翻訳|prolactin
下垂体前葉から分泌される単純タンパク質のホルモンで、魚類から哺乳(ほにゅう)類まで存在する。泌乳刺激ホルモン(乳腺刺激ホルモン(にゅうせんしげきほるもん))、黄体刺激ホルモンともいう。ヒツジのプロラクチンは、アミノ酸残基198個で、分子量2万3300であり、構造も決定されている。ウシでは分子量約2万5000である。ヒトのプロラクチンはアミノ酸残基191個である。
プロラクチンは哺乳類では、乳汁分泌を刺激し、ほかのホルモンとの協同作用により乳腺の発達を促す。ネズミやハツカネズミでは、卵巣の黄体を刺激し、黄体ホルモンの分泌を促す。ハトでは、嗉嚢(そのう)上皮を増殖させ、雛(ひな)の餌(えさ)となる嗉嚢乳をつくらせる。カエルの幼生では、変態の抑制、成長促進などの作用を示す。硬骨魚のあるものでは、皮膚の粘液細胞数を増加させ、粘液量も高める。また、プロラクチンは哺乳類、鳥類、魚類の哺育行動を誘起するという。渡り鳥では、渡りの衝動を引き起こすといわれている。イモリの一種での産卵期の水中への移動もプロラクチンによるという。このようにプロラクチンの生理作用は動物種によりさまざまであるが、脊椎(せきつい)動物全般にわたり、水、電解質の代謝に関係し、浸透圧調節に重要な役割を果たしている。たとえば広塩性の魚であるメダカなどで、下垂体を摘出して淡水に移すと、ナトリウムイオン(Na+)の流出により浸透圧が低下し死に至る。しかし、プロラクチンを注射することにより、Na+が保持され魚は生き残る。哺乳類でも、腸や腎臓(じんぞう)での水、電解質の再吸収促進にプロラクチンが作用している。プロラクチンの分泌は、哺乳類では脳の視床下部で合成されるドーパミン(プロラクチン抑制因子)による抑制を受けている。鳥類では、プロラクチン放出因子により分泌は促進される。魚類ではプロラクチン細胞は、脳の調節以外にNa+濃度による直接的分泌支配を受けているという。
[高橋純夫]
『日本比較内分泌学会編『成長ホルモン・プロラクチンファミリー』(1996・学会出版センター)』
脳下垂体前葉から分泌されるホルモンの一つで,PRLと略記。また乳腺刺激ホルモンmammotropic hormone(MTH)ともいう。魚類から哺乳類にいたるすべての脊椎動物でその存在が確認されている。ヒトのプロラクチンは分子量約2万2000,198個のアミノ酸からなる。ヒトにおけるプロラクチンの生理作用として明らかにされているのは,乳汁分泌刺激作用である。乳腺の発育と乳汁の産生にはプロラクチン以外にも多くのホルモンが関与しているが,プロラクチンは発育した乳腺に働いて乳汁分泌の引金をひき,これを維持する作用をもつ。妊娠中にはプロラクチンの分泌は高まる。プロラクチンの乳腺外作用としては副腎アンドロゲン分泌促進作用があり,また動物では黄体維持作用,水電解質代謝に及ぼす作用があるが,ヒトでは明らかでない。プロラクチンの分泌は視床下部ホルモンのプロラクチン分泌促進因子prolactin-releasing factor(PRF)とプロラクチン分泌抑制因子prolactin-inhibiting factor(PIF)の両者によって調節されており,PIFの支配が優位である。妊娠,分娩に伴う生理的な乳汁分泌以外にも乳汁漏出を認めることがあり,多くはプロラクチンの分泌過剰が原因である。プロラクチン産生下垂体腺腫,甲状腺機能低下症などの疾患でプロラクチンの分泌増加が起こる。
執筆者:石橋 みゆき プロラクチンは動物,たとえばヒツジの脳下垂体からは古く(1930年代の終り)から抽出,純化されていたが,ヒトの脳下垂体から抽出され,成長ホルモン(プロラクチンとアミノ酸配列の一致する部分がかなり多い)と確実に分離できたのは,1970年から72年にかけてのことである。77年に198個のアミノ酸配列が決定された。前述したようにプロラクチンは妊娠中の母体の脳下垂体から妊娠の進行に伴って大量に分泌されるが,そのほか,胎児の脳下垂体,脱落膜細胞からも分泌され,羊水中に高濃度に存在する。ヒトのプロラクチンが量産されれば,乳汁分泌不全症に対する治療に有用と考えられるが,現在はそこまでに至っていない。しかしプロラクチン濃度の非常に高い妊婦の羊水は,抽出原料として将来期待される。
執筆者:倉智 敬一+川田 純
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
プロラクチン分泌が
視床下部・下垂体系の疾患(
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
下垂体前葉ホルモンの一つ.下垂体,妊婦や分娩後の女性の尿,胎盤に存在する.200個前後のアミノ酸残基からなるタンパク質.魚類を用いた下垂体の切除およびプロラクチンの補充実験から,魚類の淡水適応にプロラクチンが不可欠であることが示されている.[CAS 9002-62-4]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…タンパク質の合成を盛んにするが,病的な分泌過剰は,骨や臓器などの過剰な発育と糖尿,高脂血症を起こす。(2)プロラクチンprolactin(PRL) 乳腺刺激ホルモンともいい,発育した乳腺に働いて乳汁分泌の引金をひき,これを維持する作用をもつ。動物では黄体維持作用や水電解質に及ぼす作用があるが,ヒトでは明らかでない。…
…乳汁分泌促進の目的で用いられる薬剤。現在臨床で用いられている唯一のものはプロラクチン製剤で,脳下垂体前葉から抽出して得られたものである。プロラクチンは催乳ホルモンではあるが,その効果発現には,副腎皮質,甲状腺や卵巣などに由来する各種の他のホルモンの関与が必要とされるため,この製剤の適用によってあらゆる場合に催乳効果を上げることは期待しがたい。…
…成人に比べ乳児のほおの脂肪層は厚く,舌の位置が高いので,口腔内に陰圧をつくりやすく,乳首をしごきやすいようになっていて,口腔の構造そのものが授乳に適している。 母の側についていえば,子が乳首を吸う刺激が神経を介して脳下垂体に至り,脳下垂体前葉からプロラクチンが分泌され,それが乳腺細胞の乳汁分泌を促す。と同時に,脳下垂体後葉からは,乳首を吸われる刺激に加えて,精神的刺激によって(子どもの泣声を聞いたり,子どものことを思い浮かべるだけで),オキシトシンが分泌され,それが血行を介して乳腺細胞群のまわりにある筋上皮細胞に作用して収縮させる。…
…副腎皮質ホルモンのアルドステロンは,尿細管でのナトリウムの再吸収を増加させる。そのほか副甲状腺ホルモンは,リン酸塩とカルシウム代謝に関与し,プロラクチンは硬骨魚の浸透圧調節に関係して,淡水中で腎臓に働き,多量の薄い尿を作る。排出【小川 瑞穂】
【ヒトの腎臓】
腎臓は,腰椎の高さにおいて脊柱の左右に位置する1対のソラマメ型の器官であり,後腹壁にある脂肪組織(脂肪被膜)と繊維被膜に包まれている。…
…これに対して,春のイトヨは淡水に移して2時間の間に約10%減少するが,その後回復して4時間後には元の値にもどる。しかし,冬のイトヨにあらかじめプロラクチン(脳下垂体前葉ホルモンの一種)を注射しておくと,淡水に移した場合の浸透圧の変動が春のイトヨとまったく同じである。これはプロラクチンが淡水中でえらからのナトリウムイオンNa+の流失と水の流入とを妨げる作用をもつためであり,川をさかのぼる時期の春になるとイトヨの脳下垂体からプロラクチンの分泌が盛んになることを意味している。…
…また,不足しがちな塩類は餌からとると同時に,環境水中にわずかに含まれている塩類イオンをえらから能動輸送によって摂取し補給している。なお,これらの淡水魚での浸透圧調節には,腺性脳下垂体から分泌されているホルモンのプロラクチンが重要な役割を果たしている。 淡水魚の種類は海産魚に比べると格段に少なく,体もあまり大きなものはなく,産業的には漁業,養殖業を含め,日本の魚類総生産量(トン数)のおよそ2%にすぎない。…
…乳腺の発達を促すのは卵胞ホルモン(エストロゲン)という女性ホルモンである。分娩とともに脳下垂体から催乳ホルモン(プロラクチン)が出て,このホルモンによって乳汁の分泌が開始される。哺乳期の終りになると,腺の分泌部は再び萎縮して,その一部は消失するが,その後も妊娠ごとに活動を起こす。…
…生理的な乳汁分泌は産褥(さんじよく)期の授乳中にのみみられるが,これ以外のときに非生理的乳汁分泌が起こる状態をいう。多くの場合に血中プロラクチン値の上昇が認められる。原因となる疾患には,間脳―脳下垂体系の障害,脳下垂体腫瘍,異所性プロラクチン産生腫瘍,原発性甲状腺機能低下症,薬剤,外傷その他胸部疾患などがあるが,とくに原因が明らかでないものもあり,これを特発性乳漏症という。…
…
[前葉と前葉ホルモン]
腺下垂体の前葉からは数多くのホルモンが分泌されるが,現在までに完全にわかっているものは6種類である。すなわち,成長ホルモン,プロラクチン,副腎皮質刺激ホルモン,甲状腺刺激ホルモン,卵胞刺激ホルモン,黄体形成ホルモンである。このほか最近の説ではリポトロピン,エンドルフィン,エンケファリンも分泌されるという。…
…これらのホルモンには,黄体形成ホルモン放出ホルモン(略号LHRH。濾胞(卵胞)刺激ホルモン放出ホルモンと同一のものと考えられている),甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH),副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH),プロラクチンの放出ホルモン(PRH)と抑制ホルモン(PIH),成長ホルモンの放出ホルモン(GRH)と抑制ホルモン(GIH。抑制ホルモンはソマトスタチンともいわれる),黒色素胞刺激ホルモンの放出ホルモン(MRH)と抑制ホルモン(MIH)などがある。…
※「プロラクチン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加