知恵蔵 「福音派」の解説
福音派
福音派がその名に冠する福音主義は、16世紀の宗教改革当時にルターらが唱えた、教会の権威によらず聖書に立ち返ろうとする考えを指す。福音派も含めてプロテスタントは、神学的にはこの流れをくむものではあるが、様々な歴史的経緯からいくつかの会派に分かれていった。19世紀の前後にかけて自然科学などの発展に伴い、プロテスタントの中には自然科学の知見を認める自由主義神学の流れが現れた。その一方で、米英の保守的なプロテスタントの中からは、自由主義神学に異を唱え、進化論などを否定して聖書の霊感と無謬(むびゅう)性を固持するファンダメンタリズム(原理主義)が現れた。米国の福音派の代表的な伝道師であるビリー・グラハムらは、このファンダメンタリズムから出発している。しかしグラハムらは、ファンダメンタリズムが内包する分離主義や反知性主義、伝道についての無関心などを批判する姿勢を示した。それと共に、自由神学に対して一定の評価を与え、ファンダメンタリズムとも自由主義神学とも一線を画する新しい福音主義として福音派の潮流を興した。このため、福音派は穏健なプロテスタント保守派と位置付けられている。
一般的に、このような立場をとるプロテスタントが、自他共に福音派とされる。したがって、福音派とは特定の会派ではなく、会派をまたいだ信仰における姿勢や立場を示す呼称となっている。このため、国によって福音派の定義にも違いがみられる。また、社会問題についての見解などにも会派により多少の差異がある。しかし、一般的には妊娠中絶や同性婚には否定的であることが多い。基本的には聖書の教えどおりに生きることに価値を置くため、旧約聖書の一節を「神がイスラエルをユダヤ人に与えた」と解釈し「世界が終末を迎えるとき、エルサレムの地にキリストが再来する」などとする。
トランプ大統領自身はその遍歴や生活態度から深い信仰心を有しているとは思われていないが、選挙公約に米大使館のエルサレム移転などを掲げ、当選後まもなくエルサレムをイスラエルの首都と認めるとしたのは、有力な支持層である福音派への配慮だとされる。
(金谷俊秀 ライター/2018年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報