ヒユ(英語表記)Ganges amaranth
Amaranthus tricolor L.

改訂新版 世界大百科事典 「ヒユ」の意味・わかりやすい解説

ヒユ
Ganges amaranth
Amaranthus tricolor L.

薬用または観賞用に栽培される,インド地方原産のヒユ科の一年草。葉に紅色や黄色などの美しい色彩をもつ変異型がある。種小名tricolor(3色の)はこのような変異にちなんだものである。茎は高さ80~170cm,無毛。葉はひし形またはひし形状卵形で長さ4~12cm,長い葉柄がある。花は日本では8~10月,頂生および腋生(えきせい)の穂状花序につく。頂生の花序は長く伸び,枝分れしない。花は単性花で,雌雄同株。雄花雌花は入りまじってつく。花の基部には先のとがった苞がある。花被片は3枚あり,苞と同長で緑色。雄花には3本のおしべがある。果実は長楕円形で,花被片より短い。中に1個の種子がある。種子はレンズ形,黒色光沢がある。全草薬用となり,解毒剤として利用され,種子は眼疾の治療にされる。若い植物体は熱帯域で広く野菜として食用にされる。ハゲイトウはこれから育成された,花序がすべて腋生となる栽培の系統で,葉形や葉の色彩にはいろいろな変異型がある。葉を観賞するために頂生花序の退化した系統が選抜されたものと思われる。

 ヒユ属Amaranthus(英名amaranth)は約60種を含み,多くの種が熱帯アメリカに分布する。日本には野生種はないが,10種以上が帰化している。中でもアオゲイトウA.retroflexus L.(英名pigweed),ホソアオゲイトウA.patulus Bertoloui,ホナガイヌビユA.viridis L.,イヌビユA.lividus L.の4種は日本全土に広がっており,市街地の荒地に普通に見られる。これら4種は熱帯アメリカ原産といわれているが,現在では汎(はん)世界的に広がっており,本来の分布域は正確にはわからない。アオゲイトウとホソアオゲイトウは花被が5枚あり,後者は前者に比べて花穂が細い。イヌビユとホナガイヌビユは花被が3枚あり,後者は前者に比べ花穂が細く,尾状に伸びる。4種ともに若菜は食用となる。ホナガイヌビユは全草薬用となり,解熱剤,解毒剤に用いる。しばしば栽培されるものにセンニンコクA.caudatus L.(英名Inca wheat,love-lies-bleeding)とスギモリゲイトウA.paniculatus L.がある。いずれも熱帯アメリカ原産。センニンコクは,頂生の花序が尾状に伸びて垂れ下がり,この性質からヒモゲイトウの名もある。中国東南アジアでは食用および飼料用の穀物として栽培される。スギモリゲイトウは花穂も含めて全草暗紅色で,観賞植物として世界中で栽培される。中国や東南アジアでは種子を食用とし,また若い葉や茎を蔬菜(そさい)とする。
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百科事典マイペディア 「ヒユ」の意味・わかりやすい解説

ヒユ

ヒョウとも。ヒユ科の一年草。インド原産といわれ,若葉を食べるため,まれに暖地の畑に植えられ,ときに野生化している。茎は直立し,少し分枝して,高さ1m内外,柄の長い,菱形(ひしがた)状卵形の葉を互生する。葉が紅色,暗紫色,紫斑のあるものなどもある。8〜9月茎頂や葉腋から花穂が出,緑色の小花が球形に集まって,だんご状に咲く。ヒユから育成された観葉植物にハゲイトウがある。

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