改訂新版 世界大百科事典 「十字架の道行」の意味・わかりやすい解説
十字架の道行 (じゅうじかのみちゆき)
キリストが十字架につけられるため,ゴルゴタの丘までひかれていく場面。共観福音書では,イエスを手助けするためシモンSimonという名のクレネ人にイエスの十字架を負わせた,と述べられているが,《ヨハネによる福音書》19章17節では,〈イエスはみずから十字架を背負って,髑髏(されこうべ)(ヘブル語でゴルゴタ)という場所に出て行かれた〉とある。
ビザンティンおよび初期キリスト教美術では,共観福音書の解釈に従って表現された。最も古い例では十字架を担うシモンのみが描かれているが,通常,兵士たちに引かれるキリストの前をシモンがひとり十字架をかついで歩む(ラベンナ,サンタポリナーレ・ヌオーボ教会,6世紀初)か,あるいはシモンとキリストがいっしょにかつぐ姿(《アウグスティヌスの福音書》,600ころ)で表現される。11,12世紀以降はキリストの人間的・劇的表現に重点が置かれ,《ヨハネによる福音書》の解釈に従って,キリストがひとり十字架を背負うか,またはシモンに助けられる姿で表現される。外典書や受難劇による主題の潤色がしだいに行われるようになり,受難を悲しむ聖母マリアの姿が行列の後ろに加えられ(ジョット画,パドバ,アレーナ礼拝堂フレスコ画,14世紀初めなど),ついで表現の中心は,十字架の重圧にあえぎ,大勢の不信心者の手により傷つけられる〈苦しみのキリスト〉に移行する(ムルチャーHans Multscher画,ブルツァハ祭壇画,1437)。さらに〈ベロニカ〉などの新しいモティーフも加えられる。一方15世紀以降,この主題は,キリストの死刑判決から埋葬までの14の留(とま)りとして表現され,祈禱や瞑想の対象となった。
執筆者:小林 典子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報