華夏(中国)は世界のうちでもっとも文化の卓越した中央の地であるとし,周辺の諸国を文化のおくれた低劣の地と蔑視し,夷狄(いてき)と称してこれを差別する立場。華と夷を分かつ基準を,根源的な血液の違い,人と禽獣の差とする考えもないではないが,多くは道義性の有無,習俗や制度の相違,いわば文化的な優劣におく。だから夷狄も文化が向上すれば,差別を解消して中国に迎え入れ,世界国家の理想が実現するという。しかし実際には,中国文化の優越性への自負があまりに強烈なためか,夷狄の進化をかたくなに拒み,容易に受け入れない。それどころか,しばしば攘夷を叫び,華夏の諸国でも,礼制を乱し道義にそむけば夷狄に転落させる。低劣な夷狄が存在することによって,外にむかって階層制を作りあげることができ,また侮蔑すべき醜悪な夷狄への転落を鳴らすことによって,その背倫を規正し争乱を阻止しようとしたのである。
→中華思想
執筆者:日原 利国
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…国内的には,朝鮮朱子学を唯一の正学とし,朱子学以外の儒教の潮流および仏教を邪学として斥けた。対外的には,華夷思想に基づき,朝鮮を小中華と自認し,清その他の国々を夷狄視した。華夷思想とは,本来漢民族の世界観で,礼の有無によって世界を華と夷に弁別し,自国は礼が備わった〈中国〉,すなわち〈中華の国〉とし,他は夷狄とするものである。…
…攘夷論は開国論と対置される場合があるが,現実政策としての開国論と対立するのは鎖国論である。一方,国際社会のとらえ方という点で攘夷論,というよりもむしろ攘夷論の前提をなす華夷思想と対立するのは,諸国家は独立平等の存在であるべきだとする国家平等の観念である。攘夷論は鎖国論と結びついて発生したが,やがて西洋列強に並立するための海外膨張論などを生み出し,明治維新前後に華夷思想が解体するのとともに消滅した。…
…それが,戦国時代から秦・漢にかけて統一国家へと向かう時期に,思想の次元にまで定式化され,中華思想とよばれる。みずからを夏,華夏,中華,中国と美称し,文化程度の低い辺境民族を夷狄(いてき)戎蛮とさげすみ,その対比を強調するので,華夷思想ともよばれる。 自国の優越性に対する強烈な自負と自信が中華意識となって結晶したものにほかならないが,それは天下において,文化的にもっとも傑出した,地理的に中央の地であるとの矜持(きようじ)である。…
※「華夷思想」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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