたっている。このうち,食品と食品添加物の規制の概要は,次のとおりである。(1)腐敗・変敗したもの,有害物質が含まれるもの,病原微生物で汚染されたもの,疾病にかかった獣畜の肉・骨・臓器,厚生大臣が定めたものを除く添加物等の製造・販売等は禁止される。(2)厚生大臣は食品・食品添加物等の表示に関する基準を定めることができ,この基準に合わないものの販売等は禁止される。公衆衛生に危害を及ぼすおそれのある虚偽の表示や誇大な広告は許されない。(3)食品・食品添加物は,厚生大臣その他の機関の行う製品検査に合格し,その旨の表示が付されていなければ販売できない。また,厚生大臣は一定の場合,営業者に対して検査を命ずることができる(いわゆる抜打検査はこの権限にもとづいて行われる)。(4)飲食店営業は知事の許可を受けなければならない。営業者が本法の規定に違反する一定の行為を行ったときは,許可の取消しや営業の停止処分がなされる。(5)国と都道府県等に食品衛生監視員を置き,営業所の臨検,食品の検査等に当たらせる。
ところで,以上のような規制にもかかわらず,カネミ油症事件などの食品公害事件やO-157事件に示されるように,食品の安全性の問題は,日本の大きな社会問題の一つになっている。そこで,最近は,食品衛生行政を,従来のように消極的な警察取締行政の一環と位置づけるだけでは不十分であり,国民の生命・健康を守るための積極的な消費者保護行政の一環として位置づけるべきであるという見解が有力になってきている。
執筆者:晴山 一穂
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報