福音主義(読み)フクインシュギ(その他表記)évangélisme[フランス]

デジタル大辞泉 「福音主義」の意味・読み・例文・類語

ふくいん‐しゅぎ【福音主義】

キリストの伝えた福音にのみ救済根拠があるとする思想律法主義儀礼制度伝統などを重んずる立場に対し、聖書にもとづく信仰のみを強調する。プロテスタントの思想的支柱

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「福音主義」の意味・読み・例文・類語

ふくいん‐しゅぎ【福音主義】

  1. 〘 名詞 〙プロテスタンティズム

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「福音主義」の意味・わかりやすい解説

福音主義 (ふくいんしゅぎ)
évangélisme[フランス]

16世紀初頭の西ヨーロッパにおいて,宗教改革に先立ちカトリック教会の組織内でその浄化を図り信仰を刷新しようと試みた運動,またその根底にある考え方。すでに中世以来キリスト中心の生き生きとした内面的信仰を復活させようとする〈新しき信心Devotio moderna〉の運動がネーデルラントから北フランスにかけて広まったが,その影響下に育ち,人文主義的方法をも身につけたエラスムスルフェーブル・デタープルは,従来教会が顧みなかった聖書のヘブライ語・ギリシア語原典や古代教父文学の再検討を通じて,新しいキリスト信仰のあり方を求めようとした。前者の《キリスト教兵士提要》(1504)や《校訂ギリシア語新約聖書》(1516),後者の《旧約詩篇校合》(1509)や《校注聖パウロ書簡》(1512)などはその成果であり,当時多くの人の胸に宿った〈いかに信ずべきか〉という問いに答えるものだった。すなわち前者の説く〈キリストの哲学〉も,後者の説く〈純粋信仰〉も,期せずして同じ結論に達していた。第1にはキリスト教の本質を新約聖書,とくに福音書とパウロ書簡に見いだす点,第2にはその当然の帰結として,信仰生活の根本を聖書に見られるキリストの教えと各個人との直接的・内面的な触れ合いに求め,信仰の内面化と日常生活の浄化とを目ざす点,したがって第3には聖書に根拠をもたぬ伝承典礼を二義的と見なし,教義の簡素化を主張した点である。福音(書)を最優先するこの考えかたは1510年代から多くの共鳴を呼び,30年代の末にかけて教会を内部から浄化しようとする動きとなって現れる。20年代ルター派の教会分離,とくに40年代以後カルバン派の成立とともに,この運動はカトリック側からも宗教改革派からも異端・危険視され抑圧されるが,その精神は両派の一部に底流として受け継がれていく。なお,聖書主義を特徴とするプロテスタント諸派の考えを〈福音主義Evangelicalism〉と呼ぶ場合もあるので注意が必要である。
宗教改革
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「福音主義」の意味・わかりやすい解説

福音主義
ふくいんしゅぎ
evangelicalism

聖書に証 (あかし) されている救い主イエス・キリストの喜ばしい訪れ (福音) を重んじる立場。 (1) 伝統,秘跡などを重視するローマ・カトリックに対して,「信仰のみ」「聖書のみ」を主張するプロテスタント,(2) 再洗礼派やカルバン派などに対して,特にドイツのルター派,(3) 聖書解釈において逐語的に受入れる根本主義,(4) イギリス国教会で,高教会に対する低教会,(5) 18世紀の福音・信仰覚醒運動の流れをひくメソジスト派がそれぞれ福音派もしくは福音主義に立つといわれている。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

旺文社世界史事典 三訂版 「福音主義」の解説

福音主義
ふくいんしゅぎ
evangelicalism

『新約聖書』中の「4福音書」の教義・精神に信仰の基礎を求めること
救済は神の恵みへの信仰によるとする信仰義認,教会の教えでなく聖書の言葉に立ちもどる聖書主義,神と人との直接的関係を強調する万人祭司主義が特徴。ルター派・カルヴァン派・再洗礼派・メソジスト教会などはこの立場をとる。

出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の福音主義の言及

【宗教改革】より

…フランスのルフェーブル・デタープル,ネーデルラント出身のエラスムスらが掲げたこのキリスト教的ヒューマニズムの理念は,古典研究を通じての人間形成という立場から,やはり聖書を重んじ,キリスト信仰を原初の純粋な姿に立ち戻らせようとする志向において,宗教改革に大きな推進力を提供した。
[ルターの福音主義]
 ドイツ中東部の領邦,ザクセン選帝侯国の首都ウィッテンベルクで,アウグスティヌス会の修道士であり大学の神学教授であるマルティン・ルターが,1517年10月31日,贖宥の効力に関する〈九十五ヵ条提題〉を公にしたことが,宗教改革の口火となった。深い罪意識と鋭敏な良心から,律法の遵守や善き〈行い〉(功績)による救いの道を説くカトリシズムの教義に根本的な疑いをいだいた彼は,オッカム神学の研究や上司シュタウピッツを通じての神秘主義との接触,しかし何よりも〈神の言(ことば)〉としての聖書への沈潜の中で,救いの問題の新たな神学的理解へと到達した。…

※「福音主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android