ゴマノハグサ科のクワガタソウ属Veronicaは北半球の温帯を中心に300種ほどを産し,一部は南半球の温帯(オーストラリア,ニュージーランドなど)にまで及び,形態的にも多様な群であるが,美しい青紫色の花を穂状につける種が,園芸界ではベロニカの名で広く栽植される。これはキリスト教伝説に語られる聖女ベロニカにちなんだ名である。ベロニカの手巾(しゆきん)にキリストの〈真の顔〉が写ったように,この花の色は〈真の青〉を写しとったものといわれる。日本にもヒロハトラノオやトウテイランのように美しい野生種があり栽植もされるが,庭園に多く植えられるヨーロッパ原産種に次のようなものがある。
ベロニカ・ロンギフォリアV.longifolia L.はヨーロッパ中部からアジア北部にかけて分布する多年草。草丈60~80cm。葉は長披針形で,対生または3~4枚輪生する。7~9月に茎頂に長さ10~15cmの穂状花序に青藍色の小花を密生する。切花や花壇に使われ,耐寒力は強く,花色が白,桃色,濃青色で,大穂などの園芸品種が数種ある。セイヨウトラノオの名もある。
ヒメルリトラノオV.alpina L.(英名Alpine speedwell)はロックガーデンや平鉢植えに適した小型の多年草。原産地はヨーロッパ,中央・北アジアの山岳地方。茎は地をはって茂り,5月には高さ15cmの花穂を立て,青紫色の小花を穂状につけて美しい。日本への渡来は昭和初年。山草として小鉢が往々市販される。繁殖は株分け。用土は通気・排水のよい粗めのものがよい。
執筆者:浅山 英一
エルサレム出身の伝説的聖女。生没年不詳。12年にわたる長血の病(血漏)をイエス・キリストに治してもらったという(《マルコによる福音書》5:25~32など)。彼女の名前は外典の《ピラト行伝》(《ニコデモ福音書》)7章に出てくる。伝説によれば,イエスの肖像画を描いてもらいに画家を訪ねる途中イエスに出会い,画布を彼に渡し返してもらったところ,そこにイエスの顔が描かれていた。彼女はその画布で皇帝ティベリウスの重病を治した。また別の伝説によれば,ゴルゴタの丘への〈十字架の道行〉途上のイエスの血と汗を,みずからかぶっていた亜麻の手巾(しゆきん)でぬぐったところ,その布にイエスの顔が残ったという。〈ベロニカ〉という言葉は,この女性の名前と,布に写ったイエスの肖像の両方を意味しており,ラテン語の〈ウェラ・イコンvera icon〉(〈真の似姿〉の意)から派生したといわれる。美術作品では,キリストの顔のある布を広げていたり(メムリンク《ベロニカ》),イエスの顔をぬぐう場面などが描かれる。祝日は2月4日。
執筆者:篠 雅広
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ゴマノハグサ科(APG分類:オオバコ科)ベロニカ属(クワガタソウ属)の総称。北半球の温帯に約300種分布するが、園芸界では花壇、切り花用として栽培される品種群をベロニカと称している。日本でよく栽培されるのは滋賀県の伊吹山(いぶきやま)に自生するルリトラノオV. subsessilis Carr.を改良したものである。ルリトラノオは耐寒性の多年草で、高さ70~90センチメートル。茎は四角形で直立し、ほとんど分枝しない。葉は対生し、長卵形で先はとがり、鋸歯(きょし)と短毛がある。7~8月、茎頂に総状花序をつくり、青紫色の小花を群生する。本種のほか、ごく矮性(わいせい)のヒメルリトラノオ、高さ50~60センチメートルのスピカタ種V. spicata L.なども栽培される。繁殖はおもに株分けによるが、挿芽も可能である。日当りのよい腐植質に富んだ場所を好み、乾燥を嫌うが、排水が悪いと根腐(ねぐされ)病をおこす。
[神田敬二 2021年8月20日]
属名のベロニカは、十字架を背負って処刑の丘に向かう途中のキリストの顔から流れる汗をハンカチでぬぐったと伝えられる聖女ベロニカの名にちなむが、ベロニカ属植物とは直接の結び付きはない。本属はイヌフグリ、クワガタソウなど変わった名の植物を含む。イヌフグリの名は蒴果(さくか)の形態がイヌのふぐり(陰嚢(いんのう))を思わせることによる。しかし、イヌフグリの英名にはバーズ・アイbird's-eye(小鳥の目)やエンジェルズ・アイangel's-eye(天使の目)があり、和名の由来とは大いに異なる。またクワガタソウは、果実の形が兜(かぶと)のようで、とくに宿存萼(しゅくぞんがく)が、兜の角(つの)のように立つ前立(まえだち)の鍬形(くわがた)に似ることによる。
[湯浅浩史 2021年8月20日]
十字架を背負って刑場に引かれるイエス・キリストを慰めたといわれる伝説上のエルサレムの女性。カトリックの祈祷(きとう)文「十字架の道行(みちゆき)の祈り」の第六留に登場し、血に染まって歩むイエスの姿を見て群集の中から走り出て、顔をふく布を捧(ささ)げたところ、イエスはそのおもかげを布に写して、彼女に返したことが記されている。聖書には出てこないが、この言い伝えから、信徒の尊敬を集めている。
[安齋 伸]
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…外典書や受難劇による主題の潤色がしだいに行われるようになり,受難を悲しむ聖母マリアの姿が行列の後ろに加えられ(ジョット画,パドバ,アレーナ礼拝堂フレスコ画,14世紀初めなど),ついで表現の中心は,十字架の重圧にあえぎ,大勢の不信心者の手により傷つけられる〈苦しみのキリスト〉に移行する(ムルチャーHans Multscher画,ブルツァハ祭壇画,1437)。さらに〈ベロニカ〉などの新しいモティーフも加えられる。一方15世紀以降,この主題は,キリストの死刑判決から埋葬までの14の留(とま)りとして表現され,祈禱や瞑想の対象となった。…
…ルイ9世は,キリストの荆冠を得てパリにサント・シャペルを献堂したし,受胎告知の日にマリアが着ていたという胴着はシャルトルのノートル・ダム(聖母)大聖堂に安置された。受難の日に聖女ベロニカがキリストの汗をぬぐい,ために顔形が写ったという聖顔布(スダリウムsudarium)は教皇代理アデマール・デュ・ピュイAdémar du Puyによって発見され,南フランスのカドゥアンにもたらされた。最初から墓所である場合や,トマス・アクイナスのように死後ただちに分骨された場合は別として,多くの聖遺物は後年奇跡とともに〈発見〉されている。…
…ヨーロッパ原産で,明治のころ帰化し,全国に普通に見られる雑草である。 上記の種類が属すクワガタソウ属Veronica(英名speedwell)は茎の主軸に花がつく群と,主軸は花期に生長を止め,葉のわきから花序を出す群とがある。前者にはイヌノフグリ類,ヒメクワガタ類,テングクワガタ類などがあり,後者にはクワガタソウ類,グンバイヅル類,ヒヨクソウ類,カワヂシャ類などがある。…
…ヨーロッパ原産で,明治のころ帰化し,全国に普通に見られる雑草である。 上記の種類が属すクワガタソウ属Veronica(英名speedwell)は茎の主軸に花がつく群と,主軸は花期に生長を止め,葉のわきから花序を出す群とがある。前者にはイヌノフグリ類,ヒメクワガタ類,テングクワガタ類などがあり,後者にはクワガタソウ類,グンバイヅル類,ヒヨクソウ類,カワヂシャ類などがある。…
※「ベロニカ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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