RNA干渉(読み)あーるえぬえーかんしょう(英語表記)RNA interference

日本大百科全書(ニッポニカ) 「RNA干渉」の意味・わかりやすい解説

RNA干渉
あーるえぬえーかんしょう
RNA interference

mRNAメッセンジャーRNA)と相補的なRNAアンチセンスRNA、antisense RNA)を細胞内に導入し、mRNAと相補的な2本鎖をつくらせ、翻訳(RNAの塩基配列をタンパク質のアミノ酸配列に変換する操作)を阻害する現象。RNAiと略記される。

 1984年にアメリカのワイントラウブHarold Weintraub(1945―1995)によって、培養細胞に導入したアンチセンスRNAの効果を示した論文が発表され、その後、広く行われるようになった。実際、細胞内で転写されたアンチセンスRNAが、プラスミドDNAの複製を調節する例は富沢純一(1924―2017)らにより発見され、また、水野猛(みずのたけし)(1949― )と井上正順(いのうえまさより)(1934― )の研究グループによって低分子RNA(マイクロRNA)によりmRNAの翻訳が調節される例も示された。その後、大腸菌では17種類ほどこのような活性を示すRNAが発見されている。技術的に使われるRNAiは、おもにマイクロRNAと同様の原理によるものが多く、抑制したいと思う遺伝子と相補的な20~30ヌクレオチドのRNAを人為的に合成し、細胞に取り込ませて、その遺伝子の翻訳を阻害するものである。ここで使われるRNAをsiRNA(small interfering RNA)とよぶ。siRNAは細胞に取り込まれると標的とした遺伝子から転写されたmRNAと2本鎖を形成し、ダイサーdicer(RNA分解酵素)によりmRNAが分解される場合と、マイクロRNAと同様にRISC(リスク)(RNA induced silencing complex、RNAタンパク複合体)を形成し、mRNAからの翻訳を抑制する場合がある。siRNAにより遺伝子産物の合成を抑えることを遺伝子ノックダウンknock downとよび、ゲノム上で遺伝子を欠失させる遺伝子ノックアウトknock outと区別する。RNA干渉の発見により2006年、A・ファイアーとC・メローがノーベル医学生理学賞を受賞した。

 siRNAは、新しいタイプの医薬としての可能性が注目されている。

[菊池韶彦]

『中村義一編『RNAがわかる――多彩な生命現象を司るRNAの機能からRNAi、創薬への応用まで』(2003・羊土社)』『グレゴリー・ハノン編、中村義一監修『RNAi』(2004・メディカル・サイエンス・インターナショナル)』『菊池洋編『RNAが拓く新世界』(2009・講談社サイエンティフィック)』『L・ハートウェル他著、菊池韶彦監訳『ハートウェル遺伝学』第3版(2010・MEDSI)』

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