黄体ホルモン(読み)おうたいほるもん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「黄体ホルモン」の意味・わかりやすい解説

黄体ホルモン
おうたいほるもん

脊椎(せきつい)動物の雌の子宮内膜着床性増殖を誘起したり、妊娠を維持させるのに必要なホルモンの総称で、炭素数21のステロイドであるプロゲステロンprogesteroneがその主要なものである。主として卵巣の黄体細胞から分泌されるが、副腎(ふくじん)皮質からも少量分泌される。またヒトを含む数種の哺乳(ほにゅう)動物では、妊娠中に胎盤からも分泌される。黄体細胞とは、黄体形成ホルモンの作用により、排卵後、卵胞(らんぽう)の顆粒(かりゅう)層細胞が変化してできる細胞であるが、顆粒層細胞自体にも黄体ホルモン分泌能があり、排卵時の卵胞壁の破壊には、顆粒層細胞より分泌される黄体ホルモンが関与していると考えられている。

 黄体ホルモンの主要な作用は、副生殖器(子宮など)内膜上皮の分泌機能の亢進(こうしん)であるが、これには卵胞ホルモンの先行作用を必要とする。まず卵胞ホルモンが内膜上皮細胞の分裂を促進し、ついで黄体ホルモンがそれを分泌型へと分化させるわけである。この作用はとくに子宮内膜において顕著であり、性周期中では「分泌期」とよばれ子宮腺(せん)が発達し、子宮乳が分泌される。このような変化を着床性増殖といい、受精卵の着床が可能な状態となる。また黄体ホルモンは、乳腺に対しては、腺胞の発達を促進する作用があり、妊娠子宮に対しては、その平滑筋を弛緩(しかん)させ運動性を低下させるとともに、オキシトシンに対する感受性を減少させて、妊娠も維持する。さらに、発情や性腺刺激ホルモンの分泌を抑制する。黄体ホルモンはこのほか基礎代謝にも影響し、体温を上昇させる。

 黄体細胞からの黄体ホルモンの分泌は、ヒトにおいては黄体形成ホルモン、および妊娠初期にはヒト絨毛(じゅうもう)性腺刺激ホルモンによって促進される。しかし、ある種の哺乳動物では、卵胞刺激ホルモンプロラクチン、胎盤性プロラクチンなども黄体刺激作用をもつことが知られている。

 ヒトの疾患に対する治療剤として黄体ホルモンが利用される。古くは流産防止に使用されたが、現在は一部の黄体ホルモンに外性器の形態異常をおこすおそれがあるために使用されていない。しかし、受精卵の着床不全のために妊娠が困難な場合(黄体機能不全)には、黄体ホルモンが使用されている。また、子宮体癌(がん)の患者に対して抗エストロゲン作用(子宮筋を肥大させる作用を抑制する作用)を期待して大量投与することがある。避妊のためには、月経開始5日目から黄体ホルモン10~20に対して卵胞ホルモン1の割合の合剤を20日服用することが行われている。

[川上正澄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「黄体ホルモン」の意味・わかりやすい解説

黄体ホルモン
おうたいホルモン

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