日本大百科全書(ニッポニカ) 「衛生管理」の意味・わかりやすい解説
衛生管理
えいせいかんり
occupational health management
労働者の健康の保持と増進を目的として実施される方策の総体をいい、健康管理、作業管理、環境管理、衛生教育などからなる。健康管理は、疾病の早期発見を目的とした健康診断と、その結果明らかになった要観察者や要保護者に対する事後措置の体系がその中心となる。
健康診断は、労働者の雇入れ時およびその後1年以内ごとの定期に行う一般健康診断のほかに、有機溶剤業務、鉛業務、四アルキル鉛業務、特定化学物質などの製造・取扱い業務、高気圧作業、電離放射線業務および粉じん作業従事者に対しては、法的に特殊健康診断が義務づけられている。
作業管理は、労働者の心身の負担を軽減する観点から、作業自体(つまり作業方法、作業量、作業時間・速度など)を検討・改善するものである。また、その結果を作業標準として定着させ、マニュアル化することも重要である。
環境管理とは、作業場におけるさまざまな環境条件が労働者の健康に有害作用を与えることのないように、有害因子にかかわる環境測定を実施し、施設改善対策や補助的には労働衛生保護具(防じん・防毒マスク、保護服など)の整備も行い、作業環境面から労働者の健康保護を図ろうとするものである。ここで重要とされる点は、人に対する健康管理以前に、作業の有害要因を除去・軽減するための作業管理と環境管理を優先させることである。
また産業現場における衛生教育は一般的な教育にとどまらず、職場の労働条件、労働環境が健康に及ぼす影響とその予防など、具体的な内容でなければならない。これら健康管理、作業管理、環境管理、衛生教育などを総体として推進する体制として、労働安全衛生法(昭和47年法律57号)は総括安全衛生管理者、衛生管理者、産業医、衛生委員会などについて規定している。
なお、同じ労働安全衛生法に基づく概念として「安全管理」がある。衛生管理が主として労働者の健康の保持と増進を目的として実施される方策の総体であるのに対し、安全管理は、労働災害防止対策の総体をさす。
[重田博正]
『労働省労働基準局編『新版・衛生管理』(2000・中央労働災害防止協会)』